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異世界生活74日目
昨晩は暗くなったにもかかわらず、そこそこ走って王都から距離を取ってから休んだ。もちろん街道から外れて、予想以上に帝国軍が進んできているかもという仮定をしてだ。
「朝か… なんだか昨日は疲れたよな。ホント…」
そうなのだ、昨日の80キロでの走行はかなり精神をすり減らしていたようで、トレーニングもしないで寝てしまったのだ。
悪路での高速走行はもう止めだな…
起き出してロビーへと移動をする。昨日やる予定だったRPG-7の弾頭作りを始める…
照明弾… 夜間であればきっと相手を驚かせること間違いなしと、美鈴と霞が太鼓判を押した弾頭。
焼夷弾… 資材やらを積んだ輜重馬車を焼き払うのに効果があるのではないかと予想。
スモーク弾… その名の通りスモークな弾頭らしい。煙幕攻撃で敵をかく乱させたり、逃走する時に効果がありそう。
化学弾と対人弾頭はパスでいいだろう、ぶっちゃけ焼夷弾があれば戦闘でも困らないと思うしな。範囲も広そうだし、対多人数でも効果を発揮してくれそうだ。
「はぁ… 殺しはどうのとか対人はどうのとかさんざん言っていた俺が、こうして戦争の準備をしている。もっとも積極的に戦いたいって訳じゃないが、防衛だって戦争の一つだからな…
考えが甘いってのは十分理解しているが、自分の心構えがどんどん変化していくのが恐ろしく感じるな」
ある意味俺も異世界に慣れた…というか、馴染んだって事かもしれない。この世界では命の値段が非常に安い、盗賊にも遭遇したが、アイツらは脅しをする前に殺しに来たからな。もちろんその対象は俺だけだったが…
女性は売り物扱いされちゃうからしかたがないね。おっさんは売れないからね。
だけど、こう考えると美鈴と霞は馴染むのが早かったよな… 俺が2ヶ月以上かかってやっと腹をくくったって事を、割と早い段階で到達していたように思える。
これが若さ… というよりも、俺が凝り固まっているんだろうな。
なんだかんだ言って、あの2人が一緒にいる事は俺にとっても良い事だったのかもしれないな。ネガティブな思想は止めて、より良い方向に考えていこう。
とはいえ、根本的な事… 俺達の命を脅かす何かから身を守るために戦う。これだけは変わらないでいたいもんだな、慣れたとか馴染んだとかそういう言葉で片付けるんじゃなく、自分から襲いに行ったりなんて思考にならないよう気を付けよう。
「おはよーおじさん。何作ってるの?」
「おはようさん。アレだ、RPG-7用の弾頭だよ、スモーク弾を多めでな」
いそいそと作業をしているうちに美鈴が起きてくる時間になっていた。考え事をしていると時間たつの速いな…
「そうそうおじさん、そろそろ基礎化粧品が無くなりそうなんだよね。作ってもらってもいい?」
「ああ、女性にとっては必要な物みたいだからな、それは構わないぞ」
「ありがとう! やっぱり2人で使うと減りが速いんだよね、まぁゴテゴテに厚化粧する気は無いから基礎品だけで足りるのは良いんだけどね」
「ま、この世界の化粧品とか怖くて使えそうにないもんな。粗悪品だと逆に肌が荒れるらしいからな」
「うんうん、って言っても、この世界産の化粧品は使う事無いと思うけどね」
弾頭作りをキリの良い所で中断し、美鈴に化粧品の制作をやらせる
「ポチポチっと、これで良し! 昨日の内に気づいてたんだけど、おじさんさっさと寝ちゃったからね。慌ただしくなってごめんね」
「いやいいよ。昨日はなんだか気疲れしたようでな… すぐ眠くなっちゃったんだ」
完成した化粧品を持って、美鈴は顔を洗いにロビーから出ていった。
さて、今日の予定はっと。
恐らく帝国軍の行列に遭遇するだろう。2万弱の行列で、しかも重そうな荷馬車まで見かけたんだ、行軍速度は遅そうだったからな。
それらをスルーするために森に入るとして… 視界に入ってから森に入り、大行列が過ぎ行くのを確認してから一度街道に戻る。過ぎ行くのだって時間がどれくらいかかるもんやら想像つかないし、その後は辺境伯軍が追いかけてきている可能性を考慮しなければいけない。
「今日はあまり距離を稼げないかもしれないな…」
その後、霞が起きてきて朝食を取り、8時には外に出るのだった。
街道を車で進みつつ、小高い丘を見つけては立ち寄って、西の方角を窺う。まぁアレだ… 少しでも早くに帝国軍を見つけるためだね。
「おじさん見えたわ。間違いなく帝国軍よ」
「マジか、斥候は出ているみたいか?」
「ええ、隊列より少し前に数人歩いているわね」
「少し前に数人って… それって斥候の意味無いんじゃないか?」
「そんな事私に言われたって知らないわ、あちらさんの指揮官に聞かないと」
「はぁ… なんだか指揮官がぼんくら説、濃厚になってきた感じだな」
とりあえず、双眼鏡を使っているとはいえ、視認できるところに帝国軍がいたので予定通りに森の中に入っていく。
自然のままの原生林は、さすがに車で走行する事は出来ない為、ガレージに戻す。
明るい場所から暗い場所が良く見えない事を利用し、こちらからは街道の様子が見える程度の深度を維持して森の中を歩き出す。
隊列は… 前衛に霞、中衛に美鈴、最後尾に俺といった感じで、霞は森の中をメインに見回して魔物に備え、美鈴が双眼鏡を持って帝国軍を監視し、俺は後方と美鈴が足元を取られて転ばないように見張る… と言った隊列だ。
ちなみに森の中から街道までの距離は大体目測で2キロ前後と言った所か… 暗い森の中にいる俺達からは街道の様子は割とよく見える。
しかし、街道側からは木々が立ち並び、薄暗くなっている森の中まで見通す事は出来ないだろう。相手に見つからないよう気を配り、相手の様子を監視する… ちょっとしたスネークな気分だ。
「おじさん… RPG-7って射程はどのくらいあるの?」
「うん? 確か狙って当てるなら100メートルそこそこらしいけど、単純に射程だけって言うなら1キロくらいだったかな」
「1キロか… ここから撃っても届かないって事だね」
「まぁそうだな。届かない距離だろう」
「仕方がないか、街道ってくらいだから両サイドに広がる森からの奇襲とかにも対応できるよう少しは考えられて整備されたって事だもんね」
「ああ、さすがに森のすぐ脇に道は作らないだろうさ。日本じゃあるまいし」
2時間ほど歩くと、そろそろ位置的に帝国軍とすれ違う事になる。もう少し森の中に入った方が良いかもしれないな…




