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誤字報告いつもありがとうございます。
異世界生活171日目
今日も健康的に目が覚めた、午前3時だが… まぁいつもの事だな?
ともかく今日は、この世界に来てから最大の局面だと言っても過言では無いだろう。軽い言葉で言ってみれば、過去一番のイベントのようである。
まぁこれからアニスト王を殺すというのにイベントと言ってしまうのは不謹慎この上ないがな、召喚された初日に思った『この野郎!』という感情が、今日を以て完結するかと思うと複雑な心境だ。
先日初めて人を殺したが、精神的な違和感はいまだに感じられていない。だから今日もきっと… 普通にアニスト王を殺せると思う。
もちろん人としての感情まで捨てた訳じゃないので、今の時代にはそぐわないが武士の情けというやつで、一振りで片を付けようと思っている。
自然と1人1殺な感じになってしまったけど、美鈴や霞は平気なんだろうか… 恨みつらみは間違いなくあるだろうけど、あの王女を手にかける事が出来るのだろうか? 自分の心を無視し、無理してでもやるというのならば止めた方が良いんだろうが難しい所だ。
とはいえ、もう自分の行動に責任が持てない年頃では無いはずだ。この世界に来てから精神的にも急激に成長をしているはずだから、ここは個人の思いを尊重させるのが年長としての行いなのかもしれないな。まぁ日本ではそんな事は絶対に考えないんだがな。
「とにかくだ、やる前に無理していないかを確認し、後は本人達に任せるしかないよな。殺伐とした世界に半年弱も揉まれたんだ、判断力は日本にいた頃よりあると思うしな」
よし、そろそろベッドから出て朝の支度を始めるか。今日はある意味儀式的な行為でもあるから、身支度はいつも以上にしておこう。
いつものように顔を洗い、破れた時のためにキープしておいた袖の通していない新品の作業服を身に纏う。余談だが作業服の色は黒だ、汚れが目立たなくて良いよね。
一撃で首を落とすつもりだから返り血は浴びてしまうと思う… つまりこの作業服は今日限りになる可能性が特大だが、ここはひとまず良しとしておこう。
ロビーに出て来て朝のコーヒーを飲む。
気持ちが昂っているのか、不安交じりで緊張しているのか俺には判断がつかない心境だ。ここは一つ、今日使うであろうマチェットの手入れでもしておくかな。
ミスリル製のマチェット、今日まで数百の魔物を斬ってきた自慢の武器だ。ミスリル製だけあって切れ味は非常に良く、刃に付いた血なんかは振り払うだけで綺麗に落ちて汚れなどは全然つかない不思議仕様だ。一応毎日油を染み込ませた布で拭いているせいなのか、刃は光を反射し今日も輝いている… 良い感じだ。
「おはよう大樹さん、相変わらず早いねぇ」
「おう美鈴、おはようさん。早起きなのは寝るのが早いからしょうがないよ… それより美鈴こそ今朝は早いじゃないか」
「まぁね… ちょっと緊張してるのかも」
「そうか、まぁそうだよな。なぁ美鈴、無理をしてるんじゃないのか?」
「ん? いや、そういう事は無いよ。確かに日本にいた頃では考えられないよね、自分が自分の意志で人を殺すなんて。でもね、今日に限ってはようやくこの手で決着がつけれる… 怖いとかじゃなくてむしろ待ち望んでいた、そんな気分かな。幻滅した?」
「幻滅? そんなのする訳無いだろ。俺だって早くあの王を殺したくてうずうずしてるんだ、それに… すでに人は殺してるしな。
まぁ不思議と心的外傷的なストレスは全く感じていないし、俺もこの世界に適応しているんだなって思ったくらいだ」
「私も今日までたくさんの魔物を殺しているし、人間にだけ特別ストレス… なんて事は無いと思うよ。人型の魔物とだってたくさん戦ったし、むしろあの王や王女を人間として見ていないからね」
「確かにそうだな… 俺もあの王は人間じゃなく、人の皮を被った化け物だと思っているよ」
「さて、私も顔を洗ってくるよ」
俺の同意に気を良くしたのか、にんまりと笑いながらロビーから出ていく美鈴。いやぁとても17歳には見えなくなったよな… 精神的にもしっかりしているし、まぁ身長はアレだが。
美鈴に限らず、霞もカオリやレイコだって、この世界に来てからはこの世界に慣れようと成長してきてるんだよな… もちろん俺もそうだと思ってる。
もしも日本に帰れたとしても、こうなってしまえば俺の方が向こうに適応できなくなってたりしてな…
朝6時半になり、全員が起床して準備を済ませていた。
いつもと同じく朝食を取り、ゆっくりと後片付けをする… そして予定していた7時半になる。
「よし、じゃあそろそろ動き出すとするか。誰が誰を… っていうのは昨日決めた通りで頼むぞ。そして… もしも人を殺すという行為に対し、具合が悪くなったとか気分が優れなくなったとか、そもそもやる気が出ないとかがあれば、無理をしないで申告してくれ。あんな奴らのせいで誰かが苦しむなんて御免だからな」
全員に向けて声をかけるが、どうやら全員やる気は満々のようだ。気後れしていそうな表情の者は誰もいなく、むしろ晴々としているようにさえ見える。
「大丈夫のようだな、それじゃあ一度マイホームから出るぞ。外に出たら牢屋の扉を出して、連中をダンジョン内へと引きずり出す。それでいいな?」
「「「「了解!」」」」
同意が得られたため、マイホームから全員出て、その扉を消す。そして牢屋の扉を出して全員で中に入り、それぞれの相手を引きずって外へと…
「お前達、いい加減この拘束を解け! 王であるこの儂に対していつまでこのような仕打ちを続けるつもりだ!」
「そうよ! お父様の言う通りよ! 早くこの枷を解きなさ… え? ここはどこなの?」
外に出すなり王と長女と思われる王女が騒ぎ出すが、薄暗いダンジョン内の景観を見て言葉を失ったようだ。
まぁそうだよな、俺達が牢屋から退室している期間は時間が停止している。だから牢屋に入っていたこいつらにとっては目覚めてからそれほど時間が経っていないと思っているんだろう。
「ここはマインズダンジョンの51階層よ。有体に言えば、ここがあなた達の墓場という事ね」
「さんざん私達をコケにしてくれた礼をさせてもらうよ」
「焼き尽くしてやるわ、覚悟してよね」
「ふん、私はバラバラになるまで刻んでやるわ」
こいつらの顔を見た時から晴々としていた表情は一変し、全員がそれとわかる様な殺気を放っていた。




