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誤字報告いつもありがとうございます。
「それで、レイコの魔法と俺達は何か関係が?」
「ああ、大魔法使いは黒髪黒目の少女という話が広まってしまってな、雪月花のメンバー2人も黒髪黒目だろう? 貴族側が何かしら接触してくる危険があるんだ。だから注意をしておこうと思ってな」
「なるほど… レイコが身を隠したって言ってたけど、ギルドマスターは行き先を知っているのか?」
「ああ、機密扱いにしてあるからお前達にも言えないがな」
「そうか、んじゃ俺達も王都を離れた方が良さそうだな」
「そうね、貴族相手にまともな話し合いが出来ると思えないから逃げた方が得策だと思うわ」
軽く3人で打ち合わせをし、結局王都を出るという事で話がついた。ギルド側も有能な冒険者が貴族に取られるのは癪らしく、特に反対される事も無かった。
「それじゃどこに行く? あ、その前にハワード伯爵には声をかけておいた方が良いか」
「いや、ハワード伯爵も貴族だし教えない方が良いと思う」
「そうね、伯爵だって上位の貴族から圧力が掛かったら喋る可能性もあると思うわ」
「そっか、それじゃこのまま出るとしますかね」
「「賛成!」」
「一応どこら辺に行くかだけ教えといてくれないか」
「そうだな… 行くんならダンジョンのある土地だろうし、いっそ帝国にでも行ってみるか? そして根こそぎ攻略してしまうってのは」
「それは面白そうかもしれないわね、帝国のやり方にはうんざりしていた事だし、帝国の資源が失われてもどうでも良いと思うわ」
「まぁ資源が無くなって一番困るのは平民なんだけどね… でも帝国の力を削ぐという観点では賛成かな」
「と、いう事だ。帝国のダンジョンについて何か知ってるかい?」
「帝国に行くのかよ… 間違っても取り込まれないでくれよな。帝国のダンジョンは詳細には伝わっていないんだが、受付に置いてある冊子に色々と書いてあるはずだ」
「ああ、それなら持ってる。詳しくは現地でって事だな」
「くどいようだが、帝国内ではギルドの力も及ばない場所が非常に多い。くれぐれも取り込まれないように頼むぞ… お前らが帝国兵として現れたらどれだけ恐ろしいか」
「何言ってるんだ、たかだか一つのパーティ相手に」
「お前こそ何言ってるんだ、ビリーカーンダンジョンを70階層まで攻略し、アベマスダンジョンをクリアしてしまうような冒険者が『たかだか』な訳ないだろ。あのドラゴンゾンビを倒した魔法だけでも数百の兵が死ねるぞ」
「ああ… あの魔法は怖いよな、俺も確かにそう思う」
「だろ?」
「まぁ了解したよ。どこの国にも属さないつもりだから帝国につくなんてあり得ない… とだけ言っておこう」
「分かった、とりあえずそれを聞けたんなら十分だ」
話し合いが終わり、ギルドを出る。今から外に出ればちょうどお昼に良い時間だな。
「さて、それじゃあ西の方に行ってみるかね」
「え? またアベマスの方に行くって事?」
「ん? 他に道はあるのか?」
「いやぁ… アベマス辺境伯領は帝国軍に対して警戒しているだろうし、国境越えられるかなーと心配になっただけ」
「なるほど、確かにあり得るな。冒険者に扮して逃げていると思われたら面倒な事になるかもしれない…と」
「そうそう、それなら南側にある森林を越えてプラム王国経由で行った方がすんなりいきそうだなって」
「それはどうかしら、そのプラム王国? が、帝国に落とされてるかもって話があったわよね」
「そういえばそんな事もあったかも… でもアベマスから出るより良いんじゃない?」
「まぁ森を突っ切るって言うなら車は使えないだろうし、徒歩だと結構時間がかかると思うがそれはいいのか?」
「それは仕方がないと諦める」
「それなら南西に向かって行けば良いんじゃないかしら。ギルドにあった冊子を見る限り、プラム王国とやらは小さい国みたいだし、帝国領に直接入れるかもしれないわ」
「そうだな、そうするか。歩くのは地味だけど体力作りって事で割り切って、道中は警戒索敵の訓練って事にするか」
「そうだね、休憩と寝る場所は安全な訳だし、それなら十分集中できると思う」
「それじゃ行くとするか。なんか目的がおかしくなってきてる気はするが、帝国はなんか気に入らないからな」
「うんうん、アニスト王国をぎゃふんと言わせたいのは山々だけど、国そのものを相手にするにはまだ鍛錬が足りないって気がするよね」
「私もそう思うわ、どうせなら完膚なきまでやって、あの王を泣かせてやりたいわ」
「王を泣かせるって…」
まぁ意見はまとまったようなので出発と行きますかね。
アニスト王国への復讐は確かに目標に挙げているけど、最大の目的はこの世界で安定的に生活する事だからな。特に回り道と思う必要もないだろう。
まぁうっかり名前を聞いてしまったレイコに関しては多少の心配はあるが、Bランクまで上げられる程… それも帝国兵数千を相手に出来る程に強くなっているなら大丈夫かもしれないな。
もし万が一敵に回ったとしても、対魔法使いであれば美鈴は圧倒するだろうからな… それほど聖女の力っていうのは恐ろしい。美鈴の障壁を抜ける奴なんているんだろうかね… 逆に俺だけとか、霞だけとかだとレイコに勝つのは厳しいかもしれない。
いや、厳しいのは俺だけだな。霞ならどうにかしてしまいそうだし、俺も支援だけじゃなくて戦闘力がもっと欲しくなってきた。
「おじさん何考えてるの? 暗い顔をして」
「ああ、いやギルドでレイコの話が出たからな」
「帝国兵を焼き殺したって話?」
「まぁそうだな。もし敵対したとしたら、俺は勝てないんだろうなーって思ってな」
「別におじさん1人で戦わなければ良いだけの話じゃない、なんのために私達がいると思ってるの? おじさんの役に立ちたいから一緒にいるんだよ? もちろんマイホームの恩恵から離れられないっていうのもあるけど」
「美鈴の言う通りだわ。適材適所で良いじゃない、パーティなんだから。出来る事を出来る人がする、それで良いと思うわ」
「確かにその通りだ、分かっちゃいるんだよ。ただ奇襲であったり不意打ちであったりとか、それでなくともレイコは俺達の事を知っているからな」
「それを言われるとねぇ… でも私が魔法を防げる事は知らないと思うから、おじさん1人の所を狙ってって可能性は低いと思うな」
「そうね、あるとすれば… おじさんの能力が欲しくて拉致するとか?」
「それだ!」
いやいや、なんか勝手に盛り上がっちゃってるけど… 本当にそうか? もうこの世界での生活に慣れていそうだし、マイホームを欲しがるなんて… まぁあるかもしれないか、服とか目当てだったりしてな。




