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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:冒険者ギルド王都支部、ギルドマスター
「煙が見えますね、どうやらあの位置で野営をするのではないかと思います」
「そうか、まぁ予定通りではあるが… あまりにも予定通り過ぎて却って怪しく見えてしまうな」
「まぁそうでしょうね… 軍務卿の所にも同様の連絡が行っていると思われますが、どうします?」
王都を守る防壁の上で、外の様子を窺っていたのだが… とうとう帝国軍が到着してしまった。時間がそろそろ夕暮れという事もあって、帝国軍は休息を取り、明日の朝には襲い掛かってくるだろう。
「しかし… 俺が指揮官だったら、わざわざ見える所まで来ないで、もう少し離れた場所で休憩させるけどな。いくら離れているからと言っても、これでは陣容まで見えてしまうし、夜襲で荷馬車を焼かれたら軍の維持すらできなくなってしまうだろ」
「そうですね」
隣で返事をしているのは魔術師ギルドのサブマスターだ。向こうのギルドマスターは軍務卿からの依頼で遠距離攻撃が出来る魔法使いを編成中だとか… 忙しくて飯も食えないらしい。
「何か策はあるんですか?」
「ああ、こっちにも優秀な冒険者がいるんでな、そいつに指名依頼を出して夜襲をかけるつもりだ」
「そいつ? もしかして単独なんですか?」
「ああ、2人パーティでマインズダンジョンの最高到達点をマークするような魔法使いだし、どういうわけか体力もあるんだよな… そいつの射程距離から魔法で荷馬車を焼き払い、即時撤退を考えている」
「なるほど… その魔法使い、後で紹介してくれるんですよね?」
「本人が良いと言えばな、魔力も威力も持ち合わせているから、荷馬車を攻撃するだけで相当数を巻き添えにできるんじゃないかと思っている」
「それはなかなかの逸材ですね、試されたのですか?」
「ああ、訓練場で色々と魔法を見せてもらったんだが… まぁ恐ろしい奴だったよ。『雪月花』の連中と知り合いらしくて合流するために王都に来たみたいなんだが、どうやらフラれたみたいでな」
「『雪月花』の知り合いですか、興味深いですね。必ず紹介してくださいよ?」
「おいおい、引き抜くなよ?」
「それは本人次第ですね」
まぁいい、とりあえず現状しなければいけないのは帝国軍の打破だ。これさえできれば言う事は無いだろう。ここを凌いでしまえば軍務卿が大軍を率いて帝国へと攻めあがるだろう、いくら帝国でも2万近い軍勢を削り取ってしまえば残存兵力もたかが知れているだろうからな。
まぁぶっちゃけて言えば、帝国に攻め込んだ先で軍務卿が倒れれば、この国はさらに平和になるだろう。どうせ明日の戦でも、籠城しないで突撃命令を出すんだろう? それで何人の無駄死にが出るか… 全く考えちゃいないんだろう。
騎士団の無駄死には即ちグリムズ王国の防衛力が無くなるという事。それを阻止するためには今夜中に帝国軍の輜重部隊を潰し、ついでにある程度の兵力を削れれば快勝へと導く事が出来るだろう。
「後はレイコを送り出すだけだな… 無駄に体力があるため、護衛を付けた方が足手まといになってしまうなんて、常識はずれな魔法使いもいたもんだ」
防壁を降りてギルドに向かう…
夜襲に備えて休憩中のレイコがギルドに来るのを待つとするかね。
SIDE:レイコ
「ダルぅ~い」
なんでかわかんないけど戦争に駆り出される事になってしまった。
先日、宿を取った後にギルドへ行き、ギルマスと話し合いをしたんだけど… なぜか使える魔法を見せて欲しいと言われ、低級の魔法を見せていたんだけど、目をまん丸にさせて驚いているギルマスを見て調子に乗っちゃったのよね。
私の中では中級に位置する魔法、エアバーストとかフレイムウォールとか、某RPGを意識して作った自作魔法のメテオフレイムなんかを見せたらギルマスが喜んじゃってね… この国に侵略してきているという帝国軍に対して奇襲をかけて欲しいと指名依頼が出されたのよ…
夜襲をかけるという事で、昼間に時間を取って寝ていたんだけど、却って疲れた感じだわ。
「夜襲か… 電気の無い世界だから暗くて前が見えないのよね… まぁ相手もそうなんだろうけど」
でもギルドの方で敵軍の位置とかを調べるって言ってたから、後はその方向に向かって照明の魔法を撃ちこみ、丸見えになったところでメテオフレイムを落とせば完璧よね。
自作魔法のメテオフレイム… さすがに隕石を落とす事なんてできないし、万が一できたとしても、地形に与える被害は自軍にも影響するので却下。
なので、隕石の代わりに大型の火の玉を上空に作り出し、流星のように叩き落すというのがメテオフレイムの魔法なのよ。
最初から上空に作り出す事によって射程距離が伸び、火の玉が着弾したら拡散し、大規模な範囲で火の海にする… 我ながらエグイ魔法を作ったもんだ。
その魔法で敵軍の食料や予備の武器防具を焼き払って撤収する… それが今回の指名依頼。
多分メテオフレイムを落とした場所にいる敵兵の何人かは死んでしまうと思う… でもやらなきゃ殺されるんだからやるしか無いよね。私だって死にたくないし、人を襲うって事は返り討ちに遭う覚悟は出来てるって事だもんね。
この依頼が上手くいけばBランクに上げてくれるって言うし、さすがにBランクになればおじさんも頼りにしてくれるんじゃないかな?
美鈴と霞はどう思うかは知らないけど、どうせあの2人だっておじさんの力に依存してるだけでしょう? 仕切っているのはおじさんのはずだし、おじさんさえ納得させられれば多分イケると思う。
だから… 私の方が強くて使えるってところをしっかりアピールしておかないとね!
おじさん達がどこに行ってしまったのかはギルドでも分からないって言うけど、今の状況なら王都に戻ってきたくても戻れないって可能性もあるから、さっさと戦争を終わらせないといけないね。
勇者とか賢者とかには職業的に劣っているのかもしれないけど、マインズダンジョンでは常に実戦で戦っていたわけだし、ぬるま湯に浸かったような武闘家には負けないんだから。
「よし! なんかモチベが上がって来たよ! そろそろギルドに行って打ち合わせをしてこようかな」
気力も魔力も十分だし、なんなら私1人で帝国軍を倒してもいいんだよね? どうせ暗闇で相手からは見えないんだろうし、全開MAXでメテオフレイムを撃ち込んでやろう!
こうして気合を入れなおし、宿から出てギルドに向かったのだった。




