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異世界生活190日目
俺達は帝都の北にあるという低階層ダンジョンを探して彷徨っていた。
近隣には村規模の集落しか見当たらず、その村に入って話を聞いてもどうにも要領を得ない。それよりもグリムズ王国が攻め込んできているという話を耳にしているらしく、戦火がこちらにまで及ぶのかどうかを気にしている感じだったな。
「うーん… すぐに見つかるかと思っていたけど、考えが甘かったみたいだね」
「まぁ地図すら満足に無い状況だ、多分東京の人が思う『すぐそこ』と、北海道の人が思う『すぐそこ』と同じくらい乖離していてもおかしくはないけどな」
「そうだねぇ… 面白画像で見た事あるけど、北海道ではショッピングモールすぐそこ! って看板があって、その下に『この先126KM』って書いてあるのを見た事あるよ」
「まぁ126㎞をすぐそことは言わんよな…。さすが北海道だ」
それはともかく、ダンジョン産業として発展していない2階層のダンジョンを探すのは正直骨が折れる。町も無ければギルドも支部を置いていないと言うから、本当に何も無い所にポツンと入り口があるんだろうと予想されるため、徒歩で移動しながら探しているという訳だが… この辺に着いてからもう9日になるというのに見つけられないんだから困るよな。
「小さいとはいえダンジョンなんだから、魔力的な反応とかは無いのかしら?」
「一応探ってはいるんだけどねぇ、ちっとも感じないんだよね」
「仕方がない、今晩にでも上空から町とかを探してみて、昼間に情報収集でもしてみるか」
「せっかく昼型の生活に戻ってたのにね、まぁしょうがないか」
「今日は昼で探すのを止めて休憩だな、そして暗くなったらヘリで探索しよう」
闇雲に探すという事の難しさを心に刻まれ、もう少し安易な方法で探ろう。時間は有限だしそれくらい良いだろう… きっと。
SIDE:ガスト帝国、宰相
ガスト帝国帝都、その中央部に帝国の象徴とも言うべき皇帝陛下の居城がある。そしてつい先ほど、陛下の名に於いて緊急招集がかけられた。
大会議室に集められているのは軍部を掌握する軍務卿、そして第1から第6まである騎士団の団長と副団長。輜重を管理する陸送部隊の隊長などが集められていた。
「宰相殿、此度の招集… いかな用件か?」
「軍務卿… 申し訳ないが此度の招集は陛下が発せられた物であり、こちらに話は一切通されていないのだ。すまないが陛下のお言葉を待ってくれ」
「むぅ… しかし宰相閣下ともあろう者が陛下からお話をされていないとは、もはや宰相としての役割を果たせていないのではないのか? もしそうであるならば、宰相職を辞する覚悟を持つべきだと思うのだがどうであろう?」
「ふぅ… 全くもってその通り。なんだったら今すぐにでも辞職したいくらいなのだがね、後継がおらんのだよ。どなたか才のある有望な者はいないかね?」
「む? なるほど… そういう事であるならば儂もある程度人材は確保してある、そちらの都合で構わないから言ってくれればいつでも出向させようぞ」
「うむ、都合をつけておく」
ふぅやれやれ、軍務卿… ラルゴ伯爵も随分と遠慮が無くなった物だな。上昇志向は一向に構わないが、ライバルとなる家を追い落としてまで地位を求めれば、必然的に国力が下がるという事を分かっていない。
それは当然よな、能力のある者を押しのけて、能力の足りていない者を要職につけているのだ、当然足りていない能力分しか働けないのだから国に取って良い事であるはずがない。
それに… 近頃の陛下は間違いなくナニカに憑りつかれている。あの温厚だった陛下の面影はすでに消え失せたと言っても過言ではないだろう… そして今回の招集、こちらには一切連絡は来ていないが、一体何を話されるおつもりなのか… その内容次第では宰相職を辞する事になりそうだな。
「皇帝陛下の御到着です」
大会議室の入り口を警備している兵からの言葉に、待機していた者達が一斉に立ち上がった。組織としては巨大すぎるため、これほどのメンバーを一堂に集めるのは困難だろう。しかし陛下の招集となれば話は別だ、取り掛かっている仕事が何であれ、すべてに優先する事項だからな。
陛下が大会議室に入室され、上座の座席に座り手を上げる。それを合図に一同が礼を取る。
「それでは会議を始める、皆着席してくれ。それでは陛下… よろしくお願いいたします」
「うむ」
今日の会議の議題すら教えられていないのだ、宰相としての仕事はこれで終わったようなもの。後はその内容がどんなものであるか…
「急な呼び出しにもかかわらず、良く集まってくれた。貴殿らもグリムズ王国の軍勢の事は知っておるだろう? 調子に乗った連中を返り討ちするための会議だと思ってくれ」
出席している者達は陛下の次の言葉を待つ…
「彼奴らはこの帝都を目指し、着々と進軍しているとの報告がある。そして道中にある町を占拠し、我が物のように扱っているともな。
しかし、さすがに無抵抗の民を虐殺するようなことはしていないようなので、そのまま帝都まで進軍させる」
「陛下、帝都まで進軍させるとの事ですが、防衛線はどこに築かれるおつもりで?」
軍務卿が口を挟む… 軍務卿も温厚だった陛下を見下していると感じる事が多々あったが、この場でもそのように振舞うのだな…
「防衛線? 帝都の周囲を囲う防壁の所に決まっているだろう。なるべく多くの敵兵を帝都に集めさせ、そこで血祭りにあげるという事だ。軍務卿よ、余の言う事に不服を申すつもりか?」
「い、いいえ、そのようなつもりではなく…」
陛下の雰囲気が変わった? なんだこの威圧感は… ものすごい圧力を感じるのだが一体どういう事なのだ? それにわざわざ帝都で血祭りにあげるなど、まるでこの地を敵兵の血で呪いにかけるかのような…
「良いか、これは勅命じゃ! これからの帝国の発展のため、帝都に迫りくるグリムズ王国のゴミムシ共をこの地で血祭りにあげてその命を捧げるのだ! 決戦の日は近い… 各々準備に取り掛かるように!」
「「「ははっ!」」」
一応返事はしてみたものの、命を捧げる? それではまるで伝承に出てくる悪魔のようではないか…
各騎士団の団長達も毅然としているが、不安そうな表情を隠せていない。それはそうだろう、わざわざ帝都まで引き込まなくても対処する方法は多々あるからだ。そしてそれらを行わないで帝都決戦を宣言する陛下…
この国は一体どうなってしまうのだ?




