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誤字報告いつもありがとうございます。

 SIDE:賢者君


 今の時間は大体午後8時くらいだろうか… そろそろ勇者の部屋に行ってみようか。


 早速今晩2度目の脱走をする訳だが… 何も脱走するのが深夜でなければいけないという事は無い。むしろ静まり返った深夜の方が、物音が聞こえやすいので見張りをしている連中にとっては楽になると思う。なので、夕食後のまったりとする時間帯… 見張りがいるなら逆に今が好機なんじゃないかと思った訳だ。


 自分にあてがわれた部屋から廊下に出る。長めの廊下の先には見張りの者が椅子に座りながらこちらを見ているのが分かる… まぁ挨拶をするような間柄じゃないのでスルーして隣にある勇者の部屋の前で扉をノックし、中に入る。


「おう、思ったよりも早く来たな」

「そう思うだろ? 多分見張りの連中も同じ事を思っているはずさ」

「なるほど? つまりそろそろ行動するって事か?」

「ああ、意表を突くには良い時間だと思うからな。一応自分のステータスを確認してみてくれ、異常があれば俺が魔法で治すから」

「それは大丈夫だ、ついさっき気づいたんだが… どうやら俺にも『毒耐性』が付いたみたいだ」

「マジか、随分とかかった気はするが、無いよりあった方が遥かに良い。さて、それじゃあそろそろやるか」

「作戦はどんな感じだ?」

「無い! 行き当たりばったりで行く!」

「マジか、賢者ともあろう者が無策で行くのかよ!」


 まぁ勇者の言いたい事は分かる、俺も逆の立場であれば「マジか!」って叫んでいるだろう。だがそれも仕方がない、なんせ思い立ったのはほんの数時間前なんだからな。こんな短時間で作戦を考えられる程俺は熟練の策士では無いのだ。


「とりあえず屋根の上に上がるのは止めだ、逆に目立ってしまいそうだし逃げ道を塞ぐ方法だって熟知していると思うからな。だからとりあえず人通りの多い道をさり気なく歩いていこうと思っている」

「なるほど、深夜だとそれは出来ないからな。この時間ならまだ町を歩くやつがいるから紛れやすいという訳だな?」

「そうだ、そのままどこかに潜伏して、町の明かりが消えた後で行動すると言う手もあるが、とりあえずこの宿を出る事を優先しよう」



 とりあえず外からは目立ってしまうが、廊下にいた見張りに俺が勇者の部屋に入るのを見られているから部屋の明かりは点けたままにしておかないとな。

 なんだかんだと前回の王城を抜け出した時の経験が活きているのか、コソコソと動く事にも多少慣れたような気もするな… 勇者も大雑把な性格だが、空気を読んで静かに行動している。


「よし、準備は出来たぞ。とは言ってもほとんど丸腰だけどな… 武器は預けているから手元に無いし、戦闘は避けてくれよ」

「もちろんだ、俺だって魔力には限りがある、迂闊に無駄使いは出来ないよ」


 勇者の準備が終わったという事で、出来るだけ静かに窓を開け、外の様子を伺ってみる。部屋が3階であるからか、外側に見張りはいないようだな… だけど俺達の身体能力であれば、3階からだって無傷で飛び降りられるんだ。


「じゃあなるべく音を立てないように飛び降りよう、片腕でもイケるよな?」

「ああ、それくらいなら問題ない」


 勇者がニヤリと笑いながら親指を立てる… 無駄に似合っているからムカつくな。


 そして、まずは勇者が窓から飛び降りた。着地の音がほとんど出ない完璧な着地… まさに10点満点というやつだな。

 俺も続くか… 窓を開けたままだとまずそうだから、飛び降りつつ窓を閉めるという離れ業を見せ、俺の方も何とか音を出さないように着地する事が出来た。


 声を出さないようにして、指先だけで向かう方向を合図して路地へと入る。小走りで宿屋から距離を稼いでからようやっと人の多い通りへと出てきた。


「ふぅ、どうやら上手くいったようだな」

「ああ、俺達のような連中に出し抜かれるなんて… アイツら雑魚だな」

「まぁそう言うな。アイツらが俺達を雑魚扱いしてたおかげでこっちもすんなり逃げ出す事が出来たんだ、むしろ感謝してやっても良いくらいだな」


 宿から離れてようやく自由になったと安堵したのか、不意に笑みが出てくる。なんとなく周囲の様子を全体的に見える程余裕も出てきているみたいだし、この調子でさっさとこの町から出てしまおう。

 少なくとも俺と勇者の両名が毒耐性を得た事で、多少衛生的に問題があるであろう川の水でも多分飲めるだろうし、残る問題は旅の道中に食べる物の確保だな。


 とりあえず勇者がいるから、たとえ無手であっても弱い魔物なんかには負けることは無いだろう。魔物から肉を得られるのは、アニスト王国からここまでくる間にガイルから学んでいるので多分大丈夫だと思う。


「さて… 最後の問題は、どうやって門が閉められているこの町から出るか… という事だな」

「最悪はよじ登るしかないだろう。ただ俺は片腕で登れないから、賢者に先に登ってもらってロープかなんかで引っ張り上げてもらうしかないけどな」

「うーん、つまりロープが必要だという事だな? とりあえず明るい方に行ってみて、開いてる商店があれば見るしかないな」

「ああ、一応アニスト王国でパクってきた金貨はまだ残ってるから、買い物は大丈夫だと思うぜ」



 それから勇者とそれなりに賑わっている場所をうろつき、フード付きのマントとロープ、多少の干し肉を買ってからスラムと思われる人気のない寂れた場所にやって来た。


「うん、この辺なら防壁の上にも兵士はいないな。よし、ここから抜け出すとするか」

「おう、それじゃ先に登ってロープを下げてくれ」

「分かった」



 突然思いつき、行き当たりばったりな脱走作戦はこうして成功し、神聖教国の王都?皇都? であるクリアプレイスから逃げ出した。

 防壁の角度から見て、多分西であると思われる方向に向かって漆黒の闇の中小走りで離れていく。さすがに暗いからと言っても、こんな町の近所で夜が明けるのを待つわけにはいかないからな。


「灯りを出す魔法とか無いのか?」

「あるにはあるが… これ程の闇だと目立たないか?」

「それ以前に満足に前が見えないだろ… 灯りの光り方次第だが、少し前側を照らす感じにすればいいんじゃないか?」

「そうするか… 俺達を照らしたって意味無いしな。それじゃ魔物に注意しながらもっと距離を取って、それから休むとするか」

「おう、あの日一緒に召喚された日本人を探して、色々と話をしないとな」

「そうだな… 何人かでも生きていればいいんだが」



 こうして勇者と賢者は、偶然にも西の方に向かって歩き出す。このまま進むとプラム王国があり、さらに先にはガスト帝国がある。

 闇夜の中移動して、途中で見つけた大木に背を預けて夜が明けるのを待つようだ。

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