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誤字報告いつもありがとうございます。
異世界生活120日目
バナナスカーレットを発見してから5日経ったが、その後もレアドロップの調子が良くて、昨日3個目のバナナスカーレットを手に入れていた。探索のペースはやや急ぎ気味だけど、討伐のペースはほぼ変わらないから2日に1個はドロップしている事になる。まぁ分母が低すぎて参考にはならないかもしれないがな。
そして俺達は昨日の内に50階層に到着していて、今日これからボス部屋を探して探索を行う事になる。
通常ドロップである普通のバナナや、一緒に現れる他の種類のトレントのドロップも結構拾っており、おやつとして出されている。
「後はアレだな、ボス部屋にいる魔物の種類がどんな物か… だな」
「そうね、上位種と希少種の区別をどうつけるのかは不明だけど、レアドロップする魔物がいれば周回する価値はあると思うわ」
そう、今は朝の6時なのだがなぜか霞が起きてきているのだ。理由を聞けば、今日到達するであろうボス部屋の魔物とドロップが楽しみで目が覚めたとの事… 遠足前の小学生かよ! その点美鈴は平常運転らしく、いつも通りに起きてきていた。
「とは言っても、40階層から50階層まで結構かかるんだよな… 周回するって言っても1周するのに2週間程度かかるとして… 何周もするとなると数か月単位になるぞ?」
「それでも価値はあると思うわ。レアじゃなくても果物がドロップしている訳だし、実入りは十分じゃないかしら」
「いや、そうじゃなくてだな。帝国内のダンジョンを潰して地味なダメージを与えるって言う最初の目標的な意味で」
「そうかもしれないけど、このダンジョンを潰す前に採り尽くしてしまいたい… 多分美鈴も同意見だと思うわ」
「まぁ確かに、これほどのレアドロップの存在を知る前に採り尽くされ、挙句に潰されたとあっちゃ計り知れないダメージがあるかもだけど」
「帝国が知らなければダメージになっていないという考え方も出来るわね」
まぁその辺はどうでも良いんだよな… 知らないの?ざまぁ!って感じに煽れるネタになるんだろうし、何より一つも教えないで、この情報そのものを隠蔽して後は放っておけばいいさ。
「ともかく! この情報は現状私達しか知らない事だし、しっかりと享受してしまっても問題は無いと思う。そして万が一周回中に他のパーティが40階層のボスを突破してくるような事があれば… その時にこのダンジョンを潰しちゃおう」
「そのためには最奥の階層を把握しておく必要があるわね、とりあえず今はこのまま最下層を目指して進むという事かしら?」
「そうなるね。ゴールが分からないのに慌てて潜るのは危険だと思うし、把握だけは先にしておいた方が良いと思う」
「なるほどな… 俺もその意見で良いと思うぞ。コアの場所さえ分かっていれば、ダンジョンの転移陣を使って直行できるしな」
「うんうん、そうすれば他のパーティが進んでこれたのを確認してからでも大丈夫でしょ?」
まーなんだ… 頑張って進んできた冒険者には悪いと思うが、帝国内のダンジョンだったと諦めてくれ。まぁ多分レップー剣の連中は士気が下がっていると思うからしばらくは動いて来ないと思うが、他のパーティの実力は良く知らないからな… 絡んで来る奴が多すぎて途中から避けて進んできたし。
「よし、朝の会議はこのくらいでいいだろ。そろそろ探索を始めるとするか」
「「了解!」」
さっくりと朝食を済ませ、装備を整えてダンジョンに出る。できれば今日中にボス部屋まで探し当てたい所だが、果たしてそこまで行けるかどうか… モチベは高いが奥に進むにつれて難易度は上がってきてるはず、体感できるほど変わっているとは思えないけどダンジョンなので気を引き締めないとな。
「そうだ、トレントに焼夷弾が効くのかどうか試したいんだけど、一度やってみて良いか?」
「焼夷弾って濃い目の燃料ごとぶつける弾よね、それってダンジョン内で使っても大丈夫なのかしら?」
「わからん! だから試してみたいんだよ。ボス戦で有効になるかもしれないだろ?」
「うーん、私と美鈴がいれば大抵の魔物は倒せると思うけれどどうなのかしら」
「まぁ使ってみるのは良いと思うよ、こうした閉鎖的空間だけどダンジョンだし酸素がーって事は無いと思う。それにトレントは腕というか枝? の振りは速いけど移動そのものは遅いから炎上しても大丈夫なんじゃないかな」
「そうそう、ゲーム的に言うとスリップダメージって言うんだっけ? 継続的にダメージを与える事を。それも含めて試そうと思ってな、でも周知しておかないと危ないだろ? 近接攻撃大好き人間しかいないんだから」
「・・・」
あからさまにしょんぼりする霞… 何故だ!
別に何度もするって言ってるわけじゃないし、ちょっとくらいお試しさせてくれてもいいだろうよ。な? 別に前衛職を蔑ろにするわけじゃないしいつも頼りにしてるじゃないか。
「霞、なにもちょっとだけどんなもんか試すだけだって、別に出番を取ったりしないから」
「そう… ちゃんと役割を残してくれるんなら」
「残す残す! な? 美鈴」
「そうそう、どうしてこの話でそんなに落ち込むのかなぁ」
「別に落ち込んでるわけじゃないわ、ただ役に立てる機会が減るのかと思って…」
「何言ってんだよ、霞がいるから安心して後方から色々試せるんだよ。前衛が役に立たない訳無いだろ?」
うーん、一体どうしたんだ? 霞がここまでへこたれるのは初めて見るんじゃないかな。これはちょっと、しっかりと話を聞いた方が良いのかもしれん。
一緒にいる事に結構慣れてきているとはいえ、さすがに女子高生がどんな言葉でへこんでしまうのかなんて全然知らないからな。
考えてみたら… 俺は美鈴の事も霞の事も自分から積極的に知ろうとしていなかった気がするな。
まぁ出会った頃は、すぐにでも解散して1人で行動しようと思っていたから知る必要は無いと判断していたし、意外にうまく噛み合ってパーティとして行動するようになっても俺だけは全然変わろうとしなかったのかもしれない。
今では相棒として頼りにしているし、若さならではの考え方にも共感できる事も多々あった。割と賑やかな毎日も悪くないんじゃないかって思っている自分がいることも自覚していた…が、それでも一線を引いたまま客観的な対応ばかりしていた… と思う。
「突然だけど、今日はちょっと休日にして、のんびりしてみないか? ゆっくり話をするでも良いし」




