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誤字報告いつもありがとうございます。
「ん? なんか門が開いてないか?」
「開いてる…ね。出られるかどうか聞いてみる?」
「そうね、出られるならそれに越したことは無いわ」
篝火が数ヵ所あり、暗くなっている門を照らしていて、そしてどうやら門は開いたままのようだ。まぁ出られるなら出てしまった方が楽なので、そうしたい。
「なんだ? 外へ出たいのか?」
「出られるのか?」
門衛がこちらに向かって話しかけてきた。緊迫した空気ではないが、何かを警戒している感じはした。
「出る分には構わないぞ? ただし、入る事は明るい内しかできないけどな」
「そうなんだ、それじゃ出るから通してくれ」
「分かった。一応冒険者なら状況は知っていると思うが、ギルドカードだけ見せてくれ」
3人揃ってギルドカードを提出し、門衛がそれをチェックしている。
「よし確認した。色々と胡散臭い事が多発している、気を付けてくれよ」
「分かっているよ、俺達も身の安全が一番だからな」
そんなやり取りをして門から出られ、美鈴の魔法によって明かりをつけて西の方に向かって歩き出す。
「どうしたんだろうね、伝令でも待っているのかな?」
「そうだとすれば、門を開けてなくても大丈夫じゃないかしら? もしかしたら巡回している兵が戻ってくるとかそんな感じじゃないかしら」
「まぁいいさ。朝まで出られないと思ってたんだ、儲けたと考えよう。ある程度距離を取ったら車に乗って離れようか」
「「了解!」」
SIDE:殿下と呼ばれた男
「どうだ? 我が軍の兵とは合流できそうか?」
「はっ、すでに一部と合流し、食料の調達を頼んでおります」
「そうか、そっちの部隊の方でアベマス辺境伯の方がどうなったか掴めていそうか?」
「まだ詳しい情報は入っていないようですが、予定通りであれば4~5日後に王都に到着するものと考え、それに合わせて動いているとの事です」
「うむ。それであれば問題は無い。我らはここで待機し、将軍率いる本隊との合流を目指す。今度こそグリムズ王国の王都を滅ぼしてやらんとな!」
「はっ、それに向けて準備を進めます」
2万の本隊が来れば王都などすぐに落とせるだろう。我が国が開発した攻城兵器は優秀だからな、そこらのバリスタなんかとは格が違うのだ。
しかし… なぜ王都は混乱していなかったのか。わざわざ魔物寄せの魔装具を3個も使ったというのに、あれだけあれば王都を覆いつくすほどの魔物があふれ出すはずだった。
だが王都の兵に損耗の様子は見られず、こちらの損害が大きくなりすぎたため撤退した。
「この屈辱、利息を付けて払ってもらうぞ! グリムズ王国め!」
手元にあったワインを一気に飲み干し、目を閉じるのだった。
一方、殿下が乗っている馬車から少し離れた場所にて、黒い鎧の騎士団が待機していた。
「別動隊と連絡が取れたのか?」
「ああ、今日やっと取れたらしい。合流できればまともな飯が食えそうだ」
「やっとか、即日で王都を落とせるというから荷物を軽減させたが、これほど完璧に敗走するとは思っていなかったからな」
「おい! 敗走とかあまり口にするなよ? 殿下の耳にはいればこの場で処刑もあり得るぞ」
「そうだな… 戦って戦死と言うならともかく、無駄口叩いて処刑されたとあっちゃ、国で家族がなんて言われるやら…」
「全くだ、不平不満は多々あるだろうが、ここは飲み込んでおいてくれ。1人でも多くの兵が必要な時に、気まぐれで減らされたとあっては勝てる戦でも負けかねん」
「しかし腹減ったな… 予備の食料は全部殿下の元にあるんだろ? 狩りに行く許可さえ出れば肉が食えるんだが」
「そう言うな、もうすぐ別動隊と合流できるんだ、その時にたらふく食えばいい」
士気は最低のようだった。
SIDE:ギルドマスター
「ギルマス! 王城からの手紙を持ってきました!」
「おっ、やっときたか。全く… 貴族の会議は長くていけねぇ、緊急時位ちゃちゃっと決められないもんかね」
「ギルマス… そんなこと聞かれたら、2~3年はグチグチ言われますよ」
「ホントそうだな。よし、その手紙を見せてくれ」
ギルド職員が持ち込んできた手紙を開封し、中を確認する。
「ほぅ… 猪突猛進のボンクラ軍務卿が籠城戦を選んだそうだぞ」
「だからギルマス、その言い方は。ですが、多分ハワード伯が絡んだんじゃないですかね… 軍務卿なら突撃命令出しそうですから」
「いや、帝国軍が2万って聞いているからビビったんじゃねーの? 知らんけど」
「……」
「だってよ、遠征しての戦じゃないんだ。ここで突撃かまして負けでもしたら、王都がどうなるかくらい子供でも分かるってもんだ」
「確かに… それで、我らギルドに対してはなんて?」
「魔術師ギルドと連携し、遠距離攻撃が出来る者を最優先で集めろって書いてるな」
「そうですか。そうであるなら、魔術師ギルドにも今頃同じような手紙が届いているかもしれませんね」
「ああ、アイツらは魔法の専門家だ、やれって言われりゃするだろ。こっちも人材を集めないといけないな」
「そういえば雪月花の3人はギルドに来たんですか?」
「ああ、と言うかアイツラが帝国軍の情報を持って来たからな」
「なるほど… でも資料では雪月花の3人は近接系統ばかりだとなってますから、今回の戦は出番が無いかもしれませんね」
「それ以前に参加すらしないかもしれないけどな… まぁいい、雪月花の連中と同郷だというレイコってやつがマインズダンジョン40階層の実績がある魔法使いだ、かなりの戦力として期待が出来るから、戻ってきたら俺のところに来るようにしといてくれ。気まぐれそうだったから多少煽てるのを忘れるなよ?」
「わかりました。マインズで40階層と言えば現状での最高到達点なんですかね」
「そうみたいだぞ、もう1人と組んでて2人パーティでの実績だ。単独でも期待が出来るってもんだな」
「雪月花は3人でビリーカーンで70階層、レイコという冒険者は2人で40階層… 同郷との事ですが、彼らの国って戦闘民族か何かでしょうか?」
「さぁな、だが使えるもんは使わないといかんだろ? こちとら戦時中だからな」
職員は礼をして部屋を出ていく。
「しかし、国軍は大丈夫かね? 軍務卿が指揮を執っている以上多分どこかで突撃命令が出るはずだ、楽に勝てる戦をわざわざ被害を大きく出すようなボンクラ貴族だから困りもんだ。しかも侯爵って地位があるから誰も文句は言えない… 近接戦闘が出来る冒険者も集めておいた方が良さそうだな、クソッ、ギルドの予算が…」
かかった費用は王城に経費として計上するしか無いなと心に決めて、手紙を引き出しにしまった。




