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おっさんの朝は早い、まぁ寝る時間が早いから仕方のない事だが、暗い内に自然に目が覚めるのは年を取った証拠なのだろうか。ささっと茹で卵を作り、マヨネーズに麺つゆ、ワサビを少量入れてゴリゴリと潰していく。潰し終わったらカットした食パンに塗って挟んでいく… お手軽簡単サンドイッチの完成だ。
朝食の準備が出来たので俺と美鈴、霞の3人分のウェストポーチを作り、その中に銃弾が詰め込まれたマガジンを入れる。ちなみに銃はカオリとレイコの分は作っていない、当たり前だが信頼関係のない者に命を奪える武器を渡すなんて恐ろしくてできないからな。
すでに銃を渡している美鈴と霞にしたって、銃弾の補給が無くなれば使い物にならなくなるしね。
少し時間に余裕があるな、今後の事について考えてみるか。日本に帰れるなら何も問題はないんだけど、もし帰る方法が無いというのなら、自分の生き方をどうするか…だよな。
腰を据えて生きるとなれば、彼女や嫁が欲しくもなるだろう。とはいえ、子供は勘弁だけどな。
とりあえず理想としては、国境を越えて逃げ切ったら同郷の者として、大人としての義務はそれで果たせたと言っても大丈夫だろう。最初から拒絶してきたヤンキーカップルと、俺達に見向きもしなかった勇者君達は放置でも問題ないしな。
縁のない子供達の保護者として今後の面倒を見る責任も無い事だし、俺は俺の幸せを求めたってバチは当たらないだろう。
美鈴は良くわからんが、霞は完全に割り切った付き合い方をしてるしカオリとレイコに至っては寄生するつもり満々だし、あの4人からも、いずれ逃げる算段しないといけないな…考える事がいっぱいあるな。
じゃあ少しまとめるか、まずはこの国を無事に出る事、次に1年程度を目安に持っている銃火器を使って盛大に魔物を狩ったりする。名前が売れて少しは発言権を得られれば… 王国、国の名前も調べないとな、じゃなくて、王国が勇者召喚を行って勇者、賢者、大魔導士を囲い込んだと流布する。噂が広まれば周辺国も警戒するだろうし、もし本当に魔物の侵攻があった場合も対処できるだろう。 最後に、勇者召喚でこの世界に来た他の職業の者を隣国との国境を越えてから処刑しようとした。これが重要だよな。
霞の武闘家の能力を見る限り、勇者なんかの能力はすごいんだろう。そういった奴らに不意打ちされて侵攻を受けるなんてあったら防げないだろうからな。噂として広まれば周辺国も警戒を強めるだろう。
少なくともこれらを実行するには、まぁ1人でやるより人数がいた方が良いだろう。 現状では美鈴と霞がいれば足りると思うからカオリとレイコをどうするか…だな。
まぁでも… ある程度知名度が上がれば、あの2人を手に入れようと画策する連中も出てくるだろう。ちょっとイケメンに勧誘されればほいほいとついて行きそうだし、そんなに心配する事は無いかもしれないな。
とりあえず直近の目標はこんな感じか
① 逃げ出す事
② 自分らの発言が聞き入れられる程度の知名度を上げる事
③ 王国のやり口を暴露する事
④ 帰還方法の有無の確認
⑤ 帰れない場合は解散して、自分の生きやすい方向に進む
まずこんな感じかな、なんせまずは逃げ出さなきゃ話にならないからな。この兵士達には国境付近まで案内させて、隣国に入れば不用意な行動はきっとできないだろう。
そろそろ女性陣が起きてくる時間だな、今日が12日目で、1日雨で遅れているから今日入れて後4~5日で国境に着くはず。マイホームを使用するのに魔力の消費が無ければ兵士達が諦めて帰るまで隠れているんだけどなぁ、うまくいかないもんだ。
そんなこんなで馬車が動き出し、12日目が始まった。
すでに日課と化している魔力の循環を繰り返し、自分の魔力を高めていく。なにせ俺のマイホームベースは魔力依存だから鍛えておく事は最重要だ、完全に保護者のポジションみたいだが、実際俺の戦闘力は武器に依存するしかない。
霞には正直手も足も出ないだろうし、銃弾も… もしかしたら回避してしまうだろう、なんて恐ろしい。
美鈴は聖女で回復支援のエキスパートなうえ、若いからなのか体力も結構ある… 負けるかもしれない。
もし敵となった場合、俺はマイホームで制作できる武器や道具を駆使して逃げるしかできないだろう… まぁ逃げられるんなら問題ないけどね。
魔力の循環は割と精神的に疲れるので、ほどよく休憩を挟んでいる。その休憩中に、騎馬の配置を調べる。3台の馬車を護衛するかのように左右に3人ずつ配置されている。馬がもう1頭いたはずだから、前か後ろの見えないところにいるのだろう。
「様子を窺ってるの?」
幌の隙間から外を見ていたら美鈴が声をかけてきた。
「まぁね、騎馬の配置を見ておこうと思ってな。脱走は深夜にやるつもりだから関係ないと言えば関係ないんだけど、なんとなくね」
「今日が12日目だから…明後日に実行か、なんか緊張するね」
「そりゃーね、命のやり取りなんかした事ないからな」
「確かにそうだけど、今の私はきっと敵を殺せると思うよ。殺そうと襲ってくる人達相手に大人しくするつもりは全くないね」
「ま、俺もそうだけど… それでも殺さずに済むならそっちを選ぶかもな。足を狙い撃つとかね」
「でも あの鎧騎士相手なら 顔の隙間を狙うのが一番だと思うけど」
「まーね、撃つ事無く逃げ出せるようにするさ」
今日も日が暮れ、野営モードに入ったのを確認してからマイホームへ入る。今日は俺もトレーニングルームで体を動かす、体力は大事だよね。
風呂に入り 一息ついてからガレージに行く。やはり軽四駆のジ○ニーに5人乗るのはきついな…
無理をすればイケるだろうが…足回りに無理がかかるだろうしな、なんせ舗装道路なんて存在しない悪路ばっかりだし、それでも馬車が行き来するくらいには整備されてるんだろうけど馬車での揺れ具合を考えると厳しいだろう。どうするかな… 最初の予定通り、リヤカーのシャーシをけん引して2人を乗せるって事になると天候次第じゃひどい目にあうだろう。屋台みたいな屋根を付けてソファーでも固定させればいいのかな… まぁ万が一連結が外れてって事も考えると全員乗せた方が安全なのか。
ガレージを出て道具制作のモニターを眺める… 車両の項目だ。
「うーん、ラン○ルでも作れれば悩まずに済んだんだけどな、おっと声に出てた」
つい独り言を言ってしまった… 俺も疲れてるんだろうな。今日はもう休むか、こうしてマイホームにいるだけで、じわじわと魔力が消費されている感じがするし。
異世界生活12日目が終了した。