⑪
「おじさん、私もたまには湯船に浸かりたいわ。お風呂ってどのくらいの広さなの?」
霞まで介入してきた… ぐぬ
「4~5人くらいは入れる程度かな」
「それじゃ一緒に入る? おじさん私達に興味ないんでしょ? だったら大丈夫!」
「美鈴の頭が大丈夫じゃないんじゃないか?恥じらいくらい理解できる年齢だろ?」
うーむ、まぁ今日で9日も 常時一緒に居るせいか、慣れすぎて馴れ馴れしくなってきてるな。 ここは一つ、線引きをしておくべきかな
「なぁ美鈴、一番最初に言った事を覚えてるか? このマイホームの中では俺の言う事は絶対だって」
「いや、その 覚えてるけど」
「確かに今日で9日、ずっと一緒に居るし同じ目的のために行動する仲間だと俺も認識してるけど、少しばかり踏み込みすぎなんじゃないか? 馴れ合いがダメという訳じゃないけど、共闘する仲間としての節度は持って欲しいんだ」
「うー」
美鈴の勢いはどうやら止められたようだ、霞も大人しく話を聞いている。
「まぁ偉そうな物言いをしたけど、ぶっちゃけて本音を言うと現状で、俺の唯一の癒しの時間が削られるのが困る。 女の子の風呂は長すぎるから待ってられない! っていう事だな」
「それじゃあ一緒に…とかは?」
「銭湯だって温泉だって、他に誰かがいれば 無意識に気を遣うだろ? 1人で入るからいいんだよ、風呂は」
ふと見ると、一歩距離を置いていた霞が手を挙げている。
「何?」
「おじさんの後ならいいかな? 私は多少遅くなっても構わないわ」
「いやいや、おっさんの残り湯とか嫌だろ? 普通に考えてあんたらの親父さんと似たような年齢なんだぞ?俺は。年頃の女の子って父親を嫌がるって聞いたことがあるけど」
「確かにそれはあるわね、私自身もお父さんは嫌いだし。でもお父さんとおじさんは全然違うわ、 おじさんはすごく頼れる大人だって思ってるから、近くにいたって嫌だとか思わないし少なくとも私には残り湯とか気にしないわ」
「私も! おじさんの事嫌いじゃないよ! お風呂もおじさんの後で大丈夫」
「ええー? あーもう! んじゃ俺の後な! それで文句が出るようなら風呂場出禁にするからな!」
「やったー! やっぱり湯船は癒しだよね」
なんか2人共爽やかな笑顔を見せている、まぁうん 風呂は癒しだ間違いない。
とりあえず風呂の事は置いといて、2人の護身用の銃をどうしようか。霞は俺より遥かに腕力があるからいいとして、美鈴も召喚補正なのか身体能力が日本人のそれとは段違いで高いので、威力の高い銃でも平気かな?
それならまずは、俺が練習しているM1911とデザートイーグルを2丁ずつ制作。待っている間にホルスターを別の装置で制作。
美鈴には太ももに付けるタイプの方がいいかな、霞は蹴りも使うからショルダーがいいだろうな
「あ、銃を作ってくれてるの?」
洗い物をしていた美鈴が戻ってきたようだ。
「まぁね、ぶっつけ本番で使いこなせる武器じゃないだろうし 練習は必要だろ?」
「うんうん、さすがに銃とか撃った事ないからねー」
「そりゃーね、日本に住んでれば縁のない物だしな。 撃ちたい人はアメリカとかに行くんだろ?わざわざ」
「そうなんだろうね、私は海外に行ったことないからわかんないけど」
「うん、俺も無いな」
「私は欧州になら行った事があるわ、でも銃は撃ったことは無いわね」
霞も戻ってきたようだ。
「それじゃあトレーニングルームに行こうか」
3人でぞろぞろと移動して準備をする。的にするのは弓道で使うような藁をまとめてあるやつ、それに立て掛けるように 厚さ1センチの鉄板を置く。
「まぁテレビドラマや映画とかで見てるだろうから知ってると思うけど、 撃った瞬間 結構な勢いで反動が来るから脱臼とかに注意だな。衝撃は上に逃がす感じが良いと思う、あくまで素人考えだけどな」
2人にM1911を渡し、45ACP弾の入ったマガジンも2個ずつ付ける。耳を保護するための防音ヘッドホンをつけさせる。
素人しかいない場所で射撃訓練が始まった。俺にも詳しい知識は無いから教えてやる事も出来ないし、なにより俺が教えてもらいたいくらいだ。まぁ俺はサブマシンガンがあるから、連射力でカバーするけどね。
弾丸を何度か追加で製造しながら1時間ほど練習をしてたんだが… 美鈴も霞も上達が早くてすごかった。2人共ショルダーホルスターを選択し、早速装備して使い心地を確かめていた。
「じゃあ 俺は風呂に入ってくるから」
そそくさと浴室へ向かう、順番待ちがいるって事でなんとなく急かされてる感じもするけど、ここは大人しく待っててもらおう。俺の癒しの方が重要だ。
とはいえ、男の風呂なんて4~50分で終わるもんで、そんなに待たせた訳でもないようだった。
「はぁ やっと湯船に浸かれるよ、 久々でなんだか感激だよ」
「とりあえず今日は2人で入るって事で良い? 明日以降は何か考えましょう」
時計を見ると21時を過ぎたところだ、まだ寝るには早いので制作できる物を少しでも把握しておこう。
「おおっ こんなのも作れるのか、でも選べるのがこれ1択か…マイホームのレベルが上がったらもっと増えるのかな、増えたらいいな」
今見ている項目は『車両』だ、ただ現段階では一つしか選べない。一昔前に、軽で最強のRVと言われたジ○ニーだ。ただまぁ、3人乗ると狭いのよねアレ… でもこれはいいな、国境超えてあの兵士たちを振り切った以降の足にするには十分すぎる。と、なれば次はガソリンを探すか。
ガソリンもあった、しかしこれどういう仕組みなんだろう。異世界だからしょうがないと割り切るべきか、制作に対するリスクをもっと検証してからやるべきか… とはいえ、あまり時間はないんだよな。まぁ正解かどうかはいまいち不明だけど、魔力の訓練っぽい事は毎日継続しているし倦怠感も感じないから、きっと許容範囲の中でやり繰りできていると信じるしかないか。
おっ 制作した車両はガレージに完成品が置かれるのか、ガレージは個別で扉…というかシャッターを呼び出せるからジ○ニーを作っておこう、何があるかわからんしな…ポチっと。
製作時間は4時間か、これなら先にやっといて正解だな。いざ使おうとしたときに4時間待ちとかきついもんな。
ガソリンも100Lほど作って…ってダメか、携行缶を先に作るべきか、ってアレ? ガソリン作ったらどこに出るんだ? えーとえーと… あった。ガレージにドラム缶があるのか、あれって200Lだったっけ
そういう事なら100L作っちゃおう
よしよし、着々と逃げ出す準備が進んできているな。あとはアレか…撃つことに躊躇うことはなかったけど、果たして俺に 敵とはいえ殺すことが出来るのか…が問題だな。やはり殺さずに済むんならそれに越したことはないけど、あの兵士達は 殺す事に手慣れた連中なんだろう。そんな奴らを相手に殺さず… なんて甘い事言ってられる暇があればいいけどな。
いまいち覚悟を決められずに悩んでいると、女性陣が風呂から出てきた。
「いやぁお風呂って幸せになれるよね。今後も毎日入れるように、訓練しなきゃね」
「そうね、殺されたらお風呂どころじゃないから。あ、おじさん いいお風呂だったわ ありがとう」
「ま、風呂は癒しだからな」
「「そうだね!」」
異世界での9日目が終わろうとしていた。
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