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ダンジョンの5階層を進んでいる、霞は元から強かったけどカオリとレイコのペアもうまい事機能していて危なげなく狩っていた。
特にレイコは魔法が使えるのが楽しいらしく、毎日真面目に修練を積んでいたとの事で、連戦してるけど魔力の枯渇するほど減った感じはしないらしい。霞はサバイバルナイフを器用に使いこなし5階層じゃ敵無し状態だった。
武闘家なのにナイフというのは、とてもじゃないが触れたくない場合と言うのがあるらしい、まぁわかるけど。実際現れるゴブリンとかって魔物…臭いし!
それにしてもこの子ら… 強いんだな、改めてそう思った。俺なんか魔石の回収しかしてないよ… これじゃあ大人の威厳が… いや、ここは監督役という事で良しとしよう。
「もう4時だし、そろそろ戻ろうか?」
「そうだねー、全然疲れた感じはしないけど 甘く見たらだめだよね」
一番嬉々として狩りをしていたレイコが引き際を弁えてる? いや、体育会系だからオーバーワークがいけない事を熟知してるのかもしれないな、意外な一面だ。
他にも特に反対意見は出なかったので町に戻って魔石の換金をしようとギルドへ向かった。
今日集めた魔石は、1階~5階まで全部同じサイズだった。出てきた魔物は複数種いたが、魔石の形まで統一されていた。
カオリとレイコのペアが160個の魔石を集めていて単純に160匹は倒したという事だ。そして霞がソロで狩り、120個の魔石を獲得し、美鈴がそれを集めて持ち歩いていた。
「魔石(小)の単価が銅貨5枚、全部で280個あるので銅貨1400枚 銀貨なら14枚ですね」
ギルドの買取カウンターで魔石を売ったけど、これ意外と稼げるのかもしれないな… あくまで俺の感覚だけど。
銅貨1枚が100円相当、銀貨は1万円相当だと考えると… 正味3人と荷物持ちで14万円相当を1日で稼いだことになる。
その内容に満足気な顔をしていたのがカオリとレイコだった。話し合った結果、霞が狩って集めた120個分、銀貨6枚の内 銀貨1枚を美鈴に荷物持ち代として払う事になって 銀貨5枚を手渡した。 カオリとレイコの分も同じように、俺が銀貨1枚もらい、残った銀貨7枚分を2人で分けるという事になった。
前回買い取ってもらったブラッドウルフの分の銀貨3枚は、俺と美鈴で分ける事になり 俺と美鈴が銀貨2枚と小銀貨5枚。 霞が銀貨5枚、カオリとレイコは銀貨3枚と小銀貨5枚をそれぞれ懐に入れ、その予算で食べ物を…という事になった。
ついでにこの世界の宿にも泊まってみたいとの意見が出たので、いっその事宿屋にある食堂で食べようという事になった。
「あら、意外とおいしいわね」
「そうだね、スープはちょっと味薄いかと思うけど」
うん、思ってたよりもマズくはない、十分許容範囲だ。宿は1泊朝晩食事付きで1人小銀貨5枚だった、俺の感覚だと5000円相当なので、この食事付きで小銀貨5枚ならリーズナブルだと言えるだろう
部屋については大部屋が空いてないという事で、俺が1人部屋、他は2人部屋が2箇所となって、美鈴と霞、カオリとレイコのペアになって泊まる事になった。
俺は魔法に関してはほぼ無能だが、聖女である美鈴と魔法使いであるレイコがそれぞれ体を清潔にする魔法『浄化』を覚えてるので、今日はそれを使う事にした。ああ、俺はこっそりマイホームに入って風呂に入ったけどね! 俺だけ魔法使えないからしょうがないね!
ベッドも清潔そうで悪くないな、今日は一日ダンジョンで歩きっぱなしだったから疲れた気がする。気はするんだよ… だけど、例の異世界補正が効いているのか、随分と体力が残っているなと思う。
さて、やる事もないし寝てしまおう。
SIDE:美鈴と霞
「この浄化の魔法も思ったよりすっきりするわね、それに服についていた汚れも消えてしまったわ。すごく便利ね」
「うんうん、消費する魔力も少ないし、覚えて損のない良い魔法だね」
「なんか美鈴とゆっくり話をするのも久しぶりな気がするわね」
「そうだね、あの2人が来てから話す言葉を選ぶようになってたよ。ぶっちゃけ信用してないからね、あの2人の事は」
「そうね、まぁ絶望してた時に自分自身に希望が見えたんだもの、はっちゃけてしまうのも理解できるけど… それと図々しくなるのは別問題だからね」
「それにしても、レイコは意外と魔力育ってたね。まぁ消費魔力の少ない魔法を選んで使っていたんだろうけど、それでも1日狩り続けられるのは大したもんだと思ったよ」
「そうね、一緒にいたカオリが効率良く魔物を見つけられるっていうのもメリットだったわね」
「まぁ普通の初心者なら、きっとあれだけの数は狩れないんだろうね。狩れるんだったら1日で銀貨5枚も稼げたら十分だもんね」
「私はかなり真面目に狩っててあの数だったから、きっとそうなんでしょうね」
「ご飯も思ったりよりまずくなかったし、偶にならこういうのもいいかもしれないね」
「そうね、明日はどうするか決めていないけど、ゆっくり休んで疲れを取らないといけないわ。 ベッドに寝そべって話す事にしましょうか」
「そうだね」
SIDE:カオリとレイコ
「今日は良い感じだったね、日頃のストレスも発散できたし、思ってたよりも稼げたしね」
「そうだね、でもあんなに魔法使っていて大丈夫だったの?」
「大丈夫大丈夫、カオリが早めに敵を見つけてくれるから余裕をもって対処できてたし、魔力の消費を抑えても倒せてたしね」
「私、今日思ったんだけどさ… 1日の稼ぎと比較して宿の値段と食事、それにレイコの浄化の魔法があればあのおじさんに頼らなくてもよくない?」
「うーん、たしかにあのおじさんの存在は便利だけどねー、でもなんか距離を置かれてる感じはしてたよね」
「そうでしょ?私もそう感じてた、なんか侮られてるというか見下されてるというか、美鈴や霞からも同じような感じがしてたの。なんか気に食わなくない?」
「うんまぁ確かに助けてもらったとは思うけど、居心地は良いとは思えなかったかな」
「でしょ? それで私は思ったのよ、今日くらい魔物を倒すのは楽勝だし、自分達で稼いで自分達で使い、ギルドに結構若い男のパーティとかも見かけたし、この際思い切っておじさんから離れてみない? 王国の悪事をバラして回るとかもなんか面倒そうだし」
「いやぁ男とパーティはどうでもいいけど、でも今の私達なら自分の居場所は自分で作れると思うよ」
「それじゃあ決定って事でいい? 私はこのクオリティで暮らせるなら十分許容範囲だわ」
「そうしよっか、私もここのご飯はおいしいと思えたしね」
「それに… 行き先もやる事も決められて動くっていうのが結構嫌だったんだよね」
2人は話し合いを済ませ、ベッドに潜り込んだ。