252
誤字報告いつもありがとうございます。
異世界生活163日目
早起きなのは相も変わらず、いつものように朝の支度を終えるとコーヒーを飲みながら今日の予定を考える。といっても、今日は移動だけで1日が終わるはずだし考える事はほとんど無いんだけどね。
ああそうだ、カオリとレイコ用の服を頼まれてたんだっけ… あの子らは度重なるダンジョン攻略で、以前渡した服と着替えをダメにしてしまったそうだ。今着ているのはこの世界の物で、購入したんだって言ってたっけ。
まぁ服については俺に頼んだって事だから作業服で良いんだろう、機能的にも十分だしな。まぁ下着だけは起きて来たら選ばせてやるか… サイズの都合もある事だし、俺が選んで作るのもなんか違うと思うしな。
後からダサイとか言われたくないし… そうしよう。
しかし5人での移動だとすると、やはりワゴン車が良いだろうな。3列シートで後部座席だけでも7人乗れるからな、狭いという事は無いだろう。フロントキャビンにも一応3人乗れるようになっているが、さすがにそれだと狭いので却下だな、前に乗せるのは助手席だけでいいよね。
そんな訳で2人分の作業服を製作する。カオリとレイコは美鈴よりも背が高いが霞よりも小さい、そしてスレンダー体系なので… サイズはMでいいか。ズボンはベルトでどうにでもなるし、上着も何なら袖をまくれば問題は無いな。後は裾なんだが… こればかりは本人に合わせてやるしか無いので後回しにしよう。
足のサイズは聞いているのでみんなと同じ登山靴を2足、カオリは無いけどレイコは収納できるみたいだから、2人分任せても良いだろう。
取り急ぎ必要なのはこんなもんかな?
いつもの通り美鈴が起きてきて、その後にレイコ、カオリと続き最後に霞が起きてきた。朝食を終えた時点で7時半だったので、出発までの30分を使ってカオリとレイコに下着を選ばせる。
もちろん長々とやられても困るので即行で決めろと言うと、それでも15分ほどかけて選び終え、製作にかかる。
「いや~、こんなベッド久しぶりだったからぐっすり眠れたよ。いつもならもっと早く起きてるんだけど」
「うんうん、シーツの質が全然違うよね。宿屋のベッドだと虫の心配もあるから毎回浄化の魔法かけなきゃ落ち着かないしね」
「まぁ分かるよ… ゴワゴワのシーツに薄っぺらい敷布団、固くて寝てられないもんね」
「そうね、美鈴のおかげで清潔には出来るけれど、あれでは安眠は難しいわね。まぁもしかしたら慣れるかもしれないけれどね」
「ねぇねぇおじさん、今日の移動は装甲車? きっとその方が良いと思う!」
レイコのやつ… どんだけ装甲車に乗りたいんだよ。確かにアレは、自衛隊が所有しているから稀にニュースなんかで目にする事があったかもしれないが、普通の高校生が興味を持つような乗り物か?
「レイコには銃手席には座らせられないよね、もしも座らせたら不必要に撃ちまくりそうじゃない?」
「そうね… まぁ、私も撃つのは好きだから何も言えないけれど」
「なになに? 銃手席ってどんな席なの?」
「なんだよ、レイコって実はミリオタなのかと思ってたけど、銃手席を知らないんじゃミリオタって訳じゃなさそうだな」
「だって普通に乗る機会なんて無いじゃない? どんなものか興味があるだけだよ」
「今日は昨日と同じワンボックス車だ、そっちの方がまったりできるぞ? 特に座席の硬さ具合が」
「うーん、そう言われると悩むねぇ」
好きなだけ悩むが良い、変更は無いけどな。
予定の時間になったので外に出る。ハイ○ースに乗り込んでいざ西へ、マインズの町へ。
そこでアニスト王と王女2人を始末する… これでなんとなく区切りがつくんじゃないかなと思っている。まぁ殺して区切りにするのはどうかと思うが、少なくとも俺達にとっては帰る事が出来ない以上、故郷にいるはずの友人知人、家族を殺されたも同然だからな。もう二度と会う事が叶わない状況にしやがったこの王は絶対に許せない。
多少殴ったからって落ち着く訳が無いんだよ。
SIDE:アニスト王国第3王女と護衛に選ばれた近衛騎士
ほんの短時間だったはずだけど、私にとっては驚愕であり圧倒的恐怖に陥った空間から解放された。
しかし外に出された時点で空はすっかり暗くなっていて、この状態では歩く事もままならない。
でも、それでも! あの異世界からお父様が召喚した者達の傍にいるより遥かにマシだと言える…
最初は怒るだけの余裕があった。何故第3王女である私がこのような目に遭わないといけないのかと… しかし異世界の者達には、私が持つ地位や権力などは何の役にも立たず、拘束されたまま暴力を受け続ける事になる。
怪我をすれば回復魔法で治され、骨折しても即座に治癒させてくるなんてあの治癒師… 大聖女級の魔力の持ち主ね。
そして私は学んだ。口答えするほど彼女達の攻撃は苛烈になる事を… お姉様達のように残念な頭の持ち主には分からなかったようで、いつまでも口答えをしては叩かれるを繰り返していた。
親にすら叩かれた経験の無い私にとってとても許容できない痛みだったけれど、残念お姉様達が率先して彼女達を怒らせていたおかげか、途中から私に攻撃が向かなくなったのだ。
それでも剣を突き立てられたり、指を斬り落とされたりして何度も気絶し、その都度回復されて意識を取り戻す… もうこんな経験はこりごりなのよ。
だから彼女達の言う提案を受けるしか無かった、今後二度と召喚陣を使わない事、そしてこの事を禁忌として後世に語り継ぐ事。
はっきり言って「その程度の約束で解放してもらえるの?」と思ってしまう程の内容に疑う気持ちもあったが、心と体に刻まれた恐怖心から素直に承諾した。
「殿下、これほど暗いのでは移動は危険です、隊長の死体があるからこの場はダメですが少し離れて夜を明かしましょう」
「そうね… このまま死体を放置していくのは気が引けますが、魔物を呼び寄せてしまうのは困りますわ」
「数日分とはいえ水と食料を持たされていますので、必ず自分が王都まで無事に送り届けます!」
「ええ、期待しているわ。でも… あの者達に報復など考えてはダメよ? そんな事をすれば今度は国ごと消されてしまうわ」
「ぐっ… 分かりました。しかし異世界人の能力を完全に侮っていました」
「そうね、使えると思った勇者や賢者などは役に立たなかったというのに、処理するはずの者達にこれだけの事をやられるとは、正直私も思いもしなかったわ」
まずは生きて王都に帰らなければいけない。彼女達に嬲られていた時は殺して欲しいと願ったが、こうして乗り越えて生き残ったのだ、私はダメなお姉様達とは違う!
約束さえ守れば私の地位は安泰だ、何と言っても私しか後を継げる者がいないからだ。妹はまだ帰ってこれないから私が女王になり国を治めていく…
そう、かなり予定と違ったけど到着地点は変わっていない。
帰ったら文官に召喚陣についての事を記録させ、王家で保存する… これだけでいいのだ。これだけで…
暗くて方角は良く分からないが、異世界人たちが向かった方と逆に行けば王都の方角だろう。まずはここから離れなければ!




