⑲
通信機器の故障により更新が止まってしまった事をお詫びします。
SIDE:ヤンキー君
キュルルルル ブオーン
「ふぁ!?何の音だ?エンジン音?」
「んー?一体何なの~?」
ブオーン…
エンジン音が遠ざかっていく。
「なんだあれは?あれで逃げて行ったのか?追うんだ、全員追えー!」
「兵士達が騒いでやがる、あいつら逃げ出したんだな。おい!俺達も便乗して逃げるぞ!」
「わかったけど、逃げれるの?」
「あいつらが逃げて行った反対側に行けばいい、兵士達は追っていったようだしな… 急ぐぞ」
はぐれないよう手を繋ぎ、音を立てないよう馬車から出る。周囲を照らすライトの明かりとテールランプが右手の方向にどんどん遠ざかっていくのが見えた。
「あの方角が国境の方なのか、あいつらと別なルートで同じ方向に行った方が良いだろうな。行くぞ」
ヤンキーちゃんの手を引き、暗闇の中手探りで進みだす
「おい!馬車の中を確認しろ! 残ってる奴がいるかもしれん」
後方から声が聞こえてきた… ヤバい、捕まるわけにはいかない。
手を繋いでいる女の姿すら見えない闇の中振り返ってみると、松明のような明かりが迫ってきていた。音を立てないよう少しずつ離れていく、進んでは振り返り、松明の明かりとの距離を確認しつつ進む。
「声を出さないようにな、少しずつでいいから進んで行こうぜ」
緊張してるのか、返事をせず頷くヤンキーちゃん。
1時間ほど進むと、全然先は見えないが森…というより雑木林のような場所に辿り着いた
「ここなら明るくなっても見つからないかもしれないな。ここで明るくなるまで待つか」
「うん、そうだね。 歩きすぎて疲れちゃったよ」
木の陰に隠れ、座り込んで一息つく2人。兵士達を振り切ったと思いすっかり安心してしまった。
街道を移動してた間は全く出なかった魔物、しかし身を隠す事のできる林の中は別だったようだ。しかも2週間体を拭く事もしてなかった2人の体臭は林の中に潜んでいた魔物に嗅ぎつけられていた。
SIDE:主人公一行
大脱走を決めてから4日が経っていた。この間行動時間は昼夜逆転しており、明るい内はマイホームにて休みながら身を隠し、闇と共に移動して進んでいた。国境に関しては検問などは無く、いつ越えたかわからなかったが、移動速度と日数を考えればここはすでに隣国の領地だろう。
悪路を走るための軽四駆とはいえ、やはり狭いのは厳しかったようで… 特に後部座席の3人は毎回疲れ切っていた。
キャンピングカーをけん引させようかと一瞬考えたけど、これでも十分馬車より乗り心地が良いのだから、これ以上甘やかす必要はないなと判断した。
そして今日、異世界生活18日目。昼過ぎになり、遠くに見える防壁と思われるものを発見した。召喚された地の王都以来、初めての町だった。
「一応車を降りて歩いて向かおうと思うけど、あの距離なら日がある内には着かないだろうな。ここから少し歩いて、適当な時間になったら休むとするか」
「そうだね、ラノベとか読んでいると 町に入るには入場税と身分証が必要になるかもしれないね」
美鈴がそんな事を言ってくる、この世界の金なんか持ってないってね。
「マジか、それだったらどうしようかな」
「とりあえず行ってみないと判断できないから、もしお金が必要なら相談してみようよ」
「それしかないよな、まぁ 日本にいた頃より体力もついてる事だし 少し歩こうか」
3時間ほど歩いてみたが、体調は悪くなっていないな。日本にいた頃なら3時間も歩けば足腰がどうにかなっていそうだけど… まぁ健康であるなら良い事だ。
「目測で町の門まで2~3時間ってとこか、この辺で休むとするか」
俺の提案に全員が賛成し、マイホームへ入っていった。
「考えてみれば、この世界の情報を何一つ知らないんだな 俺達って」
「確かにそうね、知っている事があるとすれば… 命の値段はとても安いって事くらいね」
俺の呟きに霞が反応する、確かにその通りだな 無能だと言って処刑って結論が出るくらいには安いんだろう… 日本じゃそんな事あり得ないからな。
「まずは金銭的な価値観を調べるのが先決かな、使われてる通貨とか1食の値段はどのくらいとかね。定番だと金銀銅貨が使われているんだけど、実際見てみないとわからないよね」
「まぁとりあえず対策として、手ぶらで外を歩くのはおかしいと思うから迷彩模様のリュックを人数分制作してある。それに各々荷物を詰め込んで背負ってもらう。汗を拭くタオルだとか、ペットボトルとか、つまみ食い用のパンとかだな」
「設定とかはどうするの? 例えば私達は旅人だとか、そういうの。王国の悪事をバラすにしたって、隣国とはいえ王国に近すぎるから却って危険になるかもしれないよね」
「そうだなーその辺どうしようか」
話をしつつ美鈴がニヤついている。
「普通に考えて、おじさんが1人に若い女の子が4人…ハーレムかよ!なるんじゃない? 町にいる男の人からヘイト稼ぎそうだよね」
「まぁ顔つきやら髪の毛の色から見れば、同郷だっていうのはわかると思うけどな。王国の人は金髪やら明るい茶髪が多かった気がするから」
「ラノベにありがちな赤い髪とか青とかピンクとかは見てないよね」
「ありがちなのか…ピンクとか」
「すっごいありがちだね! もう王道と言ってもいいくらい。大体ピンク髪で愛らしい外見って言ったら、魅了魔法使いで王子とか貴族令息なんかを誑し込むのが定番」
今までで一番いい笑顔でドヤる美鈴… うまく逃げてこられた事で殺されるかもしれないという恐怖感から解放されたからこんな笑顔を見せれるようになったのかね、多少の達成感を感じるがまだ終わったわけじゃない、むしろ始まったばかりだ。
美鈴の妄想は放置しておくとして、やはり問題はこの世界の常識を知らないという事だろう。町の出入りにお金がかかるんだったら稼ぐ手段も必要になるだろう。
「やっぱりアレか、冒険者ギルドみたいな組織があれば加入するのが良いんだろうな」
「うんうん、それでギルドに入ると絡まれたりするのが定番なのよね。そんな奴がいたら霞に蹴ってもらおう」
「美鈴でも十分に蹴り飛ばせると思うわよ?」
「いやいや、私は背が低いから舐められると思うんだよね」
美鈴と霞、この2人も最初は敬称をつけていたけど、いつの間にか名前を呼び捨てにするようになってたんだな… そして俺はおじさんのままと、まぁいいんだけどね、おじさんの自覚はあるし、名乗った時は別行動する気でいたから名前は覚えなくてもいいって言っちゃってたし。その内俺の名前が『おじさん』だと勘違いされそうだな。
「とりあえず、明日は日が昇ってから行動するから朝の7時に集合、朝食を取ってから町に向かうって事にする。気が抜けたからって寝坊しないようにな」
「「はーい」」
異世界生活18日目。隣国に入り初めての町に 明日入る事になる、問題が起きませんように…