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誤字報告いつもありがとうございます。
あっという間に完成した座椅子とちゃぶ台を収納し、もう一度牢屋へと向かう。向かっている最中厨房の方から2人の声がしていたのでまだそこにいるみたい… これは完全にセーフだな。
牢屋へと舞い戻って、先ほど地べたに座っていた場所で座椅子とちゃぶ台をセットする。まぁ牢屋のある通路にこのセットは違和感しか感じない程シュールだが、致し方あるまい。
うん、これなら尻が痛くなることは無いだろう。
座椅子の座り心地を確かめていると、美鈴と霞がお盆を持って牢屋へと入って来た。
「あ、なんか変なセットが出来上がってる…」
「ここだけ昭和の時代のようね、昔の映画を見ているようだわ」
この凄い違和感を無視するかのように、ちゃぶ台にお盆を乗せ、カフェオレとホットケーキを置いていく。なるほど… ホットケーキなんて久しぶりだが、確かにこのバターの匂いは良い感じだな。カフェオレもそれとなく匂いを出しているが、多分この匂いは届くことは無いだろう… バターの香りが強すぎるからな。
そんなこんなで、王と女性の目が覚めるまでの間、王女を捕らえた後の行動について小声で話し合う事にする。さすがにこの内容を聞かせる訳にはいかないからな…
「それでだ、王女を捕らえた後の行動と言ったって、まずは誰にも気づかれずに王城での作業の全てを終わらせなくちゃ話にならないよな」
「そうね、まずはここで王女の居場所を喋らせてからの行動が肝心よね」
「うん、まずは部屋の前に立っている兵士をどうにかしないと移動すらできないから」
先ほど通路に仕込んだ赤外線カメラの映像を確認すると、一昨日と同じように2人の兵士が部屋の前に立っているのを確認している。前回と同じように全身甲冑というようなフル装備状態だ。
「あの鎧って金属なのかしら? そうであるならスタンガンが効きそうなんだけど」
「でも直接触れられない状況だと悲鳴を上げるスキを与えてしまうんじゃない? 知らんけど」
「知らんけどって… まぁ普通の日本人であれば知ってるわけの無い事だが、じゃあどうするかって事だよな」
「大樹さんの出す牢屋の扉… 射程距離とかあるのかしら?」
「射程? ああ、どこまで離れた場所まで出せるかって事ね… スマン、全然分からん」
「まぁそうだよね… そんなこと試す必要も無かったし」
「大樹さんにあの王のコスプレをしてもらって、油断させたところで仕留めるというのはどうかしら?」
「コスプレ? まさかコイツの服を剥ぎ取って着ろという訳か?」
「そうなるわね…」
マジかー、しかし体のサイズがどうしても合わないぞ? まぁ暗いから着ぶくれすればごまかせるかもしれないが、しかしそれはどうなんだ?
「いや待て、それなら一昨日に考えてた作戦で良いんじゃないか? 美鈴の障壁で強引に押し込むってやつだよ」
「ああ、そう言えばそんな事も言ってたよね。確かに扉越しだから間合いが近くてやりやすいと思うけど、そうする?」
「その方が良いと思うぞ。俺が牢屋の扉を即行で出すから、そこを目がけて障壁で兵士を追いやってくれれば… 後は扉を閉めるだけ」
「問題はどれだけ音が出るか… よね。確かに奥まで行った感じでは、多少の物音では大丈夫だとは思うけれど」
「まぁこれをやってしまったら間違いなく騒ぎになる、護衛がいなくなったとなれば確実にこの部屋に捜査の手が入るだろうし、そこで王の失踪が知れ渡る事になるだろう。
王城の奥深くでの事件となれば、王女やなんかは間違いなくどこかに避難するだろうな」
「つまり、この部屋を出る前… 出来れば今日の日付の内に王から王女の居場所を喋ってもらわないと時間が無いという事だね。これはやはり… 霞にボコってもらい、私が回復するってのを繰り返す必要があるかもしれないね。もちろん王が壊れる前に殴っておくけどね!」
「私はそれで構わないわよ。もちろん顔を殴ったりして気絶されたら時間が惜しいので、手足を折る感じで行こうかしらね」
「ふむふむ、私のハンマーちゃん貸してあげようか?」
「いえ、止めておくわ。さすがに手加減をミスって爆散したら夢に出てくるわ」
「爆散って… それってフルパワーでやらなきゃできないんじゃないの?」
ドキドキ…
まぁあの王に対して拷問するくらい俺は許容するつもりだったし、もちろん俺も殴るつもりだ。しかし手足を爆散って怖すぎるな! やはり霞に武器は持たせない方が良いだろう。もちろんあの王を直接蹴ったり殴ったりすれば、あの王から流れている油がついてしまうから防御が必要だ。
手は魔物を掴む用の皮手袋で良いとして、足はどうしようか? 足用のプロテクターとか作ってやった記憶はあるけど、アレはどこにやったんだっけな。
「ん…、ええ? ここはどこ?」
おっと、王より先にお相手の令嬢が目覚めてしまったようだな。
先ほどからずっと、王をどのように責めるかを議論していた美鈴と霞もその声に喋るのを止め、チラリとこちらを見てくる…
とりあえず現状でも教えてあげようかね。別にこの令嬢から王女の居場所を聞いたって良い訳だし、王はどうせ後日ダンジョンにでも放り投げれば良いんだから、拷問ではなく暴力に変わるだけだ。
スっと立ち上がり、令嬢のいる牢屋に向かおうと歩き出す。
「大樹さん、あなたはここで王が起きるまで見張っていて欲しいの」
「ん? あのご令嬢の相手を霞がするって事か?」
「ええ、ちょっと試したい事もあるし、私達に任せて欲しいわ。もしも途中で王が目覚めた時だけ教えて欲しいのだけど」
「うーん… なんだか俺の出番が本当に無くなっちゃうな」
「何を言っているの? 何もかも大樹さんがいなければ出来ていない事よ。大樹さんは司令塔として今夜も動けるよう体を休めていて欲しいのよ」
「まぁ分かったけど、お手柔らかにな?」
「もちろん分かっているわ。相手が戦える兵だというならともかく、普通の令嬢に手を出したりは… ある程度自重してあげるわ」
「ははっ、手を出さないとは言わないんだな」
「それははっきり言って状況によると思うわ。人の話も聞けないようなバカ娘であれば、げんこつの一つくらい落としても良いと思うしね」
「まぁそうだな、とりあえずそっちは任せるとするよ。王が起きたら教えれば良いんだな?」
「それでお願いするわ。じゃあ美鈴、行きましょうか」
「了解! アニスト王国の貴族令嬢を見極めてみるね」
2人共悪い笑みを浮かべながら令嬢のいる部屋へと入って行った… マジで大丈夫なのか?




