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誤字報告いつもありがとうございます。
「チェリーゲットー!」
「調子いいわね。おじさん、食料の保管をお願いするわ」
「はいよ、丁重にお預かりいたしますっと」
昼休憩も終わり、パワーでゴリ押ししながらズンズンと攻略を進めていく。魔物との遭遇も結構あり、当然ドロップ品であるチェリーも結構な数が集まってきた。
きっと今夜のデザートになるんだろうが、個人的に俺はチェリーという物はあまり食べないんだよな。苦手という訳でもないが、わざわざ選んで食べようとはしないって感じだ。
俺は庶民派だから、果物といえばリンゴやミカン、時にはちょっとリッチにメロンといった物ばかり食べてきた。まぁ俺の趣味はどうでも良いか、俺が食べなくても美鈴と霞が綺麗にやっつけてくれるだろう。俺はアプルだけでいいよ。
探索は順調だ、程よく緊張感を残しつつもちゃんとリラックスし、油断なく歩みを進めている。俺は元々ビビリだし、石橋を叩いて渡るという性格だったから安全確認は怠らないが、美鈴と霞もきっちりと安全確認をやっている。良い事だな。
普通これだけ余裕で魔物を倒していれば、どこかで余裕と驕りを履き違えたりするもんだが、この子達はそう言った所が全然見えない。やっぱり命の危険がそこかしこに存在する異世界だという事を忘れていないようだ。
ま、道中の会話は緊張感のかけらも無いんだけどね…
ともかく、つまらないミスで残りの人生を棒に振ってしまうような事だけは無いよう、俺もしっかりと心がけよう。いくら俺達のパーティに聖女がいるとはいえ、痛いのは嫌だからな。出来るもんなら俺も防御に極振りしたいもんだ… 無理だから諦めるけど。
いや、出来るのか? 実際に俺を含めた全員が身体強化が使えるわけだが、霞のあの蹴りでも足が壊れない程の防御は出来てるって事だもんな。ゴーレムの手足を吹き飛ばすあの蹴りでだ… ちょっと興味が出てきたな、今晩トレーニングルームに入って色々試してみるか。
SIDE:レイコ
「良い物が買えてよかったね、これでダンジョン内で寝泊まりする時も体が痛まないで寝られるよ」
「うん、ちょっと高かったけど、その分これから稼げばいいもんね」
「これからダンジョンに入っちゃう?」
「うーん、まぁ新しい武器の使い心地を確かめるって意味では行った方が良いよね」
ちょうど今買い物が終わったところだ、カオリ用の武器とベッド程とは言えないけど大きめのクッションっぽい物。そしてダンジョンに籠る為の食料品を購入済みだ。
カオリ用の武器は予定通り鈍器となった。見た目はどう見ても野球で使うバットの形状で、先端にトゲトゲが付いている。所謂『鬼の金棒』的な武器で、名前は無いそうだ。
残念ながら自分用の武器は予算の都合で後回しになったけど、まぁ私は魔法使いだし急ぐ事も無いと思う。
しかし、ダンジョン産の素材を使ったというクッションみたいな物は非常に良かった。手触りも弾力も十分にあり、今まで見たいにローブやマント、毛布といった薄っぺらい物を敷いて寝るなんて事は無くなりそうでちょっと嬉しい。1個金貨1枚もしたけど、思わず4個も買っちゃった。
寝る時は2個敷いて使えば足を伸ばして寝られるよ! 障壁があるから寝ている時の安全性はばっちりだし、ダンジョン攻略がこれで一層捗るよね!
「よし、それじゃあダンジョンに入ろうか」
「おっけー!」
今度はアレだな、調理器具でも買おうかな。ダンジョン内で普通にご飯が食べられるようになれば、心の平穏もきっと保たれるはず。そのためには稼がないといけないね!
転移陣を使って50階層にやって来る。ここからはゴーレムのフロアだ… 早速カオリが扱う鈍器の破壊力を試してみよう。ダメなら40階層に行ってオークやオーガを狩り尽くし、金策だね。
「よっし、行くよ!」
岩でできたゴーレム… ゲーム的に言えばロックゴーレムといった魔物に向かってカオリが走り出す。斥候職なだけあって足は速いし瞬発力もある。機動力だけなら元陸上部の私と対等以上の動きを見せるカオリが力一杯金棒を振るう…
グシャッ!
「ぅおお… ひどい音だ」
「見た見た? ゴーレムの足を砕いたよ!」
「見たよ、岩のゴーレムは余裕みたいだね」
「そうだね、この金棒がちょっと重いけど、その重さが良い感じで威力に転換されてる感じ?」
「じゃあサクサク進んで鉄のゴーレムで試してみよう」
「おっけー!」
まぁ岩のゴーレムは私のエアバーストでも一撃だし? これくらいやってもらわないとね。別にカオリの攻撃力が大幅に上がったからって驚いてるわけじゃないよ!
鉄のゴーレムが出てくるのは45階層からなので、倒さないと通れない状況以外では戦闘を回避し、一目散に駆け上がる事にした。岩のゴーレムのドロップって鉱石だから、売っても大した金額にならないのよね…
でも鉄のゴーレムからドロップする鉄の塊、アレは結構良い値で売れたりする。ギルドから鍛冶屋とかに転売してるんだろうね、需要は結構あるみたい。だから稼ぎと特訓を両立させるには鉄のゴーレム相手が一番なんだよね、岩のゴーレムが余裕ならさっさと鉄に行こう。
SIDE:神聖教国、ガイル
「ちっ、まだ足取りは分からないのか? 俺は聖女様を探す任務があるんだ、これ以上待てないぞ?」
「よろしいですよガイル様。アニスト王国の勇者と賢者の顔は解っていますから自分達で捜索を続けます。それよりも聖女様の方が大事な任務です、どうぞ優先なされてください」
「そうか? ではもう行くぞ。いくら勇者と賢者がひよっこだとしても、だてに加護を持っている訳じゃないからな。アイツラが一皮むける前に必ず押さえるんだ」
「承知いたしました。しかし心配は無用です、片腕の勇者など相手になりませんから」
ふん、油断しやがって。
しかし俺には最優先任務があるからこれはこれで都合が良い、捜索が上手くいかなかったとしても、もう俺の手は離れたから責任問題は無いからどうでもいい。
それよりも聖女様の事だ。勇者も賢者もその容姿を良く覚えていないなどと… なんたる罰当たりめ、取り押さえる事が出来たなら厳しく罰を与えねばいけないな。
ああ、その前にそれぞれの血だけは残しておかないといけないな。勇者と賢者… その子孫に能力が受け継がれるのか検証しないといけないしな。
しかしそうなると聖女様のお世継ぎの種を誰が… という問題が残る。恐らく猊下の血縁の者から選ばれるのだろうが、ぜひともこの俺も候補に入れていただきたいものだ。
そのためには何としても聖女様を見つけ出し、我が国へとお連れしないといけない。情報は少ないが、少なくともアニスト王国から西に向かったという情報だけは入っている、その話が真実であればグリムズ王国にいるのではないかと…
「ああ、待っていてください聖女様、すぐに俺が駆けつけますから、我が国を導くためにご指導ご鞭撻を…」
こうして俺は馬車に乗り込み、西へと走らせたのだった。




