⑮
SIDE:ヤンキー君
「結局戻ってこなかったなアイツラ、裏切りやがったな」
「食べ物も残り少ないし、いない方がいいじゃん? いてもいなくても関係ないし」
「何言ってんだ! 俺に従わないなんて許せるわけがないだろ!」
「いいから落ち着きなって。干し肉だって水だって残り少ないんだよ? あいつらが居なくなるんだったら何も困ることはないじゃん。それに国境についてからもあの兵士達は女の多い方に行くに決まってるから、その隙に逃げようよ」
「そうだな、こっちにいれば兵士に押し付ける餌にしようと思ってたけど、どっちにしても弱そうな女どもの方から行くに決まってるだろうしな。どさくさでなんとか武器を奪って、俺の侍のスキルで斬りまくってやんよ」
向こうの馬車での悪だくみなんてつゆ知らず、俺達は動き出した馬車内で魔力の循環を行っていた。聖女である美鈴が新しい魔法を何個か覚えてきてるみたいなので、どうやら間違ってはいないらしい。
残り少ない時間で魔法使いのレイコがどこまで使い物になるか微妙なところだが、なにせ陸上部のユニフォーム姿は露出が意外に多く、目のやり場に困るので作業用のツナギを用意して着させた。
これならサイズは適当でもいいし、ユニフォームの上からでも着れるのでいいね。当然同じ物をカオリにも着させた。
それにしても、今回ついてきている20人の騎士達… 初日に声をかけてきた以来、一度も声をかけてこないな。遠巻きに様子見をしてるのはわかるけど、何を考えてるかわからんのは気持ち悪いな。
集音器とかそういった道具が無いか今夜調べてみるか。向こう側の考えが少しでも解ればこっちも行動しやすくなるだろう。
とりあえず、道具の項目は品数が多いので、必要そうな物を纏めておいた方がいいだろうな。
特に何も起こらないまま日が暮れ、野営となった。幌を少しめくってカオリが斥侯の能力を確かめるために周囲を探る。
「うん、なんとなくわかるようになったかも。数人ずつ4箇所に集まってるね、隣の馬車の連中も動きはないみたい」
カオリが報告してくる。
LEDランタンを灯し、美鈴と霞は夕食の準備をしている。俺はやる事は無い!
「それじゃあ晩飯にしようか、腹が減ってはって言うしな」
カオリとレイコは、朝昼とまともな食事がうれしかったらしく、妙に従順になったというか、やたらという事を聞くようになってた。
夕食が終わり、食器を纏めているとレイコが俺の前にやって来た。
「おじさん、今日1日じっくり考えたんだけど やっぱりおじさんについて行くのが一番生存率が高いんじゃないかと思った。私みたいな小娘には興味ないみたいだけど、おじさんに服従するから! 私を使いたいように使ってくれても構わないから… そばに置いてほしいの。おじさんにとって役に立つように頑張るし、道具にしていいから」
「何を言ってんの? 今時の若い子って皆そんな風に考えるもんなの? 世代の違いを感じるよ。 そもそも俺は人を道具だと思わないし、信用できない奴とは距離を置きたいし、なんぼ子供に興味ないと言っても間違いがあるかもしれないし」
「別に間違いが起きてもいいよ? 私だって若くとも女だし、強くて生活力のある男の人に従うのは気にしない方だし」
「いやいや、俺が気にするっての。子供に手を出したとあっちゃ、自己嫌悪で寝込んでしまうよ」
「いいんじゃない? おじさんのハーレム作っても。私もそのハーレムに入るし!」
美鈴が乱入してきた、ホント何考えてるんだ。そこまでしなくともうまくやり取りすればお互い良い関係が築けるって思わないのかな。
なんとかごまかしながらスルーしてると、女性陣で集まってなにやら話し合いが始まってた。なに企む事やら。
で、話し合いの結果… カオリとレイコもマイホームに入れる事になった。先ほどの『服従する』という言質の元、絶対に言う事を聞くという条件付きだったが、まぁこうなっては使い物になるよう訓練してもらおう。
風呂に入って汗を流し、集音器があるかどうか調べてみる。うーむ、見当たらないな。レベルが足りないのか、元々そんな物はないのか不明だけど、無いのなら仕方がない。
そろそろ休むか、朝も早いし疲れは残しておきたくないからね。
SIDE:女性陣
「いやぁ何これ、おじさんチート過ぎるでしょう」
「高級ホテルに合宿しに来たって感じだよね」
カオリとレイコがマイホームの設備に驚いている。
「だからといって調子に乗るとすぐに追い出されるわよ? あのおじさんリアリストみたいだから、害になると判断されたら即決されるわ」
ウキウキしていた2人に霞が釘を刺す。
「そうだね、多少の冗談は通じるけど、世代の違いは否めないね。冗談のつもりで言った事を本気で取られる場合もあるし」
美鈴も追随する。哀れに思ってマイホームに入れる事を賛成した以上、くだらない真似をされても困るのだ。
「大丈夫だよぉ、10日もあんな生活させられてたんだ、おじさんを怒らせてあの生活に戻るなんて絶対に嫌」
「で、あなた達あのヤンキー君にヤラれたの?」
「まあね、本当に不愉快だったわ」
「それじゃあ あなた達を浄化した方がいいわね、変な病気持ってたら嫌だし。後、避妊の魔法もあるけど そこら辺は大丈夫なわけ?」
「妊娠はしてないと思うけど、聖女ってのはそんな魔法も使えるの?」
「なんか覚えた。とりあえず浄化だけしておくね、空気感染したら嫌だし」
「するわけないでしょ!」
美鈴の手が光ったと思ったら、その光はカオリとレイコにぶつかり2人の全身に浸透していく。
「わぁ、なんだか心地いいね この魔法」
「うんうん」
「そろそろ10時になるわ、訓練を止めて汗を流して休みましょう。朝は早いから寝坊しないようにね」
「5時ちょいすぎくらいに出るから、その前までに起きて用意してね。寝坊したらマイホームのスキルで放り出されるよ」
「それは大変だ、朝は苦手だから早く寝ないと」
4人はトレーニングを終え、あてがわれた部屋に入り休む事になった。
こうして11日目が終了した。カオリとレイコは実に10日ぶりのベッドに感激していた。