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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:レイコ
昨晩は早寝したというのに、夜明けまでしっかりと眠ってしまった。
人が変わったかのように大人しくなったとはいえ、何日も行動を共にしていたカオリが隣にいるから安心できたのだろうか。
いや、きっと誰でも良かったんだよ。ただ独りでいるという事が不安で仕方なかった… うん、きっとそういう事だろう。
しかし、カオリが眠る前に言った言葉… 人を殺したって言ってたけど、斥候って言う職業的に、短剣で直接刺して殺したという事なんだろうな。
私も確かに人はすでに殺してる、しかも数千単位で。ただ、それも暗がりの中、特大魔法でやっているから焼かれた死体を見た訳じゃないし、精神的なダメージはすごく少なかったと言えるだろう。まぁ、その辺の事を聞かせて上げればカオリも落ち着くんじゃないかな… 人殺しの仲間がいたって。
言い方のせいで不名誉に聞こえるけどね。
とりあえずそろそろ起きようかな。
今日こそ新しい魔法の練習をしたいし、カオリがいるんなら索敵は任せられるしね。
ベッドから起き出し、出かける準備を始めようとしたらカオリと目が合った。
「あ、起きてたんだ。私今日はダンジョンに入るけど、カオリはどうする?」
「私も行く、置いていかないで」
「ああ、後昨日言ってた『人を殺した』って話だけど…」
「うん、やっぱり軽蔑する? でも仕方が無かったんだよ、逃げても逃げても追って来るし、しまいには挟み撃ちまでしてきたから攻撃するしか…」
「いや? 別に軽蔑とかはしないよ、それを言うなら私だって人を殺してるし」
「えっ?」
カオリが目を見開いたまま私を凝視している… まぁ自分が人を殺して『軽蔑した?』って言ってくるくらいだ、私も人を殺してたなんて思いもしなかっただろうし、逆に私の事を軽蔑してくるかもしれない。でも…
「私はグリムズ王国と帝国との戦争に仕事で参加したからね、それこそ闇討ちで大魔法を放って数千人を殺したよ。どう? 軽蔑した?」
「え? 数千…人? それでレイコは平気なの? 心がかき乱されたりしないの?」
「まぁ私の場合遠距離からの魔法だったからね、死体の片付けは参加しなかったからそれほど実感は無いんだよ」
「そう…なの。別に軽蔑はしないけど… 精神的に大丈夫なのか心配になるわね、私自身がどうにかなっちゃいそうだから」
「それを言ったら始まらないよ。だって、相手側が殺しに来てるんだから、黙って殺されるなんて冗談じゃないし付き合ってられない。それに殺しに来るって事は返り討ちに遭うかもって覚悟を持ってもらわないとね」
「そういうもの?」
「そう考えてるよ」
カオリが口を結び、何かを考えているようだ。
少しの時間静寂が流れるが、その沈黙を打ち破ったのはカオリだった。
ぐぅぅぅ~ きゅるる
「はっ!? いやこれは、ちょっと食べ物が無くて… 一昨日くらいから何も食べてなかったから」
カオリが顔を赤くしながら必死で繕っているが、まぁここは無視していいね。私もお腹空いてるし。
「食堂行って朝ごはんにしようよ、それからダンジョンね」
「わ、わかった」
顔を赤くしたまま返事をしてきたので、早速食堂に向かおう。この宿の食事はたいして美味しくは無いけど、それでも不味くないっていうのはポイントが高い。
他の宿だと… どうやったらこんなに不味く調理が出来るの? と、言いたくなるようなモノを出されるのだ。なので、宿選びは食事が最優先なのよね。
とりあえず今日は、カオリとの連携を再確認って事にしようかな。ゴーレムは倒したいけど、ソロじゃなんか無理っぽい気もするしね… カオリが物理的な面で役に立つかどうか見極めてからじゃないと危なくて連れて行けないわ。
SIDE:来栖大樹
バイソンダンジョンの攻略は順調だ、なにせミスリル製の武器はスライムに溶かされる事が無かったからだ。
ミスリルの槍でスライムの核を一突きで壊した後、刃に着いたスライムの粘液を振り払い確認してみた所… 特に欠損が見られなかったのだ。何度か試してから俺の持つミスリルマチェットでも斬ってみたけど結果は同様で、問題は無いと判断するに至った。
スライムは確かに危険だけど、移動や行動は遅いし、何匹か固まって合体された時に核の場所が分かりにくくなる程度なので、リーチの長い槍で速射砲のように突きを出す霞の敵ではなかった。
「でもさー、スライムが集まって合体って言えば… ねぇ?」
「そうね、私達の常識で考えれば、王様のような高貴なスライムに変身すると思ってたわ」
「アレはゲームでの話だ、混同するんじゃない」
「いやいや、大体この世界そのものがゲームみたいじゃない? 魔法もあるし魔道具もある。経験値とかはまだ分からないけど、スキルって言う概念はあるでしょ?」
「そうかもしれないが、ゲームみたいだからゲームのように行動しても良いって訳じゃないだろ? しっかりと区別をつけてだな…」
「大丈夫よ、ちゃんと分っているわ。ゲームのようにリセットなんて出来ないのは理解しているし、簡単な気持ちで行動しているわけではないわ」
「ま、それは分かっているけどな…」
まぁ俺の杞憂だと思うけど、ゲームと混同する事によって『一度試して失敗してから考えれば』なんて思考になってしまわないようにと思っただけだ。
現実では『一度試して失敗』が、命に係わってくる可能性だって大いにあるのだ、そこら辺を… って、俺が臆病で慎重すぎるのかもしれないがな。
日本にいれば若気の至りで済む事が、この世界では大怪我になるかもしれないと考えれば慎重になって困ることは無いと思う。若者がうっかり暴走してしまわないように先導しなきゃ… ま、この考え方は傲慢なのかもしれないけどな。
「とりあえずゲームみたいって思ってはいるけど、ゲームのように行動はしないから安心して。『突撃してから考える』なんて脳筋思想は持ってないから」
「本当か? 美鈴は特に脳筋じみてきてると思うんだが…」
「ちょっとひどくない? これでも聖女なんですけど!」
「聖女はハンマーなんて持ちません」
そろそろ20階層のボス部屋が見えてきた、11階層からの魔物出現状況を考えると… ここのボスはスライムの上位種と考えるべきだろう。
ボス戦の前に美鈴のおかげで場の空気が和んだので、特に問題なく倒せるだろう。
「さて、何か良い物落としてくれるかな?」
「どうだろうね、スライムだろうし」
「上位種なら魔石もそこそこのサイズになると思うから良いんじゃないかしら」
ボス部屋に入る前に小休止をする事にした。
年末年始のお知らせ:次回は1月3日から再開します、少し時間が空いてしまいますがお待ちいただければと思います┏oペコッ




