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誤字報告いつもありがとうございます。
俺達は休憩するために31階層へと進んだんだが… どうも今までの通路とは雰囲気が違う。
「これ、なんだと思う?」
「もしかするとだけど、さっきのドラゴンゾンビがラスボスだったという事かしらね」
「あり得るな、これは休憩を止めて探索した方が良くないか? ギルドの冊子ではボス討伐後にダンジョンが消滅したって書いてあったし、休憩中に消滅されたりでもしたら…」
「うん、確かに怖いね。先に見て回ろう」
31階層… 順番で言ったらスケルトン系のフロアのはずだが、どうにも魔物の気配を感じない。
ダンジョンが消滅する時に、中にいる人がどうなるかまでは書いてなかったし、消滅時にマイホームの中に入っていた場合にどうなってしまうのか… まさに未知数で試す勇気なんて沸かない。だから先に進む事にした。
「なんだろうねコレ… 突然雰囲気が変わっちゃってるけど」
「そうね、このフロアだけちょっと近代的な感じがするわ」
霞の意見が最もこの状況を言い表していると思う。
今までのダンジョン内は、炭鉱のような… 人工的な通路ではあるものの、どこか乱雑とした感じだった。足元も平らじゃなくゴツゴツとした石やらが飛び出てたからな…
しかしこの31階層は、真っ平と言ってもいい程足元が整備されていて、壁も左官工事でもした後のように綺麗になっていた。
安全靴の硬い靴底がコツコツと音を立てて足音を出し、密閉された廊下のような構造がその音を木霊させる。
「一応警戒は解くなよ、さっきのドラゴンゾンビがラスボスだったと決まったわけじゃないからな」
「了解、何かいるとしたらスケルトン系だよね」
「それなら私の出番ね、前衛は任せてちょうだい」
その通路は200メートルほど進むと直角に右に折れ、道なりに右折すると頑丈そうな扉があった。
「わはー、いかにも何かありそうって感じの扉だね。違和感しか感じないよ」
「一応ここで休憩を取るか? マイホームには入らない方が良いと思うから見張りながらになるけど」
「そうね、少しだけ一息入れましょう。できればお茶菓子があれば…」
「わかったわかった、道具箱に入れてる分を出すよ」
一応扉の向こうの気配を探ってみて、特に問題が感じられないので腰を下ろして休む事にした。
あのドラゴンゾンビが中ボスだったとすれば… この扉の向こうにはラスボスが鎮座してるって可能性、さすがに戦力として劣っているとは思っていないが、ラスボスというだけでなんだか緊張してくるな。
やはりラスボスというのは特別な存在だと思っているからかもしれない… ゲームで良くある設定では、中ボスまでは楽勝で勝てたからと余裕をもってラスボスに行くと… 理不尽なボスの強さにショックを受けるなんて事が多々あった。
道具箱に入れていたお茶請けは… おはぎだ。
美鈴と霞はおはぎと共にオレンジジュースを飲むという高度な技を使っている、こればかりは俺には到底真似できない… 俺は緑茶だな。
「さて、作戦会議でもしようか。もしもラスボスだった場合、中ボスとは一線を画すような強さが予想される。霞は前衛とはいえ無理して特攻しないようにな、いくら聖女がいるからと言っても、痛いのは嫌だろう?」
「そうね、残念ながらそういった趣味趣向は持ち合わせていないわ。一応自分でも魔力を纏うけど、美鈴からもフォローが欲しいわね」
「もちろんだよ、そこら辺は任せて! というか… こうやって策を練ったりそれぞれの職業を使い分けて戦闘するのってもしかして初めて?」
「そうかもしれないな… 今までが幸運だったのか、ごり押しだけで通用してたからな」
「ふふっ、なんだか燃えてくるわね」
「おじさん! 霞が怖い顔をしてるよ!」
「ちょっと、怖い顔って何よ」
「なんというか… 不敵というか、『俺よりも強い奴に会いに行く』的な顔」
「どんな顔よ!」
まぁそうだな、今の霞は自信に満ち溢れたような顔をしているのは確かだ。道中に現れたスケルトンも言うほど強くなかったし、難易度的には低いダンジョンだと感じているんだろう。
だからこそ、ここは慎重に行くべきだな。
「霞、油断だけはするなよ? これまで強い魔物がいなかったからって侮っていると…」
「心配しないで大丈夫よ、そんな事まるで考えていないから。相手は魔物、何をしてくるかなんて情報は一切無い。そんな状況で油断なんて出来ないわ」
よしよし、これはいい傾向だな。
ただ… フォローを美鈴にだけ頼むのはちょっとだけ切ないな。だけどまぁ良い、適材適所だって事だからな… 俺は美鈴同様支援職のようなもんだし、前に出てしまうと却って邪魔になってしまう。
つまりだ、対戦車ライフルの弾丸に魔力を纏わせて遠距離から支援ってことでいいな?
20分ほど休憩を取った後、俺達は自然に全員で立ち上がった。
「よし、そんじゃそろそろ行ってみるかね」
「うん、ダンジョンの最深部… どんなものか見てみないとね」
「そうね、でもここが最深部かどうかはまだ分からないわよ?」
「そりゃーそうだけど、あのドラゴンゾンビが中ボスって事は無いんじゃないかな。少なくとも20階層のボスとは次元の違う魔物だったわけだし」
「そうかもな、20階層以降の魔物を見ても、ドラゴンゾンビ程の脅威はいなかった訳だし。もうあれがボスで良いと思うぞ」
一番前に霞が立ち、俺と美鈴は少し距離を置いて後方に立つ。
美鈴がなんか防御魔法をせっせと霞にかけている間に、俺は対戦車ライフルのマガジン越しに魔力を与えて戦闘準備だ。
「じゃあ行くわ、さすがに扉を開けてすぐ攻撃されるとは思えないけど、注意していてね」
「ああ、霞もな」
霞が頷き、そして前を向く。重そうな扉に手をかけて押すと、見た目に反してスムーズにその扉は開かれた。
霞が腰を落とし、臨戦態勢のままするりと中に入っていったので、少しだけ間をおいてから追随する…
「おやぁ?」
「あれあれ? この部屋ってラスボス部屋じゃなかったの?」
「魔物の気配は無いわね、正直言って拍子抜けだわ」
扉の向こうには、扉の大きさに違和感を感じる程小さな部屋だった。
ただ、部屋の中央部には大きな水晶が鎮座している。
「ああこれ、ラノベ的に言うとダンジョンコアって奴かもしれないね」
「このダンジョンの中枢って事か? つまりこれを壊せと」
「そうかもしれないわね、これを壊したらこのダンジョンが消滅する… そんな所かしらね」
「持って帰れないかな? おじさんの倉庫を使って。そんな事が出来たら王都のギルマスとか大喜びしそうじゃない?」




