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誤字報告いつもありがとうございます。
すでに夕方になっている。
いつも通り8時に出発し、辺境伯軍を気にしながら車で移動していると、午後3時くらいに辺境伯軍とすれ違う事が出来た。
時間にして約1日遅れで追随している感じだな。距離的にはちょうどいいんだろう、これだけ離れていれば見つからないと思うしな。
すれ違いざまに辺境伯軍を観察してみると、軍の総数はおよそ2000人と言った所で、大半が騎馬だった。しかし歩兵も僅かながらいて、重そうな荷馬車もいたために進軍速度は帝国軍と同じくらいだろう。
このままいけば、帝国軍が王都の手前で1日休憩を取ったと仮定すると… ちょうど攻め始めたあたりに追いつくという感じになりそうだ。まぁ、その予定だと辺境伯軍の休む時間は無いんだけどな…
「さて、今日はそろそろ休むか?」
「運転手さんが決めて良いと思うよ? 私達は周囲の警戒はしているけど、運転手よりは疲れていないから」
「そうか? それじゃあ完全に日が落ちるまで走るとするか。肉体的な疲労はともかく、運転疲れはまだないからな」
「そう言うんだったら…」
辺境へと続く街道という名の荒れた道… 夕日がそろそろ落ちそうな気配があるためか、それとも辺境伯領に向かう人がいないのか、軍隊以外とは一切すれ違ってはいない。
まぁ商人とかはそういった事に敏感だから、帝国軍の事を知って避けている可能性が高いだろう。そうであるなら夜間も走った方が良いのかもしれないが、まぁいいか。
「しっかしなんというか… 村すら無いよね、この道」
「そうね、あったらあったで帝国軍に襲われて食料とか奪われていたんだろうから良かったのかもしれないわ」
「まぁこの国にとっては辺境だけど、地理的に見れば帝国との国境に近づいてるわけだし、その辺の考慮もされているのかもしれないな」
「そうかもね、食料とか現地調達されたらたまらないし、水もそうだし」
そして暗闇に包まれたところで移動を止めてマイホームに入る。
美鈴は厨房に、霞はトレーニングルームに向かったので俺は何をしようか… 弾頭に関しては朝に少しずつ作っていけばいいから、今やる必要は無いし、最近戦闘もしてないから製造の方も変化は無いだろう。多分だけど… 結局何が切っ掛けで成長しているかは分かってないんだよな、経験値的な物がやっぱりあるんだろうか。
ま、次のダンジョンに行ってみれば分かるかな、戦闘での経験が成長に関係しているかどうかが。
異世界生活76日目
今日は朝から車に乗り込み移動を開始する。
ギルドから得たダンジョン情報では、アベマス辺境伯領の領都の手前にダンジョンがあるという。そして、あまりに不人気のためダンジョン都市のようなものは無く、小さな集落状態でギルドの出張所とちょっとした商店があるだけらしい。
宿も無いという事で、ここに来る冒険者はみんなが集落の中で野営をして夜を明かすという事だ。
「宿が無いなんてすごいダンジョンね、集落には一応防壁があるみたいだけど… 確かにこれでは人は集まらないわよね」
「宿を作ったって採算が合わない程の不人気って… 私にとっては弱点直撃で美味しそうなのに」
「いやいや美鈴、俺達は科学的な防臭マスクを用意してるからそう言えるんであって、普通の聖女はそんなもの持ってないからな? いくら弱点直撃出来たって匂いがきつくて無理なんだろう」
「それもそうだよね、ひどい匂いを嗅いでたらご飯なんて食べられないだろうし… うん、確かに無理だわ」
「お肉が腐った匂いはひどいから、それが歩いているなんて普通に嫌よね」
「美鈴の障壁が輝くかもしれないな! ゾンビの返り血とか吐きそうになるかもしれないし」
「ああ、返り血… その事を考えてなかったよ。魔法で清潔に保つことはできるけど、匂いまではどうなんだろう」
「まぁアレだな、汚れても平気な服を用意するしかないだろう。魔法を試すにしても効果を確認するまで安心できないしな」
「そうね… 腐肉臭がひどいと動きにも影響が出そうだから、その確認は必須と言えるわ」
「ともかく、今日中に到着すると思うから行ってみてから考えようか。どれほどの匂いなのかってのも知っておかないとな」
「ううう、嫌だけどしょうがないよね」
匂いかぁ… 若い頃、一人暮らしを始めたばかりの頃は良く苦しんでたな。流し台に設置した三角コーナーの生ごみ入れ、知らないうちに虫が湧いていた時には鳥肌が立ったもんだ。匂いもすごかったしな…
あの経験があったからこそ、生ごみ入れは蓋付きにして、頻繁に掃除するようになったっけ… 世の主婦はすごいもんだと感心したな。
まぁそんな思い出はともかくだ、確かに悪臭も過ぎると頭痛がしてきたり、思考の反応も鈍くなるかもしれない。確かに防臭マスクは作ってあるけど、アレはアレで装着した時の違和感がすごいんだよな。息苦しいってのもあるし…
「とりあえず昼飯でマイホームに入った時に、汚れても平気そうな服を見てみようか。漁業の人が来ているような防水エプロンみたいなやつとかあるかもしれないし」
「あーあの白い奴ね、テレビで見た事あるよ! 確かに水仕事には向いてそうだし、返り血もあれなら防げるかもしれないね。ただ… アレで機敏な動きが出来るかっていうのは別問題だけど」
「それなら長靴も無いとダメじゃないかしら? 動きを阻害するかもしれないけど」
「そうなんだよなぁ… でもまぁ、大丈夫じゃないか? 今まで動きに関して後れを取った事は無いし。ああ、これは油断しているわけじゃないぞ? 経験則だ」
「そうね… 雨用の全身カッパなんかも使えそうだけど、あれってすぐに破けるのよね」
「わかるわかる、雨で濡れている状態でしゃがむと… おしりがビリっとね。カッパが破れただけなのにすごく恥ずかしいんだよね」
「まぁ丈夫なカッパもあるかもしれないが… 蹴ったら破けるのは間違いないだろうな」
「「ですよねー」」
「こうなったら蹴りを温存するしかないかもしれない… まぁでも、せっかくだし王都で作った武器を使うのも良いかもしれないぞ?」
「絶対に嫌だ! 武器が臭くなっちゃう!」
「激しく同意ね」
「うーん、じゃあ最初に作ったマチェットでも使うか? あれなら汚れても平気だし、使い終われば処分しても良いしな。何だったらどこかの武器屋に売っても良いし」
「あー、王都の鍛冶屋も珍しい武器だって言ってたしね、売れるかもしれない」
よし、何とか方針は決まったようだな。まぁ好き好んで選んだダンジョンだ、なんとか対策しないとな。




