㉖
朝7時に出発し、2時間も走れば聞いていた通り大きな町が見えてきた。情報収集しつつ異世界料理を食べてみよう、さすがに食べたくらいで即死とかは無いだろう… 生きてさえいれば聖女様がお助け下さる。
まぁ、聖女様聖女様と言うと 美鈴の機嫌が悪くなるんだが…
早速町に入る、一応事前に車を降りて歩いてやって来た。それに門はあれど検問はしていなく、慌てて作ったギルドカードを使う事はなかったね。
前に立ち寄った国境際の町に比べると随分と都会だった、人も多いし町の中でもたくさんの馬車が行き来していた。
「それじゃあまずは…どうする?」
「ご飯! 異世界ご飯を!」
美鈴が超反応を見せた。他の3人も頷いている、まぁ俺も実は興味あるんだけどね。とはいっても、先日稼いだ銀貨8枚、登録料で払ったのが銀貨5枚、つまりお金が余り無い!という事だ。
日本の感覚だと、銀貨1枚で1万円相当だと思うが、この世界での物価がいまいち良くわかっていないので、5人分の食事代となればどの程度かかるか… はっきり言って未体験ゾーンだった。
「と、言う事で… 安く済みそうな感じで食べなきゃいかんな」
「むー、先に依頼を受けてお金稼ぐ? さすがにここまで追手が来るとは思えないけど」
「みんなはどうする? 少し稼いでからそれなりのご飯にするか?」
「どうせなら良い物が食べたいわね、手早く稼ぐ手段を見つけにギルドに行ってみましょうか」
「まぁそうなるよな、それじゃあギルドだな」
【冒険者ギルド・マインズ支部】
建物の入り口にそう書かれている、この町はマインズと言う町なんだな。早速ギルドに入ってみるが、午前10時という事もあってか そんなに混みあっているわけではなかった。
「ねぇ あれ見て!」
美鈴が妙なテンションで声をかけてくるので、言われた方向を見てみると…
『ダンジョンマップ販売中』『初心者用ダンジョン講座』『ダンジョン産希少品リスト』などと書かれた紙が壁に貼ってあった。
「ダンジョン? チョコ○の不思議なアレか?」
「いいんじゃないかな?稼ぐには」
「そうかもしれないけど、危険じゃないか? 俺達は戦う力はあるかもしれないけど、戦いの経験はろくにないんだぞ?」
正直言ってダンジョンと言われてもあまり行きたくないので否定的に言ってみる。
「今後生き残るためにここで経験しておけばいいんじゃない? これからこの国の中央部に向かうわけだし、敵が魔物だけって訳じゃないかもしれないからね」
「まぁ確かにその通りだとは思うけど」
美鈴と話をしている間にレイコがダンジョン希少品リストをもらってきてた、カオリはそれに興味津々と言った感じで、霞は…希少品よりも戦闘経験が積みたいようだ。真面目系女子が戦闘職に就いたらこうなるのか… 真面目に強くなろうとしちゃうんだね。
その後は、霞に受付で情報収集に行ってもらい、俺達はギルド内の壁に貼ってある依頼表を見て 要求される仕事と報酬の折り合いについて調べてみた。
「案外報酬って安いんだな、危険度の対価としてはどうかと思うが… まぁこれは日本人としての感覚なんだろうけど」
「こういうのって朝の早い時間帯に良い仕事は取り合いになって無くなってるんだよ。残っている物はやる価値の感じられないやつって事だと思うよ」
「なるほど、この時間に来てもおいしい仕事にはありつけないって事か。いいねぇそういうの、日本にいた時は… 放っておいても勝手に仕事は増えていったもんだが」
「おじさんって何、ブラック企業で働いてたの?」
「ブラックというか、ちょっと濃い目のグレーって感じだったかな。でも世の中の企業は大体そんなもんだぞ?」
「ふーん、私は学生だったし、進学希望でもあったし、というか、高卒じゃ良い仕事になんて就けないって言われてたからね」
「なんだか大変なんだな若い世代も」
「だからと言って、この世界に残りたいかって言われると… 答えは『ノー』なんだけどね。やっぱり生活水準が違いすぎて…」
「まーなぁ、俺もこんなに夜に時間が出来るのなら 観たかった映画とかのんびり観たいもんな、 ここじゃ時間はあれど娯楽も無い」
「私は正直言ってオタク趣味だから、ここでの生活は厳しいのです」
「急に敬語になるくらい厳しいんだな?そりゃ大変だ」
美鈴と世間話をしつつも依頼表を眺めていたら霞が戻ってきた。
「この町のギルドの一般常識的な物を仕入れてきたわ、詳しい話は外に出てからした方が良いかもしれないわね」
「そうか? 別に依頼を受けなきゃダンジョンに入れないって訳じゃないんだろ?」
「ええ、常設依頼と言うのがあって、後で詳しく話すけどそのまま入っても問題ないわ」
「そっか、それじゃあ一度外に出るか」
ダンジョンの場所は霞が聞いてきたみたいなので先導してもらい町の外に出た。しっかし若いもんの機動力はすごいな、ダンジョンと聞いてから皆のテンションが高い。俺にゃあついて行けないぜ… というか、ダンジョン行くなら俺はいらなくないか? 晩までに出てくればいい訳だし、何より俺は戦闘職じゃないからな。
まぁだからと言って子供達だけで向かわせるには危険度の高い場所ではあるな、まぁ経験次第じゃすぐに俺よりも強くなれるんだろうし、最初の内だけは見てやらないとな。人生経験も少ないからどんな事でパニックになるかわからないし…
俺って案外損な性格なのかもしれないな…
「さて、周りに人がいなくなったから 歩きながら説明するわ」
霞が委員長キャラらしく仕切りだした。その辺の才能はすでに全員が認めているので黙って話の続きを待つ。
「町から徒歩でおよそ1時間の距離にあるのは『マインズダンジョン』ダンジョンが発見されてからあそこに町が出来たみたいね。それで最下層はまだ不明で、過去にAランクの冒険者パーティが40階層まで下りたけど、瀕死になりながら撤退してきたらしいわ。それで初心者は1階~5階層で経験を積んでから進んで行くパターンみたいね」
「Aランクで40階層か、最下層が何階かわからないならどうにも査定しにくいな。それで売れそうな素材とか聞いてきた?」
「ダンジョン内で出る魔物は、持ってる魔力に応じた魔石という物が取れるらしいわ、魔石の価値は大きさに準ずるとの事。まぁ強い魔物程大きな魔石を持っているという事ね」
「なるほど、それじゃあちょっとだけ経験を積みながら飯代を稼ぐとするか。正直言ってこれはただの寄り道な気がしないでもないけど… でも戦闘経験は大事だし、ここは大目に見る事にする」
「よーしダンジョンに突撃しよー!」
レイコが元気よく言うと、カオリもまんざらではない顔をして手を突き上げていた。この2人は特に戦闘狂になりそうだな…