⑳
「おおー、これは町じゃなくて村って規模だね。頑丈そうな防壁があるからそこそこの町だと思っていたけど」
「そうね、敷地のほとんどが畑になっているとは思っていなかったわ」
そうなのだ、俺達はいとも簡単に町の中に入ることが出来ていた。防壁はあくまでも害獣対策であり、特に検問もしていなかったし入場税なる物も無かった。美鈴の感性だとここは村だという事だが、確かに防壁に囲まれた敷地の半分が畑になっており 人口はいいとこ2~300人といった所か。
それでも露店のような商店は存在しており、チラチラと横目で見ながら町の中を進む。
町の人数人と会話してみて知った事がかなりある、情報収集は順調のようだ。その中で重要そうな案件として…
① この国はグリムズ王国である
② 俺達を召喚した国の名前はアニスト王国
③ 冒険者ギルドは存在し、この町にも出張所がある。登録費用はかかるけど、発行されたギルドカードは身分証として使える事。大きな町だと入場するのに身分証の提出義務がある事
④ この町の周囲には狼系の害獣がおり、その毛皮や肉などは売れる
⑤ 使われている金銭は、金銀銅貨である
後は、真黒な黒パンが銅貨1枚、宿屋は小銀貨3枚程度である事と、銅貨10枚で小銀貨1枚、小銀貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で小金貨1枚、小金貨10枚で金貨1枚といった所だ。
パンと宿屋の料金から察するに、銅貨は100円位、小銀貨は1000円といった価値観で考えれば良さそうだな
「それじゃあギルドに行って、登録料がいくらか確認だな。金策するのに狼?を狩る事になるだろうな」
「いよいよ実戦ですね! 私の魔法が火を噴きますよぉ!」
レイコが妙にやる気を出している、まぁ魔法が使えるようになればこうなってしまうのかもな。しかし狼か…俺の技量で銃弾を当てられるのかどうか…
「登録料は1人銀貨1枚になります。 持ち合わせが無いという人向けの救済措置として、登録日から10日間の猶予があります」
「この周辺で狩れる魔物? どんなのがいるんです?」
パっと見30代前半と思われる受付嬢に対し、一応初対面の相手なので丁寧な言葉使いで対応してみる、まぁ社会人なら当然だよね。
良くある小説とかだと… 初対面の王侯貴族相手にタメ口叩く若者がいるけど、日本で教育受けていたならありえん行動だよな。
「この周辺だとブラッドウルフが多く、稀に猪や鹿などの魔物も出ます。ブラッドウルフは赤毛なので一目でわかります、1匹まるごと持ち込みだと1匹銀貨2枚が相場で、品質により買取額は前後します」
「なるほど、それじゃあ全員分登録お願いします。 みんないいよな?」
「もちろんいいよ。 じゃあ早速行きますか!」
返事をしたのは美鈴だけだが、みんな頷いているので大丈夫なんだろう。斥侯がいて前衛後衛治癒職までいるんだから、戦力としてはバランスが良くて優秀なんだろう。実戦で戦えればな…
まぁ日本人がいきなり命のやり取りが出来るとは思っていないけど、少しずつでも経験していかないと生きていけないだろうからな。
全額払い終わるまでは仮登録という事で処理され、登録時に多少の説明はされた。
この組織は『冒険者ギルド』 国家の枠組みを超えた組織であり、国家に従うものではない。登録した者は冒険者と呼ばれ、冒険者には技量に応じてランク付けをする。ランクはA~Fまであり、E、Dまでは実績で上がっていくが Cランクからは試験を受け、合格しないと上がれないものらしい。
Cランクから指名依頼、緊急依頼、強制依頼などを受けなければいけない義務が発生する。これは…Dランクが一番楽じゃないか? まぁそれでも上記の義務依頼は報酬が良いらしく、ランクアップ試験を受ける者はとても多いとの事だ。
Fランクだからといって薬草採集のみという訳でもないらしく、自分に見合った仕事を自分で考えてやってくれという事だ。実績が必要な仕事には、最初からCランク以上などの制限が設けられるみたいだな。
早速5人で町を出る。普通の人は、稼ぎから生活費を捻出しなきゃいけないが、俺のマイホームがあればその辺の心配はいらない。
俺自身に戦闘力は少ないけど、衣食住の揃った安全地帯が移動しているってだけでも十分以上に価値はある。特に俺に対してな! やはりこういった適応力は若い子には到底及ばないのは理解してるからな。
「それにしても今更だけど、言葉…ちゃんと通じるよね。やはりこれは異世界転移のテンプレなんだね!」
今日は美鈴がやけにイキイキとしている。まぁこういったラノベをよく読んでいたらしいし、現状を楽しめるだけの余裕も出てきたんだろう。俺自身も年甲斐も無くワクワクしてるしな。
「確かに、言葉が通じなかったらと思うとゾっとするわね」
「早く狩りに行こうよ!自分の魔法の威力を早く確かめたい。 カオリちゃんは索敵をよろしくね!」
レイコもなにやらノリノリだ。
「使う魔法は選んでくれよ?買取査定に響かないようにな。 とりあえず炎系は禁止かな」
「大丈夫!氷系と風系でいくから!」
とりあえずやってみますかね。
今は良いけど、今後のために索敵用のなんか道具を調べておいた方が良いな。レーダーとかPスコープだっけ? あんなやつ。
「とりあえず拓けた場所にはあまり出ないらしいから、あっちに森っぽいのがあるから行ってみようか」
「周辺の地図とかあればいいんだけどねぇ、このくらいの文明レベルでは地図はきっと高級品だよ。もしくは軍事用とか」
美鈴がラノベで仕入れた知識で答えてくれる、確かに地球でも歴史上そういった事があったって記されているから、大体合ってる…というやつなんだろう。
「今日は5人でやってみて、内容によっては二手に分かれるのもありかもな。 そういった場合の分け方は」
「いや、それを考えるのはまだ早いよ。 特にレイコ やる気があるのはいいんだけど、ちゃんと自分の魔力を把握して攻撃できるように練習しないといけないからね」
「え?自分の魔力を把握して攻撃?」
レイコがなんで?みたいな顔をして美鈴を見る。
「だってそうでしょう? わかりやすくゲームで例えるとね、個人には最大MPっていうのがあって 魔法を使うたびにMPが減っていくわけよ。だから魔力を使うペース配分を考えなきゃって事だね。 魔力の切れた魔法使いはただの人って良く言うんだよ」
「ペース配分くらいわかるよ!伊達に陸上部じゃないからね。でも言いたい事は理解した、つまり 家に帰るまでが遠足って事でしょ?」
「う、うん まぁそうだね」
例えがアレだが理解してるならいいだろう。 さて、遠くに見える森っぽいとこ、遠そうだから車を出しますかね!