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誤字報告いつもありがとうございます。
「まぁ良いじゃない。他の事でおじさんにはお世話になっているから、こんな戦闘面じゃないとお返しする機会が無いんだもの。だからそれくらいは任せて欲しいものだわ」
「そうは言うけどな…」
「大丈夫! 適材適所、出来る事を出来る人がやるって精神で良いと思うよ。それよりもドロップを確認してご飯にしようよ」
「そうだな、それじゃあ拾い集めるか」
ボスと取り巻きを相手に3ヵ所に分かれて戦闘したため、当然魔石なんかのドロップ品もあちこちに散らばっている。とりあえず自分で倒した分のを拾いに行こう。
「魔石と皮か… この皮は売れるんだろうかね」
「どうだろ。それぞれの属性によって色分けされているから、耐性のついた防具にでもなるんじゃない?」
「そうかもしれないな、とりあえず全部持っていくか」
「ねぇ見て、宝箱があるわ。開けてみていいかしら?」
「マジか、そういえばボス部屋での宝箱はこの階層に来て初なのか」
「そうだね、もしかしたら一度開けられた宝箱は復活しないダンジョンなのかもね」
「なるほど… レップー剣の連中が一番での攻略に固執してたのはこのせいだったのかもしれないな」
「それでもあのやり方には賛同できないけどね」
「それで… ミスリルの槍を出してもらえるかしら? あれで突っついて開けてみるわ」
「そうだな、ある程度距離を取っておいた方が良いだろう」
今までボス部屋にあった宝箱がダミーやトラップだったことは無いから大丈夫だとは思うが、俺達『雪月花』の方針は安全第一だ。石橋だってバシバシ叩いて安全を確認してから渡るくらいのビビリでちょうどいい。
槍を持った霞が宝箱に近づき、箱と蓋のつなぎ目に槍を突き刺した。そこから両手で力を入れて蓋を持ち上げ、開封と相成った。
「罠は… 無いようね。中身は何かしら」
槍を構えたまま宝箱に近づく霞。警戒するようなそぶりを見せながら箱の中を覗き込んでいる…
「あら、これは弓ね。さすがに弓を出されても、私達の中では使い手がいないわね」
「弓かぁ… そういえば弓は初めて出たね」
「まぁ使わないにしても40階層の武器だ、売ればそれなりになるんじゃないか?」
「まぁ倉庫の肥やしにしても良いしね」
霞が持ち帰ってきた弓は木製だった。しかしここは異世界だ、不思議金属であるミスリルが存在している以上不思議木材があってもそれこそ不思議じゃない。ギルドに言って鑑定してもらわないといけないな。
「とりあえず忘れ物は無いな? それじゃあ次の階層に行って昼飯にしようか」
「「賛成!」」
SIDE:賢者君
「ん…、むっ、もう朝か。野宿だっていうのにすっかり寝てしまったな…」
やはり何も見えない程の闇の中を歩いた事で精神的な疲労が蓄積されていたのかもしれないな。ふと隣を見ると、勇者が涎を垂らしながら爆睡している姿があった。
「おい、もう夜が明けているぞ。急いで出発するぞ!」
「んあっ!? おおお、朝日が眩しい…」
「早いとこ神聖教国の勢力圏外に出ないと落ち着いて寝る事は出来ないんだ、それに飯だってまともな物食べたいだろ?」
「そうだな… 早く隣の国に行かないとだな」
今まで気にしていなかったが、この世界でも朝日は東から昇るんだな… まぁ俺が東だと思っている方向が間違っている場合も考えられるけど、とりあえず朝日の逆方向に向かって進むしかないだろう。
「多分今頃バレているって考えた方がいいな、もしかしたら昨晩の内にバレている可能性もある。前にガイルが持っていた地図を見た限りじゃ北西に進むのが一番良いと思う」
「また森を越えるのか… 確かに行くんなら早い方が良いだろうな、森の中で野営なんて2人だと辛いもんな」
勇者が森の中での野営を思い出しているのか、うんざりしたような顔を浮かべる。まぁ俺もそうだ、森の中での野営はかなり疲れるもんな、眠いしそれとなく色々と気配があるし、とてもじゃないが落ち着かない。
「大変だとは思うが、なるべく野営を避けられるよう急いで森を渡ってしまおう。昨晩買った食い物が残っている内にな」
「そうだな、森さえ越えてしまえば食い物は何とかなりそうだしな… ブラッドウルフとかどこにでもいるし」
「万が一森を越えられなかったとしても、向こう側の浅い所まで行ければ野営も少しは楽になるだろう。干し肉を齧ったら行くぞ」
「おう!」
勇者が隠し持っていた金貨を使い、僅かながら食料を買い込んでいるのでそれが尽きる前に次の町へと辿り着きたいものだ。本当は色々と旅の準備をしたかったのだけど、さすがに夜間だけあって食料を売っている店しか開いていなかったのだから仕方がない。
太陽の位置を目安に北西と思われる方向に進んで行くと、どこまでも続いていそうな広大な森が見えてきた。また森の中に入るのか… 前回森を通った時は、案内役のガイルがいて危険な物を教えてくれていたから何とか進む事が出来たのだが、今回はガイドはいない。前回通った時の記憶を頼りに進むしかないのが不安なところだ。
「急ぎつつ足元注意な、蛇の魔物もいるみたいだしな」
「ああ、前回通った時には遭遇しなかったけど、気を付けるに越したことは無いか。それよりも武器が欲しいな… 剣とまではいかなくとも、せめて鉄製の棒でもあれば」
「無い物は仕方がないだろ。とりあえず木の枝でも折って持っていればいい、お前が牽制してくれれば俺が魔法で倒すし」
「そうするしか無さそうだな… ま、次の町に着いたら剣の購入を考えよう」
「……剣って結構高いんじゃなかったか?」
「そうかもしれない… でもまだ金貨は残っているから大丈夫だろ。剣が無ければ狩りをして稼ぐ事も出来ないんだから」
「そうだな、俺の魔力も有限だし、まず最初に剣を買うしかないか」
とりあえず森に着いたので木の枝を見繕う。どこぞの勇者はひのきの棒で魔物を倒していた事だし、無いよりは遥かにマシだろう。それにコイツは隻腕とはいえ本物の勇者なんだ、多分どうにかなるんじゃないかと思っている。
「よし、嫌だけど進むか」
「同意だな、本当に嫌だけど… もっとこう俺Tueeeeとか美女を侍らせたハーレムとか、そんな展開は来ないんですかね」
「来ると良いな…」
俺Tueeeeは確かに俺もしたい、だけどそれをするには間違いなく経験が足りなさすぎる。俺も勇者もポテンシャルだけはあるはずなんだから、それを使いこなせるまで鍛えないとダメだ。
アニスト王国の王城で兵士相手にしていた訓練は全然役に立ってないし、こうして森に入ったんだから実戦で経験を積まないとな。
こうして俺と勇者は森の中に突入していった。




