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誤字報告いつもありがとうございます。
「いない! もうどこにいるのよー!」
ダンジョンという閉鎖空間で絶叫に近い叫び声を上げているのは美鈴だ、いないと言っている対象はもちろん金色のトレントの事だ。
レア種説はどうやら正解のようだな… 最初に見つけてからかなりの数を倒しているが、全く見かけなくなっているのだ。
もう間違いなくレア種であろうトレントを探してうろついてはいるものの、そろそろモチベーションが下がってきてる頃だろうな… 休憩でも挟むか。
「よし、ちょっと一休みしようか。それと美鈴… 物欲センサーって知ってるか?」
「知ってるよ! 私もそんな気は薄々してたよ」
「知ってるならば良し、ちょっと休憩でもして気分を変えないか?」
「うん… わかった」
霞も同様に思っていたらしく、口を挟むことなく賛同して従った。
休憩と言ってもマイホームには入る気が無いらしく、美鈴の障壁を展開しながらの休憩となった。休憩中ですらトレントを見つけようという根性だけは認めてやろう…
「しかしアレだな、あのトレントは激レア種だったのかもしれないな。そう考えれば遭遇出来た挙句、倒してドロップまで拾えたっていうのは運が良かったと思えないか?」
「そうかもしれないけどぉ、あーいうのって意地でも探したくならない?」
「そうね、一度だけとはいえ接敵できたんだから、まだ他にもいるんじゃないかって思うのは自然な考えよね」
「まぁ俺もRPGは好きだったから良く分かるけど、希少種っていうのは完全に運ゲーだからなぁ… ゲームによっては1日1回遭遇出来れば大当たりっていうのもあるだろ」
「まぁそうだね… とりあえず倒しながら進んで行ってみて、50階層のボスがどんな魔物か見てみるのも良いかもしれないよね。トレントの上位種だったりレア種だった場合、そこを周回すればいいわけだし」
「周回って…」
「美鈴の気持ちも分かるし、私も金のリンゴは人数分欲しいと思っているわ。でも周回するならかなり時間がかかりそうじゃない?」
「そうなんだよね… ああ悩むねぇ!」
金のリンゴか… 北欧神話では神の食べ物とか不死の源とか言われていたはずだ、真偽の程はアレだが、それでもある意味伝説級の果物扱いになっている。
某ファンタジー4では確かHPを100上げるアイテムだったな、これも言ってみれば生命に関する作用をするアイテムだ。
同列に考える事でもないと思うが、もしかしたらこのダンジョンで拾った金のリンゴに同様に近い効果があったとしたら… ギルドで鑑定するのはまずいのかもしれないな。
どうするか… まぁ俺が決める事じゃないから会議でもするか。
「金のリンゴの事なんだが、北欧神話は知ってるか? 後は某ファンタジー4のアイテムで出てくるやつとか」
「知ってる知ってる、某ファンタジーのはHPの上限が増えるんだよね。北欧神話のは食べたら不老不死になるんだっけ?」
「確かそんな感じだったわね… それでおじさんは、朝に拾った金のリンゴも同様であると言いたいの?」
「同様であるかなんてさっぱり分からないけど、もしかして万が一にでもそれに近い効果があった場合、ギルドで鑑定したら存在が知られてしまうんじゃないかと思ってね。このフロアは未踏の区域だし、誰も知らなくて当然だとは思うけど、もしも下手な貴族とかに知られたら…?」
「なるほど、金のリンゴが欲しくて交渉しに来る、もしくは奪いに来るかもって事ね。
よし! 私が頑張って鑑定スキル生やすわ!」
「何を言ってるんだこの子は… そんなレアっぽいスキルが簡単に生えるわけがないだろ?」
「だから頑張るのよ! これから毎日時間を取って、詳細が知りたい~って念じながら物を見つめてみるよ!」
「マジかよ…」
「そういう事なら私もやってみるわ。鑑定ほど重要なスキルなら、苦労してでも手に入れたいものね。いちいちギルドに出してなんてやってたら、おじさんが危惧した通りの事がいつ起きても不思議ではないもの」
「まぁ確かにな… それに職業なんて括りがあるくらいだ、それぞれに向き不向きがあると思うから俺も参加するかね」
スキルという物がどのような経緯を経て入手できるのか、ぶっちゃけそう言った事は全然理解していない。特に俺! マイホームに付随する物しか持ってないんだよね! 倉庫とか牢屋とか!
個人的にはそろそろ一般的だと思われるスキルを手に入れたいと思っていた、ただどのようにしてって考えるだけだったんだな。こうしてみんなで同じ方向に向かって動くんなら都合は良い、分母が増えれば検証しやすいからな。
というか、俺にスキルは生えないんじゃないかと思っているんだよな。あれば便利だしむしろ欲しい。良い機会だから本気でスキル獲得のために行動してみよう。
「よーし、そうと決まればゴリゴリ進むよ! トレントは見つけ次第デストロイで、ドロップは大切に保管。50階層にいるであろうボスに期待だね!」
「鑑定の練習? それ用に詳細の分からない素材やなんかも用意しておいた方が良いよな。まぁそれはたくさんあるから大丈夫か」
「そうね、はっきり言ってしまえば、この世界にあって日本に無い物… かなりあるものね」
「とりあえずいつもの時間まで進もうか」
「「了解!」」
そして今日も探索は続くのだった。
更に言えば、美鈴がどういう訳か40階層のドロップである詳細の分からない弓を持ち出して色々と調べた所、なにやら使い手の魔力で矢を精製して放つものだと分かった。
それが分かった途端、ものすごく良い笑顔になりトレントをくし刺しにして遊ぶという暴挙に出たのだ。まぁトレントは生物感が無いから、単純に動く的のように見えているのかもしれないな。
魔物とはいえ、それらを殺して遊ぶようならちょっと危ない感じだと思うが、まぁトレントなら見た目の問題でセーフだろう。まぁ自分勝手な判断だがな…
しかしあの弓… 矢を持ち歩く必要がないなんて便利だな、この世界の技術も理解を超える恐ろしさっていうのを感じさせるよな。
「よーし、今日は終わりにしよう!」
「そうね、これからは鑑定のための日課が増える事だしちょうど良いんじゃないかしら」
「それじゃあマイホームへの扉をっと」
なんだかんだと今日1日で、通常と思われるリンゴは15個も拾っていた。




