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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:レイコ
「はぁ? 昨日の夜におじさん達が来てたって? やっぱりあんな仕事受けるんじゃなかったわ」
「まぁそう言うな、それにアイツラが言うには… 知り合いだけど仲間じゃないって言ってたぞ?」
「まぁそれはね… 前回別れた時、ちょっと失礼な事しちゃったからね。それも含めて話がしたくて追いかけてきたってのに…」
「まぁ残念だが、今日からしばらくの間、王都の出入りは制限される事になった。お前も王都から出る事は出来ないから宿を取るなりした方が良いし、こっちとしても仕事の依頼がある」
「仕事って… 何をやらせるつもりなの? 王都から出られないんでしょう? それに拒否とかできるの?」
「残念ながら拒否は出来ないな。お前はCランクだから、ギルドからの強制依頼を断る事は出来ない仕組みだ。ランクアップの時に説明があっただろ?」
「そうかもしれないけど…」
一体何だっていうのよ! せっかく大急ぎで戻って来たっていうのに入れ違いって… カレーとかシャワーとか楽しみにしてたのに!
それに王都の出入りが制限されるって… 何が始まるっていうの? それにこの筋肉… いやいやギルマスはさらに仕事があるって言うし。
「まずは宿を取ってこい、早くしないと寝る場所が無くなるぞ? 王都から出られない者達で押さえられてしまうからな。宿を取ったら改めてギルドに来てくれ」
「はぁ… 分かったわよ」
とりあえずギルド職員に聞いて、近所の宿の場所を確認。20分くらい歩くって言ってたけど、元陸上部だった私の体力じゃその程度なんてことは無い。異世界に来てから体力はさらに上がった感じがしてるしね、鎧を着た騎士程度じゃ追われても逃げ切れる自信はある。
一番近い宿の1人部屋を取る事が出来、早速ギルドへと取って返す。断れない仕事だっていうんじゃ仕方がないし、むしろどんな事をやらされるのか気になるし…
それに、宿の人に気になる話を聞かされた… この国よりも西にあるって言う帝国が軍を進めてきてるって話を。先日の黒い鎧集団も帝国軍だって話だし、どうやら国同士で戦争が始まってしまったらしい。
だけど話を聞く限り、この国から手を出したわけじゃなくて、完全に帝国からの侵略行為だという。
侵略なんてダメだよね… そんな我儘な考え方はどうにも許せないものがある、あのヤンキーなサムライの奴もそうだった… 食料を出汁に一方的に襲われた… あの時の事が鮮明に思い出されてしまう。
「ま、ギルマスの話を聞いてみなくちゃ分からないよね。急がなきゃ」
人の多い王都の通りを小走りで駆けていった。
SIDE:賢者
前回勇者が訪れてから具合の悪いふりをしつつ自身の治療に専念していたが、ようやく完治と言った所か、体を動かしても痛みは無くなった。
ふと窓に近づき、外の様子を伺ってみる。窓の外には王城と思われる大きな城が見えているが、俺がいる場所からは少し距離があるようだ。
離宮と言った感じか? まぁ目につかない所に隠したって事かもしれないな。
「さてさて、ここから脱走するにしても、あまりにも情報が足りないよな。散歩の名目で少し外に出てみるか」
いくら医療が遅れてるといっても、リハビリの概念くらいあるだろう。治療に専念していたせいか、体力は落ちていると思うから、それも確かめておかないといけない。
そう思い立ち、外に出ようと立ち上がったところでノックの音が聞こえてくる。
「よう、どうやら立てるくらいには回復できたようだな」
「ああ、なんとかって感じだがな」
「そうか、かなりの大怪我だったんだから無理はしないようにな」
「ああ、さすがに今すぐ走れって言われても困るからな」
勇者だった。
しかし勇者は1人ではなく、後ろに護衛のように騎士を連れてきていたのだった。
それを確認できたので、『なんとか歩けるくらいには回復した』というフリをしてみたんだが、勇者がそれに乗って来たからには、後ろにいる奴は護衛じゃなくて見張りなんだろうと判断する。
「少し外を歩いてリハビリをしようと思ってたんだ、付き合ってくれないか?」
「ああ、無理をしないよう見張ってやらなきゃな」
「何を言っている、無理したって良い事なんか無いって良く知ってるよ」
勇者と2人で医療施設と思われる建物の中を歩き出す。とはいっても、以前ここに来たことは無いので、どこがどうなっているかは全然分からない。せっかく見張りに来ている騎士がいるんだ、利用させてもらうか。
「アンタは勇者の護衛か? 少しこの辺を歩きたいんだが地理的な事が良く分からない、先導して案内してもらえないか?」
「はっ、承知しました!」
ビシっと直立して答えてくる。その所作からこの騎士は、そこそこ上位の者であると見えるな… まぁそりゃそうか、片腕とはいえ勇者を見張ろうってんだ、腕の立つ者じゃないと勤まらないか。
「では、こちらへどうぞ」
さーて、視察と行くかね。
SIDE:来栖大樹
「よし、そろそろ最接近な距離だと思うから、もう少し奥に入るか」
「「了解」」
ふと思ったが、こういう時の二人って妙に息が合っているよな。知らんうちに『了解』とか言ってるし… なんか俺達も軍の部隊みたいじゃないか。 まぁいいか、どうせ深い意味はないだろ。
「おじさんどうする? 王都側への援護でもしていく?」
「いや、それこそ必要ないだろう。これは国同士のやり取りなんだ、部外者である俺達がかき回して良い問題じゃない」
「まぁそうだけどね… 一応王都にはハワード伯爵が滞在してるからさ」
「いやいや、あの伯爵はやり手だと思うぞ? それに仮にも王都なんだ、堅牢に決まってるだろうし、防衛する方が有利なのは歴史が証明しているだろ」
「そうね、攻める側がボンクラ疑惑があるなら尚更大丈夫そうよね」
「そうそう、俺達はキッチリとスルーして、いつかやる予定の… 対アニスト王国対策をしようぜ」
「ま、おじさんがそう言うなら引きますか。私としても、対人戦闘に関しては何とも言えない状況だから、これだけの大軍を相手になんてやりたくないしね」
「そうね… 帝国軍には思うところはあるけれど、せっかく新しいダンジョンに向かっているんだからそっちでいろいろと試させてもらうわ」
「お? 試すって何をだ? なんか必殺技でも覚えたのか?」
「ええ、昨日のトレーニング中にちょっとね…」
「そうか、そりゃ頼もしいな」
「ダンジョンに行ったら見せてあげるわ」
見れば霞の顔がニヤけている… それほど強そうな技なのかねぇ。対して美鈴の方は… なんかプンスカって顔をしてるな、聖女が武闘家に腕力で張り合ってどうすんだよ。




