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誤字報告いつもありがとうございます。
「それじゃあ各所の支援物資の回収、よろしくお願いしますね? 物資の降ろし先は騎士団倉庫で、ギルドから案内人を出しますので、回収が終わったらギルドに立ち寄ってください」
「はぁやっぱりか、了解したよ」
予想通り物資の回収という依頼が、俺達『雪月花』に出されたのだ。
まぁこんな仕事でも依頼料はちゃんと出るみたいだし、さり気なくでもギルドに貢献したって事にはなるだろう。
「おじさん何言ってるの? 収納持ちは希少だから依頼料もしっかりと出てるんだと思うわ。収納するのが当たり前になってしまってる私達とは考え方が違うのよ」
「そうそう、だってあれだけの荷物… 普通に考えれば馬車数台分になるんだよ? 当然荷役する人材も多く集めなければいけないし、それをたった3人で片付けられるから依頼が来るのよ」
「まぁそうだな、便利な能力に慣れきってしまうのも問題だって事だな」
「うんうん、収納なんて誰もが欲しがる代表的なスキルだと思うよ」
「まぁ… 実際には収納系のスキルではないんだけどな」
「そこはそれ、有効的に運用できているんだから問題なしだよ!」
依頼を受け、ギルドから出ようとすると… 勝ち戦に湧き上がる冒険者達がすでに飲み始めているのを見かけた。
「もう飲んでいるのか、気が早いこった」
「まぁ良いんじゃないかしら? 前線に立っていた人にとってはもう終わった戦いなのだから」
「そうだな、俺達もさっさと依頼を済ませて、今後の進む道でも考えるとするかね」
「私はダンジョンでもっと鍛えたいと思ってるよ! 霞もそう思うでしょ?」
「そうね、アニスト王国の城壁を破壊できるくらいの攻撃力は欲しいわね」
「城壁を破壊って… それはパンチで壊したいって事なのか?」
「別に蹴りでも良いと思っているわ」
「何この子怖い」
ギルドを後にし、朝に回ったのと同じ順番で各門を巡る事にした。まずは東門からだな…
「タイキ殿、少しよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、確かグロウさん…でしたっけ」
呼ばれて振り向くと、オールバックに撫でられた白髪に黒い執事服でビシっとキメられたグロウが歩み寄って来ていた。
「依頼中…ですかな?」
「そうだな、各門の物資の回収だ。その後騎士団倉庫に収めるらしい」
「そうですか、実は旦那様が皆さんにお会いしたいと申しておりまして、仕事が片付いたら伯爵邸に来てほしいのですよ」
「ええー? 今回の戦いは片付いたんだろう? もう終わりじゃないの?」
「詳しくは申せませんが、確かに伝えましたよ? 夕食を用意してお待ちしておりますので」
老執事はまたしてもビシっと礼を決めて、言うだけ言って立ち去っていった…
「あのおじいさん… 伯爵家の執事だからなのか結構強引だよね?」
「伯爵家に仕える執事というくらいだから、本人も貴族なんじゃないかしら?」
「拒否は認めんって空気出しまくってたもんなぁ… どうする?」
「とりあえず行くしかないと思うわ。それに… この国では唯一話せる貴族な訳だし、国の上層部の意見を聞ける良い機会だと思うわ」
「そうだね、私達の今後の行動の指針になるかもしれないし… 夕食は食べられるみたいだし?」
「そうだな、そんじゃさっさと終わらせて向かうとするか。あまり遅くなると泊っていけとかなりそうだしな」
とりあえず急いで片付けるという事で意見は一致した。
なんと言っても、ファンタジー小説やアニメ漫画みたいに手をかざしただけで物が吸い込まれていくような収納方法じゃないからな。
人力で運び入れなきゃいかん… 1人での作業だったら嫌になってしまう。
そんな訳で、移動時間も含めて2時間ちょっとでなんとか回収が完了。ギルド職員の案内で騎士団倉庫に行き、無事に降ろして任務完了と相成った。
「お疲れさまでした、依頼に対する報酬は明日以降となりますので、ギルドの窓口で問い合わせてください」
「了解した、お疲れ様」
ギルド職員が帰っていき、ようやっとフリーになった。
「さて、一体何を聞かされるかわからんが、伯爵の所に行ってやるかね」
「本当何の用事なんだろね…」
「行ってみりゃ分かるし、行かなきゃ分からんって事なんだろ。ま、今日はただ歩いただけで疲れてもいないし、さっさと行こうぜ」
騎士団倉庫から歩き出し、30分ほどで伯爵邸に到着した。
さすがに門衛にも顔を覚えられていたようで、伯爵からの呼び出しだと言っただけですんなり中へと入れてもらえた。
伯爵は執務中だとかで少しばかり待つよう言われ、出されたお茶菓子に手を付けながら待つ事にした。
「そういえば、前回来た時もそうだったけど… 霞にご執心な様子だった娘さんの姿が見えないよな」
「あははは、恋する乙女の顔で霞の事見つめてたもんねーあの娘」
「はぁ… 確かに可愛い子だとは思ったけど、だからといって貴族のお嬢様になんか付き合ってられないわ。根本的な価値観が違うんだから話だって合うとも思えないし」
「そうかもね、私の事は… 『なにこの子供はっ!』って顔して見られたし、私の方が年上だっての!」
「貴族様の考えは俺にも分からんよ。『民があっての国』とか『ノブレスオブリージュ』の精神って、地球の貴族の歴史でもかなり後期の話だろ? この国の貴族にそれを求めてもしょうがないし期待もしていない」
「そうね、高貴なる者に伴う義務… アニスト王国の貴族達なら違う解釈をしていそうだものね」
「うんうん、高貴なる貴族のために何もかも捧げよって感じだったもんね。このグリムズ王国も隣国な訳だし、考え方もそれほど違うとは思えないから… 期待するだけ無駄なのかもね」
「それはしょうがない、ここは日本じゃなければ地球でもないんだ。完全に別物だと考えて、俺達は俺達が納得できるように動いていけばって思うぞ」
「ええ、それでいいと思うわ。押し付けるでもなく、嫌なら関わらないって方針で」
「そうだな、まぁ少なくともハワード伯爵は他の貴族に比べて温厚のように見えるけど、やり手の貴族であるならば、やはりどこかで狡猾な部分もあると思う」
「そうだね、娘さん…キャサリンって言ったっけ、あの子を見てる限り、そういった部分は確実にあるよね。子は親を見て育つものだし」
気が付くと貴族をディスる話に花が咲いてしまった。しかも、ドアの外側に人の気配があるじゃないか…
ちらりと霞の方を見ると、どうやら気が付いたようでドアの方を見つめていた。




