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誤字報告いつもありがとうございます。
「到着だね! マチェットと防水エプロンは道具箱に入ってるし、早速潜っちゃう?」
「まずは様子見という事かしら? それで構わないわ」
やる気を見せている女性陣… 美鈴はまぁやりたい事があるらしいからともかく、霞も新技があるとか言ってたな。うん、確かに見てみたい気はする。
「そんじゃ様子見と行くか、一応防水のやつとマスクは見た目がやばいから中で装着する事にしよう」
「「了解!」」
今の時刻は午後3時だ、朝から走り続けてこの時間にダンジョンに到着した。
確かに事前に聞いていた通り寂れた場所で、集落っぽく建物が数軒並んでいる程度建っており、それを囲う防壁も木造で簡単そうな造りだった。
アベマスダンジョン… 想像以上に過疎っていた。
一応ギルドの出張所もあるという話だが、人の姿は見えないし、出入りを管理していると資料に書いていたけど見当たらない。
まぁこれは帝国軍が侵攻しているからかもしれないが… もうここでフル装備にしても平気そうだが、やはり怪しさ全開のスタイルになってしまうので却下しよう。
地上の入り口から入って1階層… まだ匂いは無い。
「うん? 思ってたよりも臭くないね?」
「まだ分からないわ、このフロアに出てくる魔物が骨かもしれないって可能性もあるわ」
「まぁそうだね… それよりもさ、必殺技の名前… なんて付けたら良いと思う?」
「その必殺技を見る前に聞かれても困るわ」
えらいウキウキしてんな美鈴の奴…
しかし骨か… マチェットよりも打撃系の武器の方が有効なんだろうな、今更だけど。まぁマチェットで峰打ちしてやればなんとかなるか、どっちにしてもデザートイーグルだと意味は無さそうだよな。
耳を澄ませ、索敵をしながらゆっくりと進んでいくと… やはりというか、カタカタと音を鳴らしながら歩く白骨が現れた。
「スケルトンだね! しかも素手だし、最下級スケルトンって感じだね」
「どうするの? さっそく試してみる?」
「そうだね、難易度が上がる前に試しておかないと危ないし、ちょっとここでやってみようかな」
美鈴がそう言いながら1人でスタスタとスケルトンに向かって行く。1階層に出てくる魔物だし、単独で進ませても美鈴なら何ともないと判断し、霞と2人で美鈴の動向を窺う事にした。
「そいっ!」
美鈴が前方に向かって手をかざすと、半透明の壁のようなものが現れた。
普段使っている障壁の魔法は半円型のドーム状態だが、今使っているのは正真正銘ただの壁のようだった。
「えいっ!」
壁のようになっていた障壁を縦にして、平手打ちのように障壁を操作してスケルトンを叩き、ダンジョンの壁に向かって押し付けた。
バリーン
なんか軽石が砕けるような音が響き、壁に叩きつけられたスケルトンは粉々に砕け散っていった。
「おおう、思った以上に痛そうだな。これって対人戦でも使えるんじゃないか?」
「そうみたいね、障壁が結構硬い事は分かっているし、かなり強いんじゃないかしら」
「どうどう? 使えそうだよね? 上手くいって良かったよ」
「それで… 手ごたえの方はどうなんだ? スケルトンが複数いても押しのけるくらいできそうか?」
「手ごたえは全然無かったね、多少群れていても簡単に引っ叩けそうだよ」
「そうか、重そうな魔物がいたらそっちで検証した方が良さそうだな」
どうやら美鈴が考えた『障壁で物理攻撃』は上手くいったようだ。まぁ物理攻撃とは言うものの、実際障壁は魔法攻撃も防ぐらしいので、幽霊系にも効果があるかもしれないな。そうであれば、ダンジョン攻略に於いて非常に強力な攻撃手段になるだろう。
「せっかくだし私も戦うわ。スケルトンだけなら打撃を当てても汚れないと思うし匂いも無い、やっていいかしら?」
「おう、どうせ休むのはマイホームだし、安全地帯とか関係ないからな。少しくらい進んだって問題は無いだろう」
「よし! それじゃあ行こうか!」
こうして実戦訓練という名のストレス解消が始まった。
SIDE:帝国軍将軍
「将軍閣下、殿下からの伝令が手紙を持って来ました。こちらです」
「うむ、読み終えたら返事を書くから伝令は休ませておけ」
「はっ!」
グリムズ王国の王都を囲う防壁が視界に入ったところで全軍を止め、休息を取るよう命じていたところに殿下からの伝令。
王都が健在である以上、殿下の作戦は失敗したとみていいだろう。
「ふむ… 魔物寄せの魔道具が効果を発揮しなかっただと?」
どうやら作戦失敗の原因は魔道具にあったという事らしいが、それでも一度攻め込んでみて、王都の防衛ラインを確認したとの事だ。
現在は戦略的撤退をして様子を伺い、南側から来る友軍と合流すると… そして王都を攻めるタイミングを合わせて多方向からの同時攻撃を…か。
「ふむ、攻城兵器も無事に持ってこれているし、辺境伯軍からの伝令が来ていたとしても、我らが攻城兵器を持っていることは伝わっていないはず。そのためにわざわざ攻城兵器無しで辺境の砦を襲ったんだからな」
殿下への返事を書かねばいかんな。
『我が軍は明朝、夜明けとともに攻撃を開始する予定。夜が明ける前に王都へ近づき、攻城兵器を組み立てる』
これで良いだろう。我らが攻撃を開始したところを見計らって、背後を突くように進言すればグリムズ王国軍も混乱し、我らも攻めやすくなる。
「よし、伝令にこの手紙を持たせよ。大至急殿下に届けるよう頼む!」
「ははっ!」
こちらから王都の様子が見て取れる以上、向こうからも見えているはず。
しかし、我が軍の陣容を見ればそうやすやすと手は出してこないはずだ。何と言っても1万5千はいるからな… 籠城したほうが守りやすいと考えるはずだ。
それに… 王都を守っている軍務卿は搦手を使わない事で有名だ、まぁ頭が悪くて突撃しか出来ないという話だが、時間的に今から攻めてくるような事はしないだろう。
ま、こちらとしては突撃命令が出て、門を開けてくれるのなら言う事は無いんだがな。
「よし、交代で見張りを立たせろ! 明日に備えて休める者から順に休むがよい! 明日の戦には殿下もお見えになる… 恥ずかしい戦はするなよ、帝国軍の誇りにかけて!」
さすがに敵地だ、大声で返事をする訳にもいかずに手だけを挙げてそれを返事とする兵士達。すでに敵側からも視認されていると思われるため、遠慮なく食事のために火を使いだして食事の準備を始めた。




