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SIDE:レップー剣
40階層ボスの間の前… 折られた足だけは治療してもらったレップー剣の6人は部屋の扉をずっと見ていた。
「おい、アイツらまさかボスを倒したんじゃないか? 部屋に入ってから結構時間が経っているし、全滅したんなら扉の鍵は開くはずだよな」
「ああ、扉はロックされたままだしこれだけの時間を戦い続けられるわけ無いしな」
大樹達『雪月花』がボス部屋に入ってからすでに2時間が経過していた。ここのボスである真っ赤なトカゲはブレスのように強烈な溶解液を吐き出すのだ、前回このボスと戦って全滅寸前まで追い込まれた挙句、持っていた武器防具などほとんどを溶かされて逃げ帰った経験がある。なのでこのボスを相手に長期戦は出来ないと考えていた。
「くそっ! 俺達がクリアするはずだったボスを横取りしやがって!」
「どうする? 足の怪我は治った事だし、鍵が開いたら俺達も行くか?」
問いかけられたリーダー格の男は腕を組んで考え込む。
このパーティでは実力重視によってリーダーが選ばれているので、リーダー格の男はこのメンバーの中では一番強かった。それ故に他のメンバーは指示に従って動いて来ていたのだ。
「いや、ボスを倒したと考えればしばらくは扉の鍵は開かないだろうな。面倒だが30階層まで戻って転移陣を使おう… そしてギルドに報告するんだ、アイツらが俺達の獲物を横取りしたってな」
「だけど、見た事も無い魔道具で証拠を握られているよな?」
「だからギルドに対して先手を打つんだ。ギルドの職員を引き込んで、あの証拠を調べると言って魔道具を取り上げればどうだ? 証拠さえ無くなれば後はどうにでもできるだろうよ。それにあの魔道具… 使い方は知らないが、貴族とかに高値で売れそうじゃないか?」
「そうかもしれないが、そんな簡単に行くのか? あれだけの使い手なら他の町のギルドで名前を売っているかもしれないだろ」
「なんだぁ? 俺の言う事に文句でもあるって言うのか? だったら今すぐこのパーティを抜けるんだな。せいぜい1人で40階層を戻ってみろよ、行けるもんならなぁ?」
「おい、別にそんな事を言ってるわけじゃないだろ? 俺の直感だが、アイツらはヤバイ。敵に回すのはまずいと思うだけだ」
「ハッ! この腰抜けめ、てめえは今をもって『レップー剣』から追放だ! 頑張って生きて帰るんだな。よし、30階層へ戻るぞ!」
リーダー格の男がダンジョン内であるというのに大きな声で追放を宣言した。たまたまここまでの道中大樹達が魔物を掃討していたから良かったものの… 本来ダンジョン内ではやってはいけない事第1位の案件だ。
「悪いがリーダー、俺も抜けるぜ、コイツの直感は良く当たるしな。それに腰抜けって… 一番最初に足をへし折られてたリーダーが言ってもな」
「俺も抜けさせてもらいます。多少の犯罪なら目を瞑りますが、さすがにこれはまずいと思います。今後の冒険者としても活動に支障がでますよね、絶対」
「俺ももう付いていけねぇな。俺達は確かにワルだ、だけど仲間を売るのはできないな」
6人中4人が追放されたメンバーを擁護し、パーティの脱退を表明した。さすがにリーダーが強いと言っても、4対2では勝ち目はない。
「お前ら… 俺を裏切ろうっていうのか?」
「何を言っている、先にメンバーを切ったのはお前じゃないか! それにサブリーダーもな!」
唯一リーダー格の男の元に残っていたサブリーダーと呼ばれた男も、さすがに4人が抜けるというと狼狽を隠せないようだった。
「貴様らぁぁ!」
殺意を漏らし始めるリーダー格に、パーティから抜けた4人は武器を構えて対抗する姿勢を見せる。サブリーダーはいまだに現状の把握が出来ていないのか、ただおろおろしているだけだったが… リーダー格の男が剣を抜いて一番手前にいる男に飛び掛かった。
ガキィィィン!
「グアアアァァァァ!」
リーダー格の振り下ろした剣を何とか防御して止めると、後ろにいたメンバーがリーダー格の腕に斬りかかり、そして剣を持っていた腕を斬り落とした。
「腕がぁぁ! 俺の腕ぇぇ!」
「馬鹿な奴だ、いくらお前でもこれだけ人数差があれば勝てるわけ無いだろう」
斬り落とされた腕を抑えながら地面を転がりまわるリーダー格、それでも武器を突き付けながら冷たい眼差しで見つめる4人のメンバー達。
「サブリーダー、次はお前だ」
「ちょっ、待ってくれ! 俺は何も言ってないだろ? 確かに反対はしていなかったが賛成だってしていない」
「ふん、リーダーの腰巾着が何を言ったって無駄な事だ。今までの態度を思い出せば、俺達から信用されているなんて到底思えないだろ?」
「待ってくれ! 俺はお前達と戦うつもりなんて無いんだ! これだけはどうか信じてくれ!」
サブリーダーは膝をつき、両手を地面につけて頭を下げる。土下座の姿勢だ… それを見た4人のメンバーたちはチラリと目配せをし、そして大きく頷いた。
「サブリーダー、戦う気が無いというなら剣を収めてやる。だがお前と一緒に行動なんてしてられない、今まで良い思いをさせてもらってた分せいぜいリーダーのために尽くすんだな」
「リーダーとサブリーダーが一緒なら、2人でも30階層まで戻れるだろ? 後は勝手にやってくれよ。俺達は先に戻ってギルドに報告しておくからな」
「待ってくれ、置いていかないでくれ!」
「「「「断るっ!」」」」
それだけ言うと荷物を担ぎ、来た道を戻っていった。
リーダーはいまだにのたうち回っており、サブリーダーは放心状態で言葉も無く見送るだけだった。
SIDE:来栖大樹
「おおお! 木がっ、木が歩いているよ!」
「トレントとかいう魔物かしらね… ゲームでは良く見かけるけど、こうして実際に動いているのを見ると、気持ち悪いとしか言えないわね」
「木って事は、意外に柔軟性があって斬りにくいかもしれないな… まぁ試してみないと何とも言えないが」
昼食を終えてから41階層へと降りて、探索を始めたのだったが… まず最初に目に飛び込んできたのがこの魔物… 正式名称は知らないけど、多分トレントという奴だ。
身長? 体高? どっちかは知らないが、背の高さは軽く2メートルを超えていて、大きく広がった枝をゆさゆさと揺らしながら蠢いていた。
「こっちに気づいて無さそうだし、まずは撃ってみるか?」
「いや、まずは蹴ってみるわ」
「そっすか…」
霞がスルスルっとトレントに近寄って行ったのだった。




