㉓
「情報収集してきたわ、場所を変えましょうか」
霞が戻って来てそう言ってきた。場所を変えるという事はあまり広めたくない内容だったのかな、まぁこの町には長居する気は無いので目立たない方が確かに良いな。うっかり目立ってしまって引き止められても困るしね。
ギルドを出た後、また門から町を出て森に向かって歩き出す。
「で、良い話は聞けたのか?」
「ええ、とはいえこの世界の人にとっては常識的な話みたいだったけど、それでね… 収納系魔法の使い手とマジックバッグ、実在したわね。と言っても希少価値は高いみたいで、やっぱり大きな商人とか貴族とかが抱え込んでいるそうよ。マジックバッグは収納系魔法と錬金術で制作するみたいで、容量と経過時間の軽減、重量削減の性能次第で値段が大きく変わるみたいね。だから拉致されて使い潰されるっていうのも実際あるらしいわ」
「まぁでも… 他にもいるんならある程度は大丈夫そうだな。それじゃあ今日は初戦闘をやったって事でマイホームで昼飯にして、そのまま休息にしよう。ガレージとマイホームの生活空間は別物みたいだから、ガレージの時間経過については明日確認する。遅延してるか止まっているなら言う事なしだな、普通に経過しているんだったらチルドの箱を有効活用するって事で」
「でも時間経過なんてどうやって調べるの?」
「ブラッドウルフ3匹はチルド箱に入れただろ? 時間が経過しているのなら明日には凍っているはず、経過してないんだったらすこし冷えた程度 多分これでわかると思う」
「確かにそうね、それじゃあお昼にしましょうか」
「さて、明日ガレージにある3匹売ったら登録料が払えるからそのまま町を出ようと思ってるけど、なんか意見ある?」
「いいと思うよ、国境越えたといってもここなら追いつかれる可能性はあるし、アニスト王国だっけ? あの国が勇者召喚したって暴露して回るのにも1箇所にずっといたんじゃできないもんね」
「後はアレだな、町を出る前にギルドにはさりげなく伝えておくとするか。グリムズ王国にとっては辺境でもアニスト王国に一番近い町だし、もし攻めてくるんならここが最初の戦地になるだろうから」
「まぁ勇者たちも今頃は戦闘訓練してるだろうし、時間的猶予はあるよね」
「あると思う、それに俺達が逃げ出したことはまだ伝わってないだろうし、余裕こいてんじゃないか」
「ありえるー」
美鈴と軽口を叩き合ってみた。異世界召喚されてから明日でちょうど20日目、ヤンキー君達がどうなったかはわからないが、予定通りに進んでいたなら3日前に国境に着いてるはず。それからすぐに王様の所に戻ったとしても約12日間の猶予があるはず… いや、それは安直すぎるな。緊急連絡用に早馬を出してるかもしれない、というか普通に考えたらそれしかないな。
だとすると…4日前に引き返したとして、馬車で13日分の距離を馬で単騎ならどのくらいで戻れるか…だよな。 やっぱりのんびりはしてられないな。
4人の女性陣に今考えてた事を伝えた。
「そんな訳で やっぱり明日出発は確定という事で。霞には悪いけど受付の人に勇者の事教えてやってくれ、話術が無いときちんと伝わらないと思うから」
「わかったわ、もし『ギルドマスター交えて話し合い』とかになったらどうするかも決めておいた方が良いわね」
「そうだな、時間はかけたくないから… 俺達はブラッドウルフを売った後すぐに町を出て待機して、霞は話をした後に武闘家の身体能力を駆使して猛ダッシュで合流する…とか?」
「まぁ出来なくはないわね、最悪はそうしましょうか」
行き当たりばったりなのは否めないが、とりあえずの方針はこれで行こう。しかしいくら日本でこういった経験が無いとはいえ、今後の事を考えると戦略、戦術について深く知っておかないといけないな。
女子高生にそんな事を望んでもしょうがないし、何よりここに住む人達の世界観や常識なんかの情報を仕入れる事は急務だって事は理解した。日本人としての常識なんか間違いなく通用しないだろうし…
くそっ 日本で生まれて40年も日本人やってたんだ、今更常識変えるなんて無理かもしれんな。しかしそれをやってみせないといけないだろう、唯一の大人である俺が手本を示さなきゃ美鈴達高校生組も独立の意思なんか持てないだろうしな。いや、むしろ若い方が簡単に馴染んでしまうものかも?
なんにせよアニスト王国の悪企みを周辺国に知らしめていかないと、残った勇者達3人が兵器として使われてしまう… もしも本当に魔物の侵攻に遭っているのなら、情報をバラまいてる時にそこら辺の話も聞けるだろう。勇者を支援する~みたいな話が出るようなら考えを改めなきゃいけないけど、あの王や関係者の態度を見れば可能性は低いだろう。
後はガレージか、扉を閉じて無人の状態なら時間の経過は止まっている可能性はかなり高いと思っている。どこから調達されているかは不明だけど、マイホームの貯蔵庫に入っている食材が一向に傷む気配が無いからだ。俺の能力で出した扉を開けば その先は完全に別空間だと思っている。
ロビーを介して個人にあてがっている部屋に入ると、外部の音が完全に聞こえないし、風呂場の湿気も外部には全く漏れていない。まぁその辺の事象を解明するなんて不可能だからスルーするけどね…
考えすぎて知恵熱が出そうだ、もう寝る事にしよう。
異世界生活20日目
予定通りブラッドウルフ3匹を売却後、霞が受付嬢に勇者召喚の話を押し付ける事に成功していた。想定通りギルマスを含めて会議をしたいと言われたが、霞が上手い事言い負かして町を出て、グリムズ王国の王都方面に向かって車を走らせていた。
「おじさんさー この車、もう1台作って私らの誰かが運転覚えて 2台体制にすればいいんじゃない?」
カオリがなんかふざけたことを言ってきた。コイツはいかにも普通そうな顔をしてるくせに言う事やる事馴れ馴れしいんだよな。特に斥侯として動けるようになった途端… 自信持つ事は悪い事じゃないけどもう少し空気読んでもらいたい。
「何度も言ってるけど、マイホームを介して作ったりとかって全部俺の魔力を使っているんだぞ。 不必要な消耗をする気は無いし無免許の人間に車を与えるなんてできないな。経験ない者が走らせるには悪路過ぎるし事故って壊されても困る、それに車の事故は人が簡単に死ぬからな。狭くて嫌だと言うなら お前専用にリヤカー引っ張ってやるからそれに乗ってくれ」
「リヤカーに乗れとか困るんだけど…」
はぁ… 本当に空気が悪くなるな。
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