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誤字報告いつもありがとうございます。
大喜びをしていた美鈴は満足したのか、そのまま顔を洗いに行ったので娯楽室の扉はしまっておいた。
その足で厨房に行き、朝食の支度を始める。とはいっても、俺が作る時は本当に簡単な物になるから大した手間にはならない。いつものサンドイッチかおにぎりかの2択だ…
「おはようおじさん、顔を洗ってくるわ」
「おはようさん、美鈴が先に行ってるはずだ」
「そう、美鈴も今日は遅かったのね」
普段はビシっとしている黒髪には寝癖が付いている。洗顔と同時に直してくるんだろうけど、ある意味貴重なシーンではあるよな。
相も変わらず委員長然とした風貌と態度だが、朝だけはいつもこんな感じだ。まぁそこに人間味を感じるので悪い事ではないと思う、普段の真面目ちゃん風だと近寄りがたい雰囲気を感じるからな。
準備を済ませ、2人が戻ってくるのを待っていると… ドタドタと急ぎ足で近寄ってくる気配を感じた。
「おじさん! マイホームが進化したって本当かしら? 大浴場が増えたって」
「ああ、まぁ大浴場って言うほど広くはなかったが、お風呂である事には変わらんぞ」
「という事は… 化粧品とか衣服とかも増えたのかしら?」
「まだ未確認だが多分増えてるんじゃないか?」
むむ? 嫌な予感するかも?
「食事の後でちょっと見ても?」
「それは構わないが… 王都に行くんだからな? ちゃんと手加減しろよ?」
「もちろんよ、さぁ朝ごはんを食べましょう!」
「そうだね! 食べてから落ち着いて見なきゃね!」
化粧品に服か… 化粧品はともかく服は俺も見ておきたい所だな。さすがにこの作業服も見飽きてたし、そろそろ違う服でも良いかもしれない。
身体強化の魔法を使うようになってからは服や靴にも強化が効いているようだし、そう簡単に破れたりはしなくなったのだろう。作業服は破れにくい分少々固くて動きに支障を… まぁ困る程ではないから良いんだけど、今度は動きやすさを重視して考えてみるか。
個人的にはジャージでいいんだけど、この世界でジャージはきっと浮くんだろうな…
制作モニターの前で美鈴と霞が姦しく喋っている。何か琴線に触れるものでもあったのだろうか… なんか怖くて近寄れないからダンジョンコアが入っているガレージへと行ってみる。ハイ○ースが完成すればこっちのガレージに出てくるはずだからな。
古い方のガレージには2台収まっているから入るスペースが無いからしょうがない。って、なんだ。もう完成してるじゃないか。
ふむふむ、座席は2列目まで完備していて、本来3列目のシートがあるはずの場所が物置然としていた。これなら荷物も置けるね! とアピールしているようだった。
キーを回してエンジン始動し、メーター類がちゃんと動くのかを確認。燃料は満タン入っているようだな、これなら安心だ。この手の車は燃料タンクが結構容量あったはずだから、しばらくは給油の心配しなくて済みそうだ。ドラム缶からの給油は結構面倒だからなぁ… ドラム缶専用の手動ポンプでシュポシュポ入れてるあの時間、結構切なかったりする。
「あ、そうか。後で電動ポンプを確認すればいいのか、電動なら押さえてるだけで済むから楽だしな」
今頃思い出したよ…
「あ、おじさーん! この服と靴を作って欲しいんだけどいいかな?」
「え? たくさんあるのか?」
「いやいや、私と霞で1着ずつだよ。靴も1足ずつ」
「そうか、じゃあポチっとけ。そろそろ出るぞ」
「「了解!」」
なにやらルンルンしている2人だが、まぁ今どきの女子高生が毎日作業服を着てりゃ嫌になるのはしょうがないもんな。まぁダンジョン攻略のご褒美としてこのくらいはいいだろうと思うし、俺にもご褒美を作らなきゃな。
「おお、これがハイ○ース… 噂の」
「ん? 噂ってなんだよ」
「この車ってね、風評被害なんだけど犯罪に使われる事が良くあるみたいで、女の子を拉致したりする事を『ハイ○ースする』とか言われて揶揄されてるらしいよ。ネット上でね」
「そうなのか? 確かに商用車とかで使ってる人は多いと思うし、個人で乗っている人もガラの悪い人が多かった気もするが…」
「広くて良いじゃない、私は良いと思うわ」
出発前にガレージを出した時の美鈴の反応がこれだった… まぁ悪路の走破性がどれほどのものかを確認しないといけないからな、今日はハイ○ースに乗っていくとしよう。決して俺が乗りたかったからという理由ではない。
そんな感じで走り始めて、もうすでに日が暮れようとしていた。
ハイ○ースは普通乗用車よりもホイルベースが長いせいか、段差を踏んだ時とかの車の揺れかたがエス○ードとはだいぶ違っていた。
なんかボヨンボヨンって感じで跳ねるんだよな… これは乗り物酔いする人にはキツイ車種なのかもしれん…
お昼の休憩の時に、朝に制作した服に着替えた女性陣のせいで、なんか急に車内が華やかになってしまっているし…
2人が作った服は、黒系統のゆったりとした長袖のロングワンピースだった。
この異世界の人達が着る服が地味なデザインだったためか、俺たち自身も地味な作業服を着ていたからなのか、やたらと綺麗に見えてしまうのは謎だな。
ワンピースなのに腰のあたりにベルトを締め、ウェストの細さを強調するような感じになっており、靴もなんだかお洒落なブーツになっていた。
そんなんで突然の戦闘に備えられるのか? なんて無粋な事は言わないでおいた、俺だって空気くらい読めるからな… まぁそういった事でストレスが減るんなら良い事だとも思うし。
ちなみに腰に回しているベルト… 工具などをセットできるようになっている作業用の太い奴だ。このベルトに王都で作ったミスリルのマチェットを下げるのだそうだ。ちゃんと考えているんだな… 霞としてはビリーカーンのダンジョンで拾ったミスリルの剣を差したいらしいが、あれの装飾はとにかく美しいから、腰に下げて歩くだけでも注目度が爆上がりするだろう… だから止めたと。
「さて、今日はこの辺にしとくか。車の揺れ方が変わったから疲れただろ」
「それほど疲れたという訳じゃないけど、ただ座っているだけだしね」
「狭い車内でずっと座っていると、知らない内に疲れてたりするもんだぞ? 反対意見が無いなら本日の業務は終了でいいな?」
「もちろん! 残業無しのホワイト企業だからね!」
街道から少しだけ逸れ、そこでガレージを出して車庫入れし、マイホームへと入っていった。




