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街道らしき道を延々と走らせていた。馬車が通る道なので荒れてはいるが、それでも時速40㎞くらいで走ることが出来ている。
軽四駆のジ○ニーに5人乗ってるせいで、足回りに結構な負担がかかっているのでこれ以上は速度を上げられない事情もある。これでラン○ルとか作れるようになればかなり変わるんだけどな、無い物ねだりばかりしてしまう。
こうして明るい内から街道を普通に走らせている理由は、アニスト王国の勇者召喚と追い出し処刑の事実を暴露するのに、むしろ目立った方が良いだろうと話し合って出した結論だ。俺達も異世界人であることを隠さない方が説得力があるだろうという判断からだ。
よくよく考えれば、俺達の意見が通りやすくするために名を挙げるなんて… 出来たとしてもものすごく時間がかかるよなーと思い直した。
美鈴が言うには、召喚された異世界人は自分の力をあえて隠したり、人里離れてスローライフを願ったりするものらしいけど、こっちとしてはまず日本に帰ることが出来るのか これの真偽を確かめなきゃいけない。確かめるには異世界召喚を行うことが出来る、もしくはその知識がある人間と接触しないといけない。アニスト王国を例に考えると、異世界召喚に関われる者はそう多くはないだろう。恐らく王家が筆頭で、宮廷魔術師? やらなんやら… 国家において上位の者がその知識を持っているのだろう。
そうなると… 王家やらなんちゃらと接触しないといけないわけで… 普通に行動してたら無理だよねって話だ。
なので、むしろこの世界ではあり得ないであろう自動車とかを惜しげも無く見せびらかし、向こうから接触してもらおうという結論に至ったわけだが…
とりあえず街道を走らせている時点で、道中に遭遇する馬車の御者にはすごい目で見られている。 時速40kmほどスピードも出ているので、普通に馬車を追い越してしまうのも目立つ理由だろう。
そんな事をぼんやり考えていたらすっかり日が傾いていた。別に夜通し走っても構わないが、後部座席の3人はきつそうなのでそろそろと街道から外れ、マイホームに入る。
「さてさて、ギルド情報が正しければそろそろ大きな町に着くはずなんだが、 せっかくだしこの世界の食べ物でも食べてみるか? 食あたりしたって聖女様がいるんだし」
「そんな理由で聖女を使うなんて…って思うけど、確かに興味はあるわね」
あらびっくり、こんな軽口に霞が反応するとは思っていなかった。
「ま、色々試すのは明日町に入ってからだな。 気分次第ってやつだ」
「了解したわ、それじゃあ私はトレーニングしてくるわね」
霞が手をあげながら立ち去って行った。真面目というか、毎日訓練を欠かさない辺りはさすがと言うべきなんだろうな。俺は運転しかしてないのにぐったりだよ… さっさと風呂に入って休んでしまおう。
翌朝、昨晩早く寝たせいか 5時には自然に目が覚めてしまった。せっかく早起きしたので製作可能になった物が増えていないか確認してみよう。
「うーん、全てチェックしてたわけじゃないから何とも言えないけど、増えた感じは無いな。一体どうすればレベル?ランク?上がるんだろう… 車なんか6輪の装甲車とかあれば安全性も高まっていいんだけどな、ジ○ニーじゃブラッドウルフがぶつかってきたらベッコリいきそうだからなぁ」
文句を言ってみるも、現状でも十分すぎる程便利なんだよな。慣れって恐ろしい… あんなに素晴らしいと思っていた能力が、20日程度で物足りなくなるなんて贅沢にも程があるな。いかんいかん、工夫してうまくやるならともかく、無い物ねだりで文句を言うなんてカスのやる事だ。大胆だけど謙虚に、工夫は大事。無い物を恨むんじゃなくて、工夫して新しい物を作り出すくらいの根性を見せないとな。
そうだ、使用していない扉の向こうは時間が止まっているのがわかったから、狩った獲物専用の倉庫をどうにかしようと思ってたんだ。ガレージを開けるとどうしても車とかリヤカーが見えてしまうからな、身内だけならともかくギルドで売る時に色々と面倒になるんだった。実際最初の町でブラッドウルフを売った時にもギルド職員に色々と聞かれて返答に困ったんだった。
自分のステータスを呼び出し、色々と確認してみる。ふむ、物置があるな… 広さはどのくらいなのか、これは外に出た時に見てみよう。そして気になる物を発見した… 【牢屋】だ。
これはなんだ? マイホームのシステム的に考えると、扉を閉めて放置すると時間の経過が止まるというのに牢屋って… この中は生き物を入れても時間を止められるって事なのか? それともここだけ時間が経過するとか…
あーでも、盗賊とかを捕獲して警察的な組織に引き渡すとか考えれば、捕まえて引き渡すまでの間の時間が止まるなら非常に便利になるのか。移動中の捕まえた奴らに対する食事やら、怪我させたのなら治療しないと途中で死ぬって事もありえるしな。
何より、汚い話だがそいつらの垂れ流す大小便も考慮しなくても済むって訳か… ま、使うかどうかは不明だなこりゃ。
とりあえず後で倉庫を確認する事にしよう。
「あれー?おじさん早いね」
美鈴が起きてきたようだ 今日の朝食は美鈴の当番だからな。
「昨日早寝しすぎたんだよ、ついでに色々チェックをしててな…」
「まぁ把握するのは大事な事だね。何か新しい発見はあった?」
「あったあった、もうヤバそうなの見つけてしまったよ」
「ええー ど、どうヤバいの?」
「扉の名前はね…牢屋」
「牢屋?犯罪者を拘留するアレ? ええー? 何に使うのそれ?」
「さぁ?とりあえず人間で試すのは怖いから、魔物を生け捕りにして試すのが良いだろうね。 知らんけど」
「知らんのかーい。うん、朝食を作ろう。今の話は聞かなかった事にしても問題なさそうだね」
「多分ね、それで良いと思うよ」
美鈴は呆れたような顔をしながら厨房へ入っていった。まぁ牢屋なんて急に聞かされても使い道なんて思いつかないよね、俺もそうだし。
まぁいい、必要になる日が来るとは思えないけど、検証だけはしておこう。牢屋だけど違う使い道があるかもしれないからな。
こうして異世界生活21日目が始まった。
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