107
誤字報告いつもありがとうございます。
戦闘準備のためと言ってギルドから出てきたが… 特にやることは無いんだよな。
「んじゃアレか? 王都からの出入りは制限されてるっていうし、早々にマイホームに入って訓練でもしてた方が時間の使い方としては正しいのかね」
「そうね、適度に運動した方がリラックスできて良いと思うわ」
「そうだねー、準備と言ったってねぇ… 全部マイホームで用意できちゃうしね、明日のお弁当とかも」
「そうか、明日は朝から出なきゃいけないから、昼飯はお弁当にしないといけないのか」
「後方支援を約束してくれたとはいえ、ギルマス以外の偉い軍人に何か言われたら動かなきゃいけなくなる場合も想定できるでしょ? 町で何か買うって事も出来ない可能性もあるからね」
「それならマイホームに入ってすぐに作っておいた方が良いわね、道具箱に入れておけば時間は停止するのだし、朝に作るよりも充実したお弁当が作れるんじゃないかしら」
「そうだな、夜明け前に集合って事だから… 弁当作る暇はないかもしれないしな、そうしようか」
「それじゃあ鍛冶屋の近くに行く? あの辺は人目を避けられる場所が多いから」
「そうだな、そうしよう」
明日に向けての話し合いもさっくりと済み、さっさとマイホームに入ってしまおう。
予定通り鍛冶屋近辺の建物の陰からマイホームへと入り、女性陣は明日の分の食事を作りに厨房へと入っていった。
まぁこの緊急依頼が何日続くかも不明なため、一応多めに作ると言っていたが、そこら辺はお任せしても大丈夫だろう。2人ともレパートリーは少ないものの、料理自体の腕前は良く、腹に入れば十分だという俺の料理を軽く凌駕しているからだ。
「さて、そんじゃ俺は弾薬の補充でもしておくかね。RPG-7はあまり他の冒険者に見られたくないからスルーとして、敵側の輜重馬車を壊せるよう対戦車ライフルの弾を多めにしておくか」
車や戦車と違い、馬車には燃料が積まれているわけではないので、対戦車ライフルを乱射したところで爆発する訳ではない。
ダンジョンで魔物と戦って得た身体能力を以って、馬車の車軸を遠距離から狙うためだ。対戦車ライフルの破壊力であれば、多少狙いを外したからと言っても着弾点周囲に与える影響は大きいから、馬車を走行不能に追いやる事も多分可能だろうという判断だ。
「それと… 近距離で囲まれてしまった場合に備えてショットガンもあった方が良いのかな。威力的には心許ない感じがするが、それでも鹿や熊などを駆除するのに使われるくらいだから、鎧越しでもダメージは与えられるだろう。って、何を考えている! いくら敵とはいえ駆除するって… 一体何様なんだって思考をしていたな」
気のせいかと思っていたが、どうやら俺も随分とこの世界の常識に取り込まれているようだな。
イカンイカン、身を守ることが最重要だとは言え、人を害虫のように考えてしまうのだけは許容できない。
確かにこの世界の命は格安だ、それはここに来るまでの道中にもいた盗賊どもが物語っている。この世界の人間達はそれを当然の物として受け入れており、そういった輩から身を守るために躊躇もしないし情けもかけない。
悪い奴は自分自身には危険が伴わないように力の無い女子供を狙い、攫って売り飛ばして金にする… そんな奴らだったら殺してもいいのか? 生かして益になるように償わせる方が建設的だろう。
「ま、これが綺麗事だって言うのは分かってるけどな。被害者の方が加害者を殺しても足りないほど恨んでいるだろうし」
郷に入れば郷に従え… この言葉が頭の中を駆け巡る。
この世界にとって、異世界からやって来た俺達は間違いなく異物なんだろう。元居た世界では常識だったからと言って、それを強要する資格なんて言うのはもちろん無いという事も理解している。
「はぁ~、本当に煮え切らないな… 俺は」
とはいえ、はっきりと頭が狂っていると判断したアニスト王国の王家と、召喚するために働いた関係者に対する恨みは本物だと思っているし、アレを放置してはいけないと俺の脳は全力で警鐘を鳴らしている。
報復すると決めたのは俺自身だし、王族を捕らえたとしても、恐らく簡単に解放されて逃げだすだろう。…となれば、うん、殺すしかないんだよな。
ああいう連中は自分自身のやる事に罪悪感なんて持ってないだろうし、むしろ報復に来た俺達を悪だと断じるだろう。もし捕らえられたとしても、逆に逆恨みをして復讐心に火をつけて来る。これは間違いない…
「あーもう! 本当に俺はチキンだな。ちっとも人を殺す覚悟ができない… 魔物であれば簡単に殺せたのにな」
人類に害する者に対しての罪悪感とは訳が違うのは分かるけど、どうしても『よし!やるか!』とはなってくれない…
美鈴や霞の肝が据わっているとかじゃなく、ただ単に俺が臆病なだけなんだろう。若さがどうのとか順応性がどうのとかただの言い訳だからな。
……、まぁアレだ、今回の事は天啓なのかもしれないな。いい加減覚悟を決めろと言う…
よし、うじうじ考えるのは止めにして、少し体を動かして発散させてくるかね!
トレーニングルームで一汗かいてくるとしますか! 自分に自信が持てないからこうしてネガティブになってしまうんだ、考え方を変えていかないとな! 俺だって危険度が高いと言われているオーガ相手に勝てるくらいにはなっているんだ、いつも近くに強すぎる霞がいるから、自分の力は大したことは無いと思ってしまっているんだ。
「うん、霞は強い。比べる方が間違っているんだ… よしよし、少し元気が出てきたかも?」
それから夕食までの時間、みっちりと体を動かしたのだった。
「おじさん夕食の用意が出来たんだけど… 生きてる?」
「ああ…」
張り切りすぎて体力の限界を迎えてしまっていたようだ。疲れ切った体を動かす元気もなく、床に突っ伏していたところを美鈴に見られ、どうやら心配をかけてしまったようだ。
日本にいた頃に比べて体力がものすごくついていたと自覚していたが、ちょっとやりすぎてしまったな…
重い体を何とか起こし、食事が並べられたテーブルになんとか辿り着く。
「おじさんは何をやっていたの? 明らかにオーバーワークじゃない。明日までに疲れが取れなくなってしまうわよ?」
「そうだな… ちょっとばかり反省はしているよ」
とりあえず失われたエネルギーの補給をしないとな…
テーブルに並べられた料理を見て、ゆっくりと食事を始めた。




