124
誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:アベマス辺境伯
「帝国兵の姿が無いだと?どういう事だ?」
「はっ、森の中を探索したところ、東に向かう大量の足跡が見つかりました。どうやら砦を迂回して王都方面に向かったのかと」
「なんだと!? いや待て、これはもしかしたら好機なのかもしれないな。帝国軍が王都を攻撃したとしても、堅牢な王都は易々とは落ちないだろう。攻めあぐねているところに我が軍が後方から奇襲をかければ、挟み撃ちにできるな」
「はい、先の戦いを見た所、我が軍のバリスタで帝国軍の攻城兵器はかなり壊しているはず。王都を陥落させることは難しいかと」
「よし、では我が領の守りに1000の兵を残し、残りは進軍の準備をさせろ! あれほどの数の敵兵を抜かせたとあっては我らの恥になる。せめて後方から奇襲し、あいつらの指揮官の首を取らねば面目が立たんからな!」
「承知しました。直ちに準備に取り掛かります」
「うむ、しかし途中で追いつくと人数差で厳しい戦いになる事は明白、帝国軍どもが王都に張り付いてから追いつくのが理想だ。なので準備はゆっくりでいい、だがしっかりとやるのだ!」
「はっ!」
「ふん、我らに恐れをなして迂回したか… そんな連中など恐るるに足らず! 敵将の首は我らが頂くとするか」
辺境伯はワインをグラスに注ぎ、ゆっくりと飲み干した。
SIDE:来栖大樹
途中何度か休憩を挟みながらも、夕暮れ時には王都に辿り着いた。
事前に車をガレージに入れ、徒歩で王都に入っていく。
「なんとか門が閉じられる前に王都に来られたな」
「いやいや、事が事だし、閉まっていても開けさせられる理由には十分だと思うよ」
「まぁそうだけど… とりあえずギルドに行ってギルドマスターに報告だな」
夕暮れ時とあって、仕事を終えたと思われる冒険者達で混雑しているが、報告しようとしている行列を無視して職員に話しかけた。
「雪月花の者だけど、緊急でギルドマスターに報告したい事がある。取り次いでくれないか?」
「あ、こちらも聞いています。雪月花の方々が来られたらギルマスの部屋に連れてくるようにと、なのでこちらへどうぞ」
んん? ギルドマスターも俺達に何か用事があったのか? まぁいいか、後で聞けばいい事だ。
ギルド職員の案内によって執務室へとやって来た。
「おっ、やっと来たか。朝からどこに行ってたんだ?」
「ああ、別の町に行こうと思って旅立ったんだけど、ちょっと問題が発生してな、報告のために戻って来たんだ」
「何? 別の町に行くだと? それは承服できないな。お前達にはまだまだやってもらいたい事があるんだ」
「そんなの俺達の勝手だろう? どこで何をしようとギルドには関係の無い事だし、俺達はDランクだ… 指名依頼を受ける義務は無いんだよ」
「だからいつも言ってるだろ? 昇級試験を受けろって。まぁそれはともかく、問題というのはなんだ? もしかしたらこっちで抱えている問題にも関係あるかもしれん」
「ああ… 帝国兵と思われる軍隊と遭遇した。黒い鎧の奴らが見えたから間違いないと思う… 歩兵も多くいて、あの進軍速度だと2~3日したら視認できるんじゃないかと思う」
「……」
おや? ギルドマスターが黙り込んで考え出したな。ギルドが抱えている問題と関連性があったのか?
「もうそこまで来ていたか… 実はな、西の辺境伯領が帝国軍に襲撃されたそうなんだ。今朝早馬が着いて分かった事だが、増援の要請があって、近日中に騎士団が出陣する事に決まったらしい。
それもかなりの大軍を送るという事で、王都の守りをギルドからも協力する事になったんだ」
「なるほど、ギルドの問題ってそれか。要は俺達も防衛戦力の頭数に入れたいって事なんだろう?」
「ああ、そのつもりだったんだが… 今の報告を聞く限りその必要はなくなりそうだな。帝国軍の軍隊だと言うが、規模はどのくらいだった?」
「ああ、遠くからでしか確認していないけど、1万5千から2万って所だと思う」
「ふむ… 伝令の報告と数が一致するな。アベマス辺境伯領の砦は易々とは落とせないだろうから、迂回して全兵力を王都に向けたという事だろう」
うんうんとギルドマスターが一人で納得している… というか、辺境がすでに襲われていて援軍要請が来てたのか。
「でもさ、もしそうなら帝国軍の動きっておかしくない?」
「どうおかしいというんだ?」
口を挟んだ美鈴の言葉に反応し、続きを話せとギルマスが仰ぐ。
「だって… 辺境伯軍を倒して王都に向かっているんならともかく、迂回して王都になんて進路を取ったら… 間違いなく挟み撃ちに遭うでしょう?」
「む… 確かに」
「まぁ、先日王都を襲ってきた帝国兵も戦略も何もない攻め方をしてきたから、辺境伯の方から来る軍も、司令官が頭の悪い人だったって考え方も出来るけど」
「いや、確かにそうだな。これは至急王城に報告しなければいけないな」
「それじゃあ俺達はこれで失礼するよ。急いで来たから晩飯も食ってないんだ」
「ああそうだ、お前達の仲間が昼頃ギルドに来てたぞ? レイコという奴だが、思いの外有能そうだったから仕事をやってもらっている」
「レイコが? 王都に? なんでまた」
「レイコだけかしら? もう1人いなかった?」
「レイコ1人だけだったな。王都の防衛戦力の確保のため、近隣の領土のギルドに指示書を配達してもらっているんだ、早ければ明日には戻ってくると思うぞ」
レイコが1人で…か、カオリと何かあったのかね、まぁどうでもいいけど。しかしどうするかね…
「おじさん、まさかとは思うけどレイコをまた引き入れるの?」
「その言い方だと反対なのか?」
「当然でしょ? 自分の意志で離れていったんだし、お世話になったおじさんにも恩を返すそぶりも見せなかったんだよ。私はそれが気に入らないね」
「正直に言えば私も反対ね、美鈴と同じ意見だわ。それにレイコは流されやすそうな性格をしていたし、何かあればまたすぐに離脱していくと思うわ」
「そうか… まぁ俺としては自立して巣立っていったような感じがしていたから気にしていなかったんだけど、まぁ仲間であったなら出戻りでも歓迎するが、レイコもカオリも仲間とは言えないからな」
「うんうん、それにレイコが1人っていうのもね」
「どうせカオリが何かしでかしたんじゃないかしら? あの子ならあり得るわ」
「なんだ… お前達は仲間じゃなかったのか?」
手紙を書いていたギルドマスターが怪訝そうな顔をして声をかけてきた。そういやギルマスもいたんだったな… すっかり忘れて話し込んじゃったわ。




