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誤字報告いつもありがとうございます。
異世界生活179日目
マインズの町から西側へ車で1日程度という場所から飛び立ち、南西に向かって飛行してきたわけだが… 気になっていた空を支配する魔物という存在には出会わなかった。
現在午前3時になろうかという所だが、どうやら森の終わりが見えてきたようで、ナイトビジョン越しに平原らしきものが見えてきた。
さすがはヘリだな… 徒歩移動とは比べ物にならない程速い。まぁ当たり前なんだが、以前の事を考えるとこれほど短時間で森林地域を抜けられるというのは有難い事だ。
森を抜けると、街道らしき道… まぁ上空からは線にしか見えないんだけど、それを頼りに西へと方向を変える。
「大樹さん、右側前方に町が見えてきたわ。そこそこ大きいかもしれないわね」
「マジか? そろそろいい時間だし、夜が明けたらその町に行ってダンジョンについて調べてみるか」
「そうね。じゃあもうこの辺で着陸するのかしら? あまり近づくと音のせいで兵が出てくるかもしれないし…」
「そうだな、まぁ出てくる時の事を考えて街道からも外れておくか。じゃあ適当に降りるぞ」
「「了解!」」
ふぃ~。大体8時間のフライトだったが、マジで疲れた。これを仕事にしている人を本当に尊敬するよ… まぁ何事も無かったのは良い事だけどな。
地上に近づくにつれて巻き上がっていく土煙… 一見草原に見えるんだが、まぁ土があるのは当たり前だよな。
長時間の飛行という事もあり、かなり長めにクールダウンをしなければいけないはずだが、さすがにこの場所でやっていると目立って仕方がないだろう… なので、クールダウンをしながら3人でワイヤーで引っ張り、格納庫へと入れていきシャッターを閉じる。
これで音を遮断しつつしっかりと駆動部分の熱を下げれるだろう。金属は急激に冷やすとダメだからな… それくらい知っている。
「ふ~、大樹さんお疲れ様。やっぱり車と違って狭いから、疲れ方が違うよね」
「ああ全くだ。それに初飛行という事もあるからそれなりに緊張していたしな… 何事も無くて良かったよ」
「私もセンサーやレーダーをずっと見ていたけど、空中には何もいなかったよね… やっぱり鳥系だけに鳥目なのかな」
「それはあるかもしれないな。まぁ絶対だとは言わないが、理由の一つにはなっているのかもしれない」
そして轟音を出していたという事もあり、例の如く場所を変更するために徒歩で移動を開始した。音のせいで警戒されているかもしれないから、車を出してライトをつけてしまうと目につくしな… まぁ転ばないよう気を付けながら歩くとするか。
座りっぱなしだった体をほぐすという意味では、徒歩移動は逆に都合が良いしな。
そして格納庫を出た事により、格納庫内部の時間が停止してしまっているはずだから、マイホームに戻って休む前にクールダウンの続きをしてやらないとな… うん、これは忘れないように!
SIDE:神聖教国ガイル
「ようやくビリーカーンの町に着いたか… マインズダンジョンでは掴めなかった聖女の情報… 何としても探し当てなければな」
とりあえず旅の疲れを癒すために宿を探して歩きまわってみるが… どうも妙だな、門を守る兵、町を見廻る衛兵どもが何やらピリピリしている感じがする。これは何かあるかもしれんな。
まずは宿を取り、この町で正体を晒すのはかなり嫌だが神聖教国の正装である神官服に着替えて町に出るか、この方が間違いなく情報収集しやすいから仕方がないな。
まぁ当然デメリットもある。神聖教国の神官職がなぜこのように他国のダンジョン都市にいるのかと、勘のいい領主や代官であれば監視の目がついて回るようになってしまう… さらに面倒な事になると、屋敷に招待され、そこに泊まるよう勧められたりしてしまうのだ。金がかからなくて結構なんだが、それでは情報収集が滞ってしまうからなるべく回避したい事案ではある。
「しかし、逆に貴族側から聖女についての情報を聞けるかも… って言うのは無理か、聖女と言えば国家機密となっている場合がほとんどだ、軽々に口に出したりはしないだろう」
まぁいい。とりあえず現状この町で感じる違和感を探る方が先決だな、衛兵達が平均して若い事… もしかしたらこの地を治める伯爵家の軍が軍事演習などで遠出をしているのかもしれないし、帝国との揉め事があったばかりだ、周辺の警備に駆り出されているのかもしれん。
まぁそれだとすると、町に残っている兵がピリピリしている理由にはならないのだがな…
いや待てよ、着替えて目立ってしまう前に冒険者ギルドに行って軽く聞き耳を立ててからの方がいいかもしれないな… どうせこの町に2~3日は滞在するつもりだったし、出来る事を先にやっておくほうが効率も良くなるだろう。
そうと決まれば早速ギルドへと向かう。
すでに日は高く昇っているので、ギルド内は閑散とは言わなくともかなり人が少なくなっている。まぁダンジョンで栄えている町だ、この時間にまで混み合っているようでは冒険者の質が問われてしまうからこんなもんだろう。
まずは依頼表が貼ってある場所に行き、素材収集以外の依頼を確認してみる。一通り目を通すと今度は冒険者同士の情報交換用の掲示板だな… ここにはメンバー募集等の木札や、情報を求める木札なんかが貼られている。
「ん?」
その中で一つ目についた依頼があった。
─求む、片腕の剣士と回復魔法持ちの2人組の行方─
ふむ? これはもしや、我が国から脱走したマサキとジュンジの事ではないか? まぁ当然と言えば当然だが、逃げるために大森林を越えてここまで来ていたか。しかしあの2人は何かやったのか? こんな所で行方を探されているなんて…
しかし、ある意味これは都合が良いかもしれないな。受付に行ってこの2人が何かやらかしたのか聞いてみる事にするか、なんだったら神聖教国から逃げているお尋ね者だと教えてやっても良いしな。
そう考え、早速受付で話を聞いてみようかと移動を始めたところ、他のギルドでは見かけない看板が目に入った。
「んん? ダンジョン最高到達地点70階層? ほほぅ… どの程度の難易度のダンジョンかは知らないが、随分と深くまで潜っているのだな。70階層でも最深部ではないという事は、かなりの難易度だと思われるが… 何っ!?」
70階層の到達パーティが2組あるが… 一つは『セツゲッカ』、そしてもう一つは『カオリ』と『レイコ』?
セツゲッカについては初めて聞く言葉だし、カオリとレイコという名にしても聞き慣れない… これはアレか? マサキとジュンジの同胞の名前なのか?
「ふふふ、恐らくだがこの者達が勇者らと一緒に召喚された者に違いないな。先にギルドに来て正解だったようだ」
これは上手くギルドから情報を引き出さねばならん、一度ギルドから出て宿を取るか。そしてじっくりと情報を引き出すための策を思案しなければな。
長旅で疲れた頭では良い案も浮かぶまい… とりあえず一度しっかりと休んでおかなければ。
こうしてギルドから出ると、宿を探しに町へと足を向けた。




