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誤字報告いつもありがとうございます。
朝食後、結局牢屋には入らずにマイホームを出て車に乗る。とりあえずの目的地はマインズの町だな…
「そういえばさ、クリスティンから聞くの忘れちゃったんだけど… 勇者と賢者はどこにいたんだろうね」
「おー! そういえば俺もすっかり忘れてたな。まぁその辺はアニスト王に聞けばいいんじゃないか? なんだったら王女でも良いだろうし」
「そうね、私は王女に聞いてみる事にするわ。寝ている内にやられて連れてこられている訳だから、間違いなく現状がどうなっているのかを把握していないでしょう。そうなると… 当然王女としての傲慢な態度が最初に出てくると思うのよね」
「なるほど! そしてその鼻っ柱をへし折ってやるんだね? 私もやる!」
「美鈴には是非とも同行を願いたいわね、治療役が必要でしょう?」
「霞… どこまでしばくつもりなんだよ」
とりあえず街道を西に向かってひたすら走る。来た時とはまた違った景色のようだな… まぁ少しは景観を眺められる程落ち着いたって事なんだろうな。
まぁぶっちゃけ、王都を出てからはなんというか… 非常にやり遂げた感が心に溢れていて満ち足りたって気持ちがすごいんだよな、これからやる事もあるのにな。それほどアニスト王を捕獲できたというのは満足したって事なんだろう。
「ん? 前方から砂煙が? 騎馬じゃなさそうだけど… なんだろ?」
「アレ… 人が走っているわ!」
砂煙を見つけた美鈴、そしてそれに向かって双眼鏡で見た霞が声を上げた。
というか、人が走ってあんなに砂煙が立つものなのか? どんだけ猛スピードで走ってるんだよ。俺達の乗ってる車と同じくらい巻き上げているな…
「あっ、アレはレイコじゃないかしら… もう1人はカオリ?」
「マジで? 置手紙を見て追いかけてきたって事か?」
「そうじゃないかしら… ああ、向こうも車に気づいたみたいね、こっちに向かって来てるわ」
「ちょっとちょっと、なんか面倒な事になっちゃいそう?」
「しゃーない、一旦止まるか」
しかし、霞が双眼鏡を使ってようやく確認できてるものを走りながら視認するなんて、どんな目をしてるんだよ。まぁ馬車ではそんなに砂煙は上がらないから、それを目安にしていたかもしれないけどな。
とりあえず街道から外れて停車し、車はガレージに入れておく。
万が一何かしらの攻撃をされたら、乗用車程度ではレイコの魔法で大破させられてしまうだろうからな。
「よし、一応美鈴はいつでも障壁を展開できるよう準備、霞にはカオリを頼みたい。斥候だけに素早いだろうからな、俺達よりも霞が適任だろう」
「了解よ。前に別れてから大分経つものね、あれから性格が変わっていても不思議では無いわ」
「レイコの魔法は私に任せてね、一応私もハンマー出しておこう」
ふむ、2人共ちゃんと警戒しているな。当時は我儘なところが見えていたけど、あれから結構時間も経っているから何かしら性格に変化があってもおかしくないからな。
特にレイコ… 王都のギルドの依頼だったとはいえ、数千人を殺していると聞いた… 普通でいられるとはちょっと思えないからな。
そんな訳で、それとなく戦闘準備を済ませると、遠くから砂煙を上げながら接近してくる2人を待ち構える。
いや、マジで足速いのな。本当に車並みの速度… 大体目測で時速3~40キロくらい出てるんじゃないのか? アレ。段々と近づいてくるにしたがい、速度を落としてきているようにも感じるが… 完全に顔まで目視できる距離まで近づいてきた。
何も無いと良いが… どうなんだ?
「おじさん! やっと見つけた!」
「よ、よう、久しぶりだな」
「もう王都を攻め落としたの? 見た所王都の方から移動してたみたいだったけど」
「ん? 別に王都を攻め落としたわけじゃないぞ? まぁ用事は済んだから撤退って感じだな」
「そう、まぁその話は後で聞かせてもらうとして… まず最初におじさんにお願いがあるの! 金を払えって言うならそれなりに稼いでいるから払えるし、聞いて欲しいの」
「お願い? まぁ聞くかどうかは内容にも依るんだが… 聞かないと返事は出来ないぞ?」
ズザッ!
「え?」
なんと! カオリとレイコが突然土下座を始めてしまった。
「お願いします! どうかシャワーを浴びさせてください! 後カレー食べたい」
「え? シャワー?」
「うん。体を清潔にする魔法は確かに使えるんだけど、それはあくまでも清潔さを保つだけの魔法で… もう髪の毛もパサパサだしお肌も乾燥しちゃって、水分が足りないの!」
「そんなの、魔法で綺麗にする前に手拭いかなんかで体を拭けば良かったじゃない。水分を多めにして拭けばある程度乾燥は抑えられるけど?」
「「え…?」」
美鈴の言葉に、そんな手が! みたいな顔をして固まったな… まぁ現代日本人なら体を拭くなんて事は、せいぜい風呂上がりにしかしないだろうから思い出せなかったんだろうけど。
まぁ仮にそれを実行したとしても、シャンプーやコンディショナー、ボディソープを使って洗うような仕上がりにはならないと思うけどね。
「シャワーにカレーねぇ…」
土下座の姿勢のまま、頭を地面に擦りつけている2人を見ながら思案していると、霞がススっと隣に立ってきた。
「大樹さん、ここは2人に恩を売っておいた方が良いかもしれないわ。さすがにこの世界で半年以上も暮らしていれば、以前のような考え方ではまずいくらいの思考に至っていると思うの」
「そうだね、向こう側の情報も聞きたいし… 2人がシャワー浴びてる間に私がカレー作っておくよ」
「そうか? まぁ2人がそう言うなら俺がとやかく言うつもりは無いが…」
こそこそと会話を終えると、2人に向かって声をかける。
「分かった。まぁ同郷のよしみってやつだ、それくらいなら聞いてもいいぞ」
「「本当!?」」
「ああ、ただ以前も言ったと思うが… マイホーム内では俺の言う事は絶対だからな、なにかしらやらかせば、即座に放り出すからな」
「もちろん覚えているよ! どうもありがとう!」
そんな訳で、かなり早いが昼休憩をする事になった。
カオリとレイコには即行でシャワー室に放り込み放置、こうしておけば存分にシャワーを堪能するだろう。美鈴と霞は厨房に入りカレーの準備を始める… そういえばカレーも久しぶりだな。
俺が厨房に入らなくなってからすっかりご無沙汰になってしまったカレーだが、考えてみればあの2人が作るカレーを食べるのは今回が初めてだな。




