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誤字報告いつもありがとうございます。
森の中で身を潜めながら移動し始めて6時間が経った。すでにお昼を過ぎているが、見えている帝国軍と完全にすれ違ってからでないと落ち着かないという事で、お昼休憩は後回しになっている。
「あっ、アレが最後尾のようだね。ようやく終わりが見えたね」
「それにしても、移動手段の少ない世界では、行軍するのも大変なのね」
「そうだね、映画で良く見る戦闘シーンでは、ヘリで移動して急降下とか普通にやってるからそう思っちゃうんだよ」
「少なくとも見ている間に休憩は挟んでないけど、あれで本当に戦えるのかしら?」
「さぁな、一応王都に着く直前に休むとかするんじゃないか?」
今は午後2時半。
ずっと歩き続けているせいか空腹感も半端ない状況だ… そろそろ腰を据えて休みたいと思っていたので、軍隊の最後尾が見えたって事でちょっとだけモチベが上がった。
「コイツラをやり過ごしたら次は辺境伯軍か… まぁ面倒だが、更なる面倒を回避するためだから仕方が無いな」
「そうだね、私もダンジョンで色々と試したい事があるから早く行きたいんだけど… 大丈夫、我慢できるよ!」
「なんだ? 試したい事って」
「良くラノベとかで出てくる盾職の人が、シールドバッシュって技を使うじゃない?」
「ああ、盾を押し出して殴ったりするやつだろ?」
「そうそう、あの技を私の障壁で出来ないかなって思ってたんだよね」
「ほほぅ… つまり聖女の魔法にある障壁を動かして殴るって事か?」
「そう、障壁を張りながら移動は出来るんだから、任意で障壁だけを動かす事も出来ると思うんだよね。それをフルパワーで動かして攻撃手段にならないかなって思ってたの」
「なるほどなぁ… 攻撃的聖女の考える事は過激だな」
そうか… 確かにそんな事が出来るんなら自衛するにも非常に役立つだろう。
それに比べて俺は… 攻撃手段は製造で作り出した銃火器だけだ。まぁそれが悪いとか弱いとか思ってはいないけど、どうしても銃火器は音がなぁ… 静かに戦闘するって点では不向きな事この上ない。
「それにしても… 2人ともちゃんと考えているんだなぁ、子供だからと侮れないよな」
「そりゃー色々と考えるよ、当然じゃない。衣食住でおじさんにお世話になりっぱなしなんだから、それ以外で役に立つところを見せたいしね」
「そうね、それには私も同意するわ。私もおじさんの不得手な部分で貢献したいのよ、だから何があっても守ってあげるわ」
「霞が男前すぎるんだが…」
「ちょっと、そこに私の名前も追加してよ! というか、守るだけなら私が一番だと思うけど?」
「それに… そろそろ子供扱いは止めて欲しいわ。一人前とは言い難いかもしれないけど、この世界では成人を過ぎてる年齢だし」
「まぁそうだな… 日本では普通に親子程度の年の差があるせいか、どうしても未成年はね。ま、努力するよ」
帝国軍の最後尾が見えてから2時間後、ようやく完全にすれ違い、その姿は後方で小さく見えていた。もう夕方と言ってもいい時間だけど、これから辺境伯軍の心配をしなきゃいけないので、軽く食休みをしてから移動する事にした。
日が落ちてからは森から出て車に乗り込み、ライトを照らして2時間ほど進み、午後8時にはマイホームへと入っていった。
「さて、一応明日も普段通り動くからな? 寝ている間に辺境伯軍とすれ違ってたなんてオチはいらないしな」
「そうね、すれ違っている事に気づかないまま、緊張したまま移動するのは疲れがたまると思うし」
「それじゃあ夕食にしよっか!」
夕食、そして軽くトレーニングルームに入り、お風呂に入ってベッドに寝転ぶ。
「子供扱いはするな…か。確かにヤンキー君やレイコにカオリ、あの辺に比べると美鈴も霞も相当大人なんだよな。最初から悲観して落ち込んでいなかったし、生き残る意思というのは確かに感じてたが…」
順応が速いというかなんというか、すっかり侮れなくなっているもんなぁあの2人。確かに俺がおっさんだからと言って、いつまでも『言う事を聞け』って態度を取るのは筋違いだし、未知の世界に来ているので、年上だからと言って俺の経験がこれ以上役に立つとも限らない。
「一端の…というか、頼りになる相棒くらいに格上げしても問題は無さそうだよな。おっさんが女子高生を頼る絵面なんて誰得かもしれないが、頼りにさせてもらうとするか」
異世界生活75日目
今日も朝が来た。
いつもながらこんな時間に自然と目が覚めるなんて… 日本にいた頃の俺には考えられないよな。毎朝目覚ましをジャンジャカならしてようやく起きていたのに、今じゃ4時前には目が覚めている。
サラリーマンとして働いていた時よりも体を酷使しているはずなのに、なぜか体の調子はすこぶる良いのは何故なんだろうか… ま、異世界効果としか言えないんだけどな。
「さて、起きますかっと!」
ロビーに設置してある大きな鏡を見てふと立ち止まる。
ふむ? 結構筋肉ついてるよな… 日に日に引き締まっていくように感じるんだが、なんか若々しくて良いねコレ。
しかし… 俺がこれだけ筋肉ついて引き締まって来てるっていうのに、女性陣はなんで体形が変わらないんだ? 美鈴なんて総ミスリル製のハンマーを担げるだけ力があるのに、ムキムキしてないんだよなぁ。
ま、男と女は筋肉のつき方が違うからしょうがないって言えばそれまでなんだろうけど、なんか矛盾を感じる。
霞だって召喚された日と変わっていない気がするしな、二の腕なんかプニプニしてそうだしな… ああ、これはセクハラになってしまうのか? うっかり口を滑らせないようにしないとな。
さて、昨日の続きでもするかね。
RPG-7用の弾頭は各15発完成している。どうせ倉庫に置いて並べるんだ、多少多くても問題は無いだろうし、むしろあった方が落ち着く。
アニスト王国に報復する事を考えると、城壁を壊すための榴弾とか徹甲弾とかもあった方が良いかも知れないな。まぁこれは急ぎじゃないから後回しで良いと思うが… ふむ、どっちもどこかで試射してみないといけないな。
俺達の召喚に関係ない一般市民を無駄に危険にさらさないように考えないといけない。貫通力が高いという徹甲弾を撃ってみて、ついうっかり城壁の向こう側にある民家に撃ち込んでもまずいだろうし、榴弾で壊した城壁のせいで、魔物が町に侵入しやすくなってしまうというのもまずいだろう。
「ま、人間っていうのは逞しいものだから、それくらいでどうにかなるようなヤワではないだろう。まずは試射して威力を知るべし… だな!」




