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誤字報告いつもありがとうございます。
「待たせてしまったのは悪いと思うが、えらい言われようだな」
待ってましたとばかりに扉が開き、ハワード伯爵と執事のグロウが入って来た。
「何か話があるそうで?」
「露骨に話を逸らしにきてるな… まぁいい、それに乗ってやるとしようか。話というのは先ほどの防衛戦の事だが… 着ていた鎧から、あの者どもは帝国兵だという事が判明した。しかも現れた場所、それに撤退していった方角から考えてプラム王国も関与しているのではないかとの疑惑も浮上したのだ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それって軍事機密かなんかじゃないですか?そんな重要な事を簡単に話して良いんですか?」
ヤバイヤバイ、この伯爵様は一体何を考えているんだ。こんな重要な事をポンポンと… 自分から話しておいて、機密を知ったからには協力してもらうぞってパターンなのか?
「ん? それほど重要な事ではないぞ? 帝国兵の黒い鎧は有名だし、逃げていった方角を見ればギルドの職員だって同様の判断をするだろう。まぁ… 黒い鎧を着れる帝国兵は選ばれた精鋭だという噂だがな」
「はぁ… 精鋭っていうような戦い方には見えませんでしたけどね。突撃しか言えないような無能指揮官が頭を張っていたんでしょうかね」
「そうなのだ… あんな子供でもやらないような愚かな作戦を帝国兵がやるとは到底思えなくてな、例え魔道具を使うつもりだったとしてもな」
「まぁ確かに… 何がしたいのか全く理解できないような行動でした」
ふむ… どうやらハワード伯爵はアレも何かの作戦の一環ではないかと疑っていると言った感じかな? でも家柄だけで要職に就ける貴族社会なら、あれほどの無能が指揮官を務める事も有りかもしれんが…
「一応戦果については陛下に報告書を提出したが、この辺りは長いこと平和が続いていてな… どうも上層部の者達には危機感が足りておらんのだ。それで… お前達の世界、異世界での戦闘パターンなんかを聞いてみて、今回の事に該当する作戦があるのかどうかを確認したいと思っているのだ」
「うーん、軍事的な事に関しては完全に素人ですから、ご期待に添えられないと思いますよ」
「お前達はどうだ? 何か気になる事があるなら言ってみてくれ」
ハワード伯爵は美鈴と霞にも意見を求めている。
「私はこのような物が作戦だったとはとても思えないですね」
「私も同様ですね、あっという間に囮の部隊に引っかかったところを見ても、権力はあるけれど実戦経験のない無能者が指揮を執っていたとしか…」
おおう、美鈴と霞が敬語を喋っている!? さすがにTPOを弁えたって所だけど… 俺には最初からため口だった気がするんだが、まぁ気にはしていないが。
しかし、俺達の意見は概ね一致していて、死んだらリセットできるっていう状況じゃないとあんな真似は出来ないよな。1発勝負であんな事されたら部下達からクーデター起こされるぞ。
「そういえば、戦果というか… 被害状況は詳細に出たんですか?」
「被害か? 囮部隊に数名の怪我人が出た程度だ、死者は敵方のみだな。敵方の方はざっと見て500人は死んでいるな」
「囮部隊… 結構な数の敵兵に囲まれていたように見えたけど、死者はいなかったんですね」
確か見た感じでは、3台の荷馬車に2~30人くらいの兵しかいなかったはずだ。それに迫っていた敵兵は結構な数がいたように見えたんだが…
「ああ、囮部隊に出した連中は第1騎士団の精鋭だ。我が国でもトップクラスの連中の中から更に選りすぐったもの達だからな」
「そんな精鋭がよく囮なんて役割を引き受けましたね」
「まぁな、最初は普通に断ってきよったんだ。敵将のいる最前線以外には出陣しないと言ってな…」
「ほほぅ」
「だが、少数の兵で敵兵に囲まれるかもしれん役割だから… 『怖いというなら仕方がない、別の勇敢な者に頼むとする』と言ったら、顔を真っ赤にしながら引き受けてくれたぞ?」
「その騎士… 煽り耐性が低すぎね」
「ひでぇ」
煽ったと言ったってそんな程度で顔を真っ赤にしちゃったのか… 貴族の持つプライドって奴はある意味予想もつかないほどの高みにあるんだな。
「ま、そんな訳で我が国の精鋭が奴らを打ち負かしたという訳だな。次に顔を合わせれば偉そうな顔をされるだろうが、そこは必要経費だと諦めているよ」
「経費なんだ… 割り切りがすごいな」
「しかし、お前達の世界でもあのような作戦は心当たりがないと分かればそれでいい。こちらもあのような馬鹿らしい行動をする軍なんて考えられなくてな、敵の策かと本気で疑っていたんだが」
「それは無いでしょうね、策だというなら4分の1も被害を出さないように動くでしょう」
「そう思わせて… なんて疑っていたんだよ」
「なるほど…」
「では、そろそろ夕食としようか。今日はご苦労だった」
「特に役には立ってなかったですけどね」
「いや、備えがあるというのはそれだけで士気に影響するからな」
その後、食堂へと移動して貴族飯をご馳走になり、すっかり外は暗くなっていたがお暇して屋敷を出たのだった。
「そっかー、伯爵は罠だと疑っていたんだね」
「まぁそうね… 普通に考えたらあり得ない攻め方だったから、何かあるんじゃないかと思うのは仕方がないわ」
「でも逃げ方も必死だったし、無駄に死者を出しすぎていたから… きっと本気で落とせると思っていたんだろうね」
「まぁ『たられば』の話だけど、あの魔道具が森の中で起動していたらどうなっていたんだろうな。本当に王都の騎士団が苦戦するほどの魔物が湧いて出てくると思うか?」
「いやぁさすがにそれはわかんないよ。見た事も聞いた事も無い道具だし、ギルマスも詳しい効果なんて言わなかったしね」
「でも、どこかの国では最高峰の魔道具… みたいな言い方をしてたわね」
「ま、考えたってしょうがないか。とにかく今日はお疲れさんだったな、戦争と言っていいか分からんけど、初めての対人戦闘を間近で見たわけだけど、なんか苦しいとかないか?」
「私は平気だね、武器を持った人間同士の戦いや、矢が刺さって死んでいく人間を見るのは初めてだったけど、自分で戦ってないからなのか、特に気にしてはいないかな」
「私もそうね、実際に自分の手で殺してしまえば違うのだろうけど、今日のはどこか他人事のような感じだったからかしら」
「そうか… まぁ俺もそうなんだけどな。とりあえず今日は早めに休むとするか、人気のない所まで急ぐぞ」
「「了解!」」
こんな妄想をしてみました。
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