㉒
美鈴が無線で2匹仕留めた事と血抜きについて話してる間にブラッドウルフの首を切り落とし、木に吊るす。少し離れた場所にガレージの扉を出し、中に入って扉を開けたまま待機する事にした。 これで背後からの奇襲は完全に回避できるからだ。血が止まるまでの間、美鈴が銃を構えて警戒し、その間に俺はリヤカーの改造だ。チルド仕様の軽トラの荷台をリヤカーに載せ、冷やしながら移動できるようにするためだ。
よく考えたら町までの移動はリヤカーを引っ張っていかなければいけないし、長時間常温で放置するのも問題だと思ったからだ。しかもこのチルド箱、俺の魔力と太陽光の2種類で電力なのかは不明だが、動かすための力を供給できる。魔力はあまり使い込みたくないので他で賄えるってのは普通にうれしい。
「おじさーん ブラッドウルフの出血が止まったよ」
「お? 思ったよりも早いな、それじゃあ箱の中に放り込むか。というか、2匹ですでに満載になるな」
「満載どころか扉閉まらないんじゃない? コレ」
「んー 美鈴」
「な、なに?」
「聖女の力で定番の収納系魔法は覚えたりしないのか?」
「いやー そういう魔法って聖女ってより魔法使いなんじゃない? 少なくとも今の私には使えないね」
「そう都合よくいかないか、この世界の魔法についても勉強しないといけないな」
「それはあるね、さくっと借金返してどんどん進んで行かなきゃね。 きっとこの国の王都とかに行けば、人も情報もたくさんあるんじゃない?」
「そうだろうな、俺も国境の町にいつまでもいたくないしな」
『あーあー 霞だけど聞こえる?』
『聞こえるよー 何かあった?』
突然聞こえてきた無線に美鈴が反応する、 何かあったのか
『ブラッドウルフを2匹積んだら リヤカーのタイヤが限界みたいなのよ。とりあえずこれで1回町に戻らないかしら?』
『そうだねー こっちも2匹でいっぱいいっぱいだし』
最大積載量の問題もあった… これは仕方ないな。 まぁいいか、4匹持ち込んで聞いてた通り銀貨2枚で買い取ってくれるなら、登録料も全額払えるわけだしな。多少の余剰金は持ちたい所だけど、さっさと国境から離れたいのは事実だ。
「それじゃあ4匹持ってギルドに収めてくるか、全額払えたなら他の町の情報を集めて移動しようか」
「うんそうだね、ここは王国に近すぎて落ち着かないしね」
中継アンテナを設置した地点で合流し、アンテナは当然回収。霞が引っ張るリヤカーにもチルド箱を載せてブラッドウルフを押し込む。ブラッドウルフ1匹で多分2~300㎏はあるだろう、それが2匹…たしかにリヤカーのタイヤは潰れてパンクしそうだった。しかしなぜか、それだけの重量物を軽々と引いて行く霞… 俺?結構力入れて引いてるよ! それでも補正が効いてるのか整備されてない路面を進むことは出来ている
「小説なんかで良くある 重量を変えてしまう魔法とか欲しいよな。 マジで調べてみるか…」
「マジックバッグってやつだね、 確かにあれば非常に便利だよね」
美鈴と世間話をしていたら霞が突っ込んできた
「あのね…おじさんのマイホームにある、ガレージとかに入れてしまえば解決すると思うのは私だけかしら」
「「はっ!」」
なんと! 使い手よりも良い使い道を発見してしまうとは… これが若さゆえの柔軟さなのか。 しかし良い事を聞いた、早速試してみよう
「うん、わかってたけどこれ便利だな」
「そうだね 最初からやれって話ですねわかります」
「しかしアレだな、収納とか空間系の魔法やマジックバッグとかの存在がどれほどのもんか調べないと、うかうかと他人には見せられないよな。なんかこれを利用するためだけって理由で拉致されそうだわ」
「そのついでに私達も巻き込まれるんですね、嫌なので隠しましょう」
「そうだな、ギルドに着いたら軽く探りを入れてみるか」
ガレージに隠せることがわかったのでさくっとしまい、車を出して町に向かって走り出す。車の中で話し合った事は… 手ぶらで町に入った癖に、狩りに出た途端リヤカーを引っ張って帰ってくる…というのも問題になるんじゃないかって事だ。
まぁ実際その通りなんだが、それじゃあどうしようかって事で、ギルドに着いたら探りを入れる、それを霞が担当して聞いてくるという事で決定した。うん、霞はやっぱり委員長タイプだし理知的だし、角を立てずに聞き出せるんじゃないかという理由だった… 本人も了承している。
一応町に近づいて車をしまう時に 1匹だけ担いで持っていく…という事になり、この重量物を担ぐために 直径10センチ前後の木の枝に縛り付け、俺と霞で肩に担いで町に入った
霞も武闘家という事で、見た目は華奢な女性だが腕力は俺より遥かにあると思う。なんなら霞が1人で担いでも余裕そうな…
「こんにちは。これの買い取りをお願いしたいのだけど いいかしら?」
「あ、はい 丸ごとですので解体場に直接お願いしますね」
霞には探りを入れるという仕事があるので、俺と美鈴とレイコがブラッドウルフを担いで案内された解体場へ向かった。
解体場には… 筋肉質でひげを蓄えた俺と同じ年くらいの男がいた。
「おっ 丸ごと持ってきたのか。じゃあこっちの台の上に置いてくれ」
言われた台にブラッドウルフを置き、ロープは解いて回収 木の枝はそのまま処分してくれと言って置いてきた
「ふむふむ、狩ってからまだ時間が経っていないな これなら満額での買取だな」
「あ、わかりました。それではお願いしますね」
「おうよ 任せときな」
解体職人らしい男と受付嬢の話が終わり解体場を出て受付に戻る。…と、霞が他の受付嬢と話をしているのが見えた。コミュニケーション能力が高いんだな、やはり委員長 優秀だな。
霞が笑顔を見せながら会話しているので、邪魔をしないよう備え付けられていたテーブル席に4人で座り込む。
「うん、こういった対外的な仕事は霞に任せればいいって事が判明した。まぁおっさん相手にするより頭の良さそうな女の子を相手にする方が間違いなく良いもんな」
「私もそこそこ人見知りするから 交渉事は不向きだと思う」
「まぁ…出来る事を出来る奴がやる、共存関係ならそれで十分だからそれでもいいんじゃないか? 美鈴はアレだ、衛生兵だからな 怪我や病気の時に役立てばいいんだよ」
「それはわかってる、出来る事があればちゃんとやるよ」
何事も無ければそれが一番いい、ぶっちゃけ聖女が暇なら平和でいいと思う。