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誤字報告いつもありがとうございます。
「え? ちょっと大樹さん?」
「どうしたのかしら、気を失っている?」
「とりあえずクッションに頭を乗せて保護しよう。さすがに地べたに直で倒れたらどこか痛めちゃいそう」
「こんな事になるんだったら、布団とか準備しておけばよかったわね…」
「とりあえず無い物は仕方がない。ある物で何とかしよう」
「それよりも気付いた? 大樹さんの肌… 本当に若返っているわ。それに顔も… どうやら予定通り19歳相当になったみたいね」
「うん、良いんじゃない? これならパーティ組んでても親子には見えなくなるでしょ!」
「親子ねぇ… まぁ普通にあり得る年の差だったものね。とりあえず大樹さんが起きるまで待ちましょうか、呼吸も落ち着いているし大丈夫でしょう」
「了解。一応障壁だけ展開しておくね、その方が安全だし」
「ええ、それは任せるわ」
気がつくと、俺は通っていた大学のキャンパスで寝そべっていた。ああ、なんだかとても懐かしいな…
うん、これは間違いなく夢なんだろうな。見覚えのある施設が立ち並んでいるが、他の学生は1人も見当たらない。こんなに明るい時間帯に誰もいないなんてまず無いからな… それに、俺はもう40歳を過ぎている。今時分に俺が大学にいるという事がそもそもあり得ない。
そういえば、俺はいま何をしていたんだったか… こんな所で寝そべっていて良かったのか? そうだ! 仕事は? …………。いや、俺は異世界に召喚されてもう会社員じゃなかったよな? じゃあなんでこんな所にいる? ああ、夢だって自分で思ったよな。これは明晰夢ってやつだろうな、もしかしたら初めての体験かもしれないな…
でもアレだ、もう起きないと。確か何かをやっている途中だった気がする…
「ん…、む?」
「あ、目が覚めた? どこかおかしなところある? 大樹さん」
「ん? 美鈴か。あれ? 俺は何をやっていたんだっけ?」
「大樹さんは若返るために例の果物を食べたのよ。そうしたら気を失ってしまったの」
「そうか… そうだったな。なんか急に体が熱くなったと思ったら、その辺からもう覚えていないな」
「でも大樹さん! もうすっかり青年だよ! もう誰からもおじさんなんて言われないよ!」
「ええ、ちょっと爽やか? そんな感じの青年よね」
「どうしてそこで疑問符がつくのか… まぁ実際、若い頃はモテた記憶も無いからな」
クッションを枕にして寝ていたが、ゆっくりと体を起こして自分自身の確認を始める。
「そういえば、確かに少し声が変わった感じがするな。若い頃はこんな声だったのか」
「見た目の変化もすごいわよ? 特に肌のハリが」
「そうなのか? まぁ俺はその辺気にする事は無いんだけどな」
お肌がどうのなんてぶっちゃけどうでもいい、少し体を動かして今までとの差異を確かめないとダメだろうな。後でトレーニングルームで色々試してみるか。
「俺はどのくらい気絶していたんだ?」
「そうね、ちょうど今5時になったから1時間弱って所だわ」
「そんなもんか、じゃあとりあえずマイホームに入るとするか。1時間も外で待たせてしまってすまなかったな」
「それは全然構わないよ、魔物も出なかったしね」
すっと立ち上がり、マイホームへの扉を出して中へと入っていく… が、もうそのわずかな行動で今までとの違和感を感じてしまうのだった。
何が違うと感じるか… それはとにかく体が軽く感じるという事だ。羽が生えたような… そんな表現を思わず口にしてしまいそうなくらい。
これにより、今後の近接戦闘に関しての戦闘力が上がったのではないかという期待と共に、今度はこの軽さに慣れてしまわないと思うように動けないんじゃないかという不安… だが、こんなジレンマなら悪くはないかな。
「それにしても、これからはアレだね? もっと喋り方も若々しくしないと違和感がすごい事になりそうだよ」
「ん? それはどういう意味だ? 普段の俺は言葉までもがおっさん臭かったとでも?」
「おっさん臭いとまでは言わないけど、人生を歩んできた重みというか、そんな感じをさせる喋り方ではあったかもね。少なくとも19歳の男性が言うような感じではなかったかな」
「まぁそこはしょうがないだろ。喋り方なんてそうそう変わるもんじゃないし… あっとそうだ、鏡を見ておかないとな」
「そうだね、じゃあ私達は夕食の支度をしてくるね」
「ああ、よろしく頼むよ」
2人と別れてトレーニングルームに入っていく、ここには姿見があるからな。しかし何と言うか、見るのが怖いという感情があるのも確かだ。今まで積み上げてきた時間が無くしてしまったんじゃないかって気がするんだよね… まぁ記憶が無くなったわけでもなさそうだし、運動能力についてはこれからトレーニングしながら確かめるとして… よし! 若かりし頃の自分とご対面といこうじゃないか!
思い切って姿見の前までやってきて、改めて自分の姿を確認してみる。
「むぅ… 俺の若い頃ってこんなんだったっけ? 確かに見覚えがある感じはするんだが」
改めて見た自分の姿… 確かに肌のハリに若さを感じる。薄くはなっていなかったが、結構細くなっていた髪の毛も非常に元気が良いようだ… これには安心だな。
「19歳か… 元気真っ盛りな年頃だよな、確かにこれならあの2人に置いていかれるような感じは無くなる事だろう」
ふむ、なんかこれ… 良いかもしれないな! 今後そういったレアな果物を見つけたら乱獲確定だな!
次は身体能力の確認だな。間違いなく感じる体の軽さ… きっと瞬発力とかも今までとは違いがあるだろう。そういった事は先に確認しておかないと、実際に戦闘になってから驚いていたんじゃ危なくて仕方がない。色々試すか!
「大樹さん、食事の準備が出来たわ」
「お? もうそんな時間が経っていたのか。軽く汗を流してくるから先に食べていてくれ」
「そう言う事なら私も汗を流してくるわ、ゆっくりしてきて大丈夫よ」
気がつくと汗だくになるまでトレーニングをしていたな… しかしこの体? この若さ? すごく良いね! 腕力とかは変わっていないと思うけど、なんといっても瞬発力が今までとは全然違うんだ。当然初速が上がれば動きも威力も上がって来る… これは早くダンジョンに行って実戦しないとな!
よし、霞もシャワーをするとは言っていたが、それでも待たせるのは気分が悪い。どうせ寝る前には風呂に入るからサクっと汗だけ流してくるか。




