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誤字報告いつもありがとうございます。
SIDE:カオリ
レイコが姿を消してもう10日以上経った。
レイコがいなくなってからというもの、普段からどれだけレイコに依存していたのかを思い知る事になった。
「はぁ~、ダンジョンから疲れて出てきて、それから水で体を拭かなきゃいけないって言うのは本当に面倒よね。それでも臭いのは嫌だからやるけど」
レイコがいれば、聖女であるミスズから教えてもらった浄化の魔法が使えるので非常に楽だった。空間魔法も覚えたため、水や食料の持ち込みや、ダンジョンで回収した素材も収納してもらっていたため、収穫物を自分で持ち歩く事すらなかったのだ。
それが…
「先日まで私達に付きまとっていた連中も、いつの間にかいなくなっちゃったし、声をかけてくるパーティに参加しても、全然弱くて使い物にならなかったり… モチベ下がるわよね」
しかしまぁ、そんな事よりも重大な事があるのだ。
レイコがいれば、避妊の魔法をかけてもらえたし、浄化の魔法で性的な病気の心配もすることは無かったのだけど、今ではそれが無い… 言い寄ってくる男達にうっかり体を許すわけにはいかなくなってしまったのだ。
教会に行けばそういった魔法を有料でかけてもらえるが、避妊の魔法は月に1回だからともかく、浄化の魔法は毎回かけてもらわなくちゃ気になって仕方がない。
「潔癖症のつもりはないんだけど、さすがにこの世界の男達は不潔だからねぇ… いちいち教会に行くのも面倒だしお金もかかるし。 本当にレイコはどこに行ったのよ! 戻ってきたらお説教だわ!」
レイコがいなくなり、衛生的な理由で男達の誘いを断るようになったカオリ… 気が付くと声をかけてくる者がどんどん減ってきているが、特に気にしてはいなかった。
しかし、レイコが消えた日に、宿屋で借りている部屋にはレイコの収納に入れていた私物や、その日まで稼いできた金貨や銀貨も置かれていたため、急に生活が困窮する事が無かったのは救いだった。
これまでの稼ぎは全部折半していたため、対集団が苦手な自分でもかなりの額を蓄えておけた。
「最近は誘ってくれるパーティも少なくなったし、今日もソロ活動するしかないかな。レイコがいれば魔法の効果が広範囲だから楽して稼げたのに… ホント面倒だわ」
今の宿屋であれば1年は暮らしていけるだけの蓄えがあるとはいえ、使って行けばなくなるのは道理。ソロだと収入は激減するけど、稼げる時に稼いでおかないと酒場でお酒を飲む事すらできなくなる。
「仕方ない、今日も適当に稼ぐとしますか。せめて貯蓄を切り崩さないで済むくらいには…ね」
嫌々ながらも、マインズダンジョンに向かって歩き出したのだった。
カオリの視界の外で、転移者の動向の監視を務めていた輸送部隊の隊長と、新たに王命でこの地へやって来たアニスト王直属の諜報部隊の者達が、情報の共有と引継ぎをしていることに気づかないまま…
SIDE:殿下と呼ばれた男
「殿下! 南門から多数の騎士が出陣しています。行き先は西部にある森のようです」
「ふむ、どうやら動き出したようだな。しかし、想定よりも騎士の人数が少ないのではないか?」
「かなり大型の荷馬車を3台伴っておりますので、どうやら援軍か輜重部隊ではないかと予想できます」
「なるほど… つまり昨日起きているであろう魔物の氾濫に主軸部隊を出陣させ、そのまま森の監視のために残っていた…と、そしてそれらの部隊に向けて支援物資を運び出そうとしている… そんな所か?」
「その可能性は大きいかと」
ふむ、確かにそれであるならば、魔物が氾濫したはずなのに王都が静かになっている件にも説明がつく。想定であれば今頃は混乱の極みにあるはずなんだからな… それなのに周囲には戦闘の跡も魔物の死体すらないから、実は魔道具が起動していなくて氾濫すら起きていないのではないかと疑った物だ。
「よし、それでは敵の輜重部隊が視界から見えなくなったら行動開始だ! それまでは決して我らの存在に気取られるなよ!」
「承知しました!」
輜重馬車を引き連れた騎士の数は100人程度か… なんなら奴らも襲って補給物資を略奪してやっても良いかもしれんな。
どうせそのような役目を負うものは木っ端騎士に違いない、我らの精鋭にかかれば容易く葬れるだろう。
「よし、先ほど出ていった輜重部隊に対し、500程出して物資を奪い取ってこい。そうすれば物資を待っている部隊に対してもダメージになるだろう」
「承知しました…が、人選の方は?」
「うむ、お前に任せるから良きに計らえ」
「ははっ!」
よし、これで一挙両得というものだな。数日後には辺境伯領を突破した友軍2万が合流する、物資はいくらあっても足りないくらいなのだ。
命令を受けた部隊500人が鎧を脱ぎ、一般の冒険者を装って輜重部隊に向かって進軍を始めた。
もちろん500人が勢揃いで動けば遠くからでも視界に入るため、すぐに警戒されてしまう。そのために10~15人でいかにもパーティを組んでいるかのように偽装させ、多方面から囲み込むように動き出していた。
「ふっ、我が国の精鋭の武力、思い知るが良い」
現場の指揮は副官に任せて馬車に乗り込み、ワインを飲み始めたのだった。
SIDE:来栖大樹
東門から始めた物資の輸送、東→北と済ませて西門は閉鎖中なので南門までやって来ていた。
「ここで終わりだな、荷運びよりも移動時間の方がかかったな」
「それは仕方ないよね、王都内じゃ車も使えないし… 馬車が自由すぎるんだよこの町は」
「全くだわ、規律も何もあった物じゃないわよね」
朝から荷運びという色気も何もあったもんじゃない仕事に従事しているせいか、美鈴も霞も辛口で王都の批判をしている。
しかしまぁ… 確かにこの町を行き来している馬車というのはひどいもので、ど真ん中を偉そうに走る貴族馬車がいたり、2台並んでノロノロと並走している商人がいたり、道の真ん中で荷台が壊れて立ち往生している馬車がいたりと交通網はボロボロだったのだ。
グチグチ言いながらも手はちゃんと動かしているので、物資は滞りなく納め、ギルドへ帰還しようとした。
「おい! 南東の方角から多数の武装した集団! 凡そ1000から2000!」
「伝令兵!各門へ伝達を急げ!」
「もう一度言う! 武装した集団が王都目がけて移動中! 門を閉じろー!」
突然衛兵たちが騒ぎ出した。
来るとは思っていたけど… 本当に来ちゃったか。でも敵影は1000から2000? その程度で一国の王都を落とせるとでも思っているんだろうか。
「とりあえずギルドに行こうか」
「そうね、その方が間違いないわ」
敵兵の少なさから、どこからかの伏兵の予感がするな…




