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誤字報告いつもありがとうございます。
午後からの探索はとてもスムーズだった。
奇数階では悪臭がしない為、マップ埋めをやりつつ宝箱なんかが落ちてないか探していたが、それを止めたのだ。とにかくひたすら階段を探し、見つけ次第降りて次の階層へと進んでいたら、夕方6時には20階層に辿り着いていた。
「さてさて、もう夕食時だけどどうする? 臭い階層だから進めてから終業するか?」
「そうね、今日は残業だわ」
「うんうん、偶数階層での休憩は無いよね。行っちゃおう!」
「ここまで来てなんだけど、偶数階層がゾンビゾーンだから… ボスは全部ゾンビ系って事なんだよな」
「そうだねぇ、10階層はオークゾンビだったから、この階層はオーガゾンビでも出るのかもね」
「どうだろな、11階層からここまでオークゾンビは出てきていないし、案外ここのボスもオークなんじゃないか? 取り巻きをたくさん連れてとか…」
「うわ、あり得そうで嫌だね」
「とにかく行きましょう、早く汗を流したいわ」
「クリーンの魔法使おっか?」
「いえ、お湯を浴びるのが良いのよ」
「まぁわかる… んじゃ行こっか!」
ボス部屋と思われる扉のある部屋へと進んで行く。そして聞こえてくるグチャグチャ音… ああやっぱりゾンビですよねー、腐ってやがる。
中にいた魔物達の姿を捉える。予想通り見た目はオークだった…が、10階層のオークよりもでかいな?
「あれって上位種のゾンビみたいだね、それじゃ匂いがキツくなる前にやっちゃうね!」
美鈴が障壁を展開しながら突撃を開始。
その行動に気づいたオークの上位種が、ドタドタと自分の腐肉を撒き散らしながら鈍重に駆けてくる。見た感じ上位種だと分かるけど、正確な種類は知らないので何とも言えないが… やはり大きい分圧迫感は非常にある。
「それっ! 障壁ビンター!」
バシャーン! ビチャ…
「うぇ… おじさん回収よろしくお願いします」
「急に敬語で喋るなよ… まぁ分かるけど」
勢いよく放たれた障壁ビンタの衝撃で、まるで水風船が破裂したかのように、オークの大きな体が炸裂し、その内臓までもが壁中に飛び散らかしたのだ。
ダンジョンの不思議効果で、オークが吸収されると内蔵やら血肉やらも消えてしまうが、だからといって視界に入らないわけがない。
とりあえず吸収された後は匂いも何も残らないけど、心象的に良くないよな… ドロップは拾うけど。
「あー、なんというか… 早く21階層に降りて今日の営業を止めようぜ」
「「賛成!」」
野球ボールくらいの魔石を拾い、倉庫に入れると下に向かう階段目がけて歩き出した。
21階層に降りてすぐマイホームに入り一息入れる。
さすがにオークのミンチを見たからと言って食欲がなくなる程弱ってはいないが、それでも少しだけ間を空けようと思ったからだ。
「それにしても、ギルドにあった冊子の通り魔石しかドロップしないよね」
「そうだな… ビリーカーンダンジョンだったら毛皮とか落ちてたもんな」
「ミスリルゴーレムの足も強奪できたしね」
「あれは儲けもんだったよな… あのレベルとは言わないけど、もう少しなんか落ちれば… でもアレか、ゾンビからの素材とかってちょっと嫌だからこれで良いのかもしれないな」
「実際ここのダンジョンって何階層まであるんだろうね、ビリーカーンは70階層でもクリアじゃなかったし」
「それは各ダンジョンで違うと書いてなかったかしら? 少なくとも70階層とか80階層とかまで進むんだったらメンタルが相当鍛えられそうね」
「日本にあったラノベやその他の知識で言えば、ダンジョンというのは成長するやつもあるって言うし、間引きがちゃんと行われていなければ魔物の数も増えるとか…」
「まぁ実際どうかは分からん話だよな? とにかくここまで進んできた感じでは、特に魔物の数が多いと感じないし大丈夫なんじゃないか? その辺は」
「まぁね、増えてたって問題は無さそう… 現状では間違いなく問題無いよね」
「よし、んじゃそろそろ夕食にして休もうか」
オークゾンビのミンチの事などすっかり忘れ、空腹を満たすのだった。
夕食が済み、風呂に入って自分用に使っている部屋に入る。
自分用と言っても特に私物が置かれているわけではなく、ただ毎日寝るだけに使っているだけなんだが… それでも使い慣れたせいか、この部屋に入るとなんか落ち着いてくるのは不思議な感覚だ。
「さてさて、このコベルコダンジョンは俺にとっては大した意義は無さそうだ。だけど美鈴にとってはかなり都合の良いダンジョンだな」
ゾンビに限らずアンデッドと呼ばれる魔物、ゴースト系なんかに対しても聖女の魔法は猛威を振るっている。
ゾンビに回復魔法を当てた時は驚いたよな… ジュワーって感じで溶けていったんだよ、ああ怖い怖い。
普段の俺達は身の安全を最優先しているせいか、今まで大した怪我もなくここまで来た。そのせいか、聖女が最も得意であろう回復系の魔法を使う機会が全然得られなかったって事なんだよ。
だからかもしれないが、美鈴はなぜかハンマーで戦うような聖女になってしまっていた。しかし、このダンジョンに入ってからは聖女らしくバンバン魔法を使い、その力を遺憾なく発揮している。今までになかった経験が出来ているという観点で、良い事だったと思う。
霞はスケルトンを始め、物理的に倒せそうな魔物を最前線でボコボコに粉砕しているので経験値的には悪いって事は無いと思う。
後は俺が… ちょっとだけヒマしている事さえ除けばね!
「まぁこんな事でグダグダ言うのは大人気無いと思っちゃいるが、ドロップの回収も大事な作業だというのは理解してるが… うーん」
やっぱり長期的に17歳の子と一緒にいるせいか、俺の思考も若返ってる感じ? 普段ならもうちょっと客観的に見ていられたはずだと思うんだけど… 何か変化があったんだろうか、自分の事なのに全然分からないな。
相も変わらず1人になると、思考がいつの間にか声に出して漏れているんだよな…
まぁいい、ドロップの回収作業は誰でもできるけど、倉庫を持っているのは俺だけだからな、適材適所! これで良いはずだ! 女性陣だって若いなりに精一杯考えて動いている、若くたって見習うところは意外に多い。俺にもまだまだ余力があるって分かっただけでも良しとしようじゃないか!
ま、命大事にって方針に変わりは無いけどな。




