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「さて、この異世界に来た初日の事は覚えてると思うが、俺達は黙って殺される気は全く無いから、あの兵達を相手に抵抗をしようと思っている。行動を起こす前に教えてやるから、どさくさに紛れて逃げ出すもよし、処刑やむなしと思っているなら何も言わないけど」
「いやいや!私達だって殺されたくないよ! ねぇ、なんでもするから私達も連れて行ってよ」
「まぁ俺達で話し合った結果、同郷の者を見捨てられないから、脱走時は連れて行く事も…って結論は出ている。もっとも国境を越えて、最初に辿り着いた町まで…だけどな」
「え? なんで? 助けてくれないの?」
「だから言ってるだろ、あの兵達からは助けてやる事も考えていると。だけどその後は自分達でやり繰りしてくれって話だ。あんたらも転移特典があるんだろ? 魔法使いと斥侯だったか、良い組み合わせじゃないか」
「待ってよ、確かにそんなこと言われたけど 能力の使い方なんて教わってないし」
「あまり大きな声を出すな、見張りの兵に聞かれるだろ」
興奮してきたカオリを静かにさせるため、落ち着くよう言う。
「今日まで10日もあったんだよ? 死にたくないんだったら自分の力を知って、どう扱うか考えてなきゃいけないんじゃないの?」
「そうね、少なくとも私達は自分に出来る事を把握し、情報を共有して立ち位置やどう動くか…とか話し合っているわよ?」
美鈴と霞も静かに言う、あれほどの敵対行動を起こしておいて、更に他力本願で助かろうなんて甘い事言ってる奴と組めるわけがない。最低でも『出来る事を出来る奴がする』これくらい考えてくれないと、今後生き残る事は難しいだろう。
「でもどうやって…」
レイコが口を出してきた、レイコは魔法使いだったはずなので、魔力の循環みたいな事は教えてもいいんじゃないか… と、決めていたので、魔法の専門家と思われる聖女にその役を押し付けてある。
「じゃあ あんた、レイコっていったっけ? ちょっとこっちに来てよ」
狭い馬車内でごそごそと奥に移動していく美鈴とレイコ、俺と霞でカオリの相手だ、正直嫌だけど。
「カオリといったわね、あなたは斥侯だったはずよね? 斥侯ってどんな職業か分かってる?」
「え? いや、詳しくは…」
「斥侯っていうのは、わかりやすく言えば偵察のことを言うのよ。 忍び込んでの情報収集とか、進軍時には前線に行って 敵軍の配置やなんかを調べてきたりする役割の人を斥侯と言われてるわ。多分だけど、この異世界での役割の中には罠の解除とか、そういったスキルがあると思うわね」
霞がなにやら説明を始めてるけど、思いの外詳しいな。ファンタジー小説とかかなり読んでいたのか… まぁでも、少しでも知識が手に入れば、馬車での移動中暇な時間の使い道が増えるだろう。
そんなこんなで手早く話を済ませる事にして終わらせる事にした。そうじゃないと自分達の休む時間が削れるからな。
「それじゃあ今日の所はこの辺にしておくか。まぁあのヤンキー君に話したければ話してもいいけど、邪魔だけはしないようにな」
今日は切り上げる旨を伝え、向こうの馬車に戻ってもらおうとカオリとレイコに向かって話しかけた。
「え? 向こうの馬車に行きたくないんだけど」
「んな事言ったって、こんな馬車に5人も乗ったら狭いだろう」
「お願い!こっちの馬車に置いてほしい。シャワー浴びられて臭くなくなったから、またあのヤンキーに犯されちゃうよ」
「ハーレム契約したんだからしょうがないんじゃないか? 知らんけど」
「嫌に決まってるでしょう あいつらだって臭いんだから。 そもそも食べ物だってほとんど独占してるから こっちにくれないのよ」
しかし普通な顔をしてるのに態度はでかいなコイツ… どうするべきかね、そう思って美鈴と霞の方をチラ見した。
「別にこの馬車で寝る分にはいいんじゃないかな? マイホームは無理だけど」
「ああそういう… なるほどね。じゃあトイレの扉は出しっぱなしにしておくから、2人でゆっくり休んでくれ」
「え? あなた達はどうするの? この馬車で寝るんじゃ…」
「私達はおじさんのマイホームに入れてもらえるからそこで休むわ。もちろんマイホームにいれてもらえる位には信頼関係は築いてきてるから」
霞がかなり冷たい態度で締めくくる、まぁこいつら図々しいから苛立ってるのかもな。
普段出してる俺と俺が許可した者にしか見えない扉じゃなく、誰にでも見える仕様のトイレの扉を出し、好きに使えと説明する。
「それじゃ 朝の5時には戻ってくるから、 話の続きはまた明日な」
そう声をかけ、マイホームに3人で入ってきた
「思ったより時間かかったね、今日はササっとシャワーにして休もうかな」
「そうね、私も今日はそうするわ」
「わかった、俺はちょっとやりたい事があるから それやってから寝るよ」
その場で解散し、2人はシャワー室へ入っていった。俺もさっさと風呂に入ってトレーラーが作れるかどうか見てみよう。
結果から言うと、トレーラーはそこそこ種類があった。普通のリヤカーみたいのからトレーラーハウスまで… リヤカーでいいよな、どうせ乗せるのはカオリとレイコだし。ジ○ニーに取り付ける連結具も簡単に加工できるようなので、説明を見ながら取り付けていく。一応リヤカー部分に手摺を取り付け 移動中に吹き飛んでしまわないように手を入れる。
「今日はこの辺で寝るか。一応雨でも降られたら面倒だから 明日は屋根の代わりになる物を探してみるか」
異世界生活10日目が終わった
夜が明けて 11日目の朝。
いつも通り朝食の用意をして5時にマイホームを出た。カオリとレイコはくっついたまま寝ていた。
広くない馬車内で、2人が足を伸ばして寝ていると さすがに座る場所がないので起こす事にした
「おーい、狭いから起きてくれ」
グズグズしていたが、起きてくれたのでとりあえず良しとする。持ってきた鍋から味噌汁を人数分よそい配膳する。
「おにぎりは1人2個な、後はこれ… 少しは尻の負担が減るぞ」
俺達が使っているのと同じクッションをカオリとレイコに渡す、なにやら喜んでいる。まぁ10日も馬車に揺られていたら、痛くてじっとしてられないくらいだろう。
朝食が終わり、後片付けを済ませて出発を待つ。マイホームを出る前に3人で打ち合わせをして、リヤカーの事、カオリとレイコに対して今後食事とシャワーは出してもいいけどマイホームには入れない事、最低限寝られるように敷布団と毛布を支給するという事で話はまとまった。
それぞれが魔力の循環を始めて少し経つと馬車は動き出した。
今日も1日が始まった。