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誤字報告いつもありがとうございます。
「そんな訳で、さっき言っていた後方支援? それのみなら受けて良いと思っている」
「ふぅ、収納持ちが支援してくれるんならそれだけでも十分価値がある、正直助かるよ。まだどうなるかは不明だから連絡が付くように待機していてくれ。できればギルド内で待機してくれるのが望ましいな」
「なるほど、でも夜間は連絡が取れないと思うが、それは承知してくれよ?」
「まぁしょうがない、承知した」
突然、ギルドマスターの執務室の扉がノックも無しに開かれた。
「ギルマス! 例の魔道具が突然起動した!」
「なんだと? なぜ起動したのか分かったんだ?」
「これを見てください、魔道具に書かれている魔法陣の中心部が赤く光っているのです」
「むぅ… これは初めて見るが、確かに普通では無いな」
「恐らくこれらの魔道具を設置した連中が動き出したという事でしょう。光り出したのは少し前なので、多少の猶予はあると思いますが、何か対策をするのなら急いだ方が」
「よし分かった! 現在王都にいる全ての冒険者に緊急招集を発動する! 全ての職員にも通達しろ!」
突然の出来事に呆然としてしまったが、いよいよ魔道具が動き出したようだ。
「効果範囲は分からないけど、魔道具が設置されていた間隔を見れば王都に魔物が押し寄せることは無いと思うけど、間違いなく陽動だろうから別の方角にも注意をしないとダメだよ!」
バタバタと慌てだしたギルドマスターに対して美鈴が声を荒げた。
「む? 確かにそうだな、魔物だけで王都は落ちるような軟弱な防壁ではない。間違いなく人間が攻めてくるだろう… 良く気付いたな!」
「ええ? 最初から陽動だと思っていたけど? まぁそれなら早いとこ国の騎士とかにも教えてあげなきゃ」
「もももちろんだとも! 誰か、王城に連絡をしに走ってくれ! 魔道具が起動したと!」
「大丈夫かコレ…?」
慌てふためく筋肉を見ていても面白い事なんて無いな、さっさとロビーに移動しよう。どうせあれこれと説明があるんだろうし… でもこの調子じゃ満足な説明は出来ないかもしれないな、まぁいっか。
「なんか心配になるわね、このギルドマスター」
「全くだな、だけど一応ギルドマスターなんだから、それ相応の力を見せてくれるんだろうよ」
「相応の力って筋肉の事じゃない? 物理的な力はあるんだろうけど、知的には見えないよね」
「おいおい、そこは黙っておいてやろうぜ…」
美鈴の口が辛口になってきている… これはギルドマスターの事をアホな奴だと認定したな?
とりあえずロビーに移動し、空いている隅っこのテーブル席に座り込む。この先ギルドマスターから何らかの方針が言い渡されるだろうから、それは一応聞いておかなければいけないよな。
「それにしても、大層高価な魔道具を3個も囮にしてまで攻めてくるなんて、どこのどいつなんだろうな」
「いやいやおじさん、あの魔道具が囮だって言うのはまだ仮定の話だよ? ギルマスも囮かもしれないって気づいてなかったくらいなんだから、敵方ももしかしたらその有用性に気づいてない可能性が…」
「いやー、さすがに攻める側となればそこは考えるだろ。統率されていない魔物と一緒に攻めるなんてリスクの方がでかくないか?」
「まぁね」
「なんだよ、言ってみただけかいな」
「そうとも言う」
美鈴の機嫌が悪いな… そういえばダンジョンでの魔物狩りは鬱憤を発散できる場所だったからな、それがもう2週間以上満足な戦闘が出来ていない。
うーん… これは対人戦闘の事も期待してたりするのかな? 後方支援だって事と次第じゃ危険な立場でもあるからな、これが戦争だというならば補給線を断つのは定石だろうし。
「霞はどうだ? そこら辺の考察は」
「え? 私もそう思ってるわよ。魔道具を3個も仕掛けておいて陽動じゃない方が驚くわ」
「確かにな… ここが辺境で、森の中には難易度の高い魔物が犇めいているって言うならまだしも、この辺じゃ特に危険な魔物はいないみたいだしな。そんなんで落ちる城壁じゃないことくらい素人でも分かるよな」
「正直言って、魔道具の価値って言うのを正確に把握していないから細かくは分からないけれど… あの魔道具1個の価値を日本円で換算するとどのくらいなのかしらね」
「さぁなぁ… ギルドマスターや魔術師ギルド? の連中の態度から察するに国宝級レベルっぽいから、数億円?」
「最低でもそれくらいはありそうだよね。2個目見つけた時の驚きようと、3個目見つけたときなんか顎が外れそうになってたからね… ギルマス」
「つまり、あのクラスの魔道具を作成できる国か、それらを買い集める事のできる裕福な国。もしくはどこかのダンジョンからドロップしたのか」
「ダンジョンドロップは無いんじゃないかしら、ギルマスが言うにはプラム王国製の魔道具じゃないかって言ってたし」
「そうだっけ… ふむ、尚更良く分からんな」
「とりあえず、3個見つけたけど、もしもそれ以上に設置されてたとしたら、そろそろ森の周辺が騒がしくなる頃じゃないかな。国軍がどう動くかは知らないけど、敵の方もどこかでこっちの動きを監視している可能性もあるからね… 裏をかくために軍の一部を森に向かわせて、相手方の動きを扇動させるのも有りかもしれないね」
ふむ… 何も知らないフリをして敵方を扇動させる…か、確かに有りだな。
少なくとも3個の魔道具はすでに見つけているんだ、高級品の魔道具がこれ以上無いとは言わないけど、あったとしても1個や2個だろう。
それらに対応していると見せかけて、実は回り込んで挟撃するとか… うーん。
「しかし、戦略?戦術? どちらにしても深い話だな。俺はそういった事に興味が無かったから詳しくは知らないけど、確かに知っていれば相手の裏をかくなんて簡単に出来そうだな」
「考えるだけならね… 考えるにしたって日本人なら、あくまでもゲームの世界とか、仮想での話でしょう? その作戦で誰か分からないけど死者が出るとなったら安易に口には出せないよね」
「ま、そうかもしれないが、それらを考えるのはこの国の偉い人の仕事だろ。可能性の話って程度でチラッと教えるくらいでちょうど良いんじゃないか?」
「ダメよ、それじゃあ偉い人が人的損害を無視した作戦を取った場合、しわ寄せは前線に来るのよ。命の値段が安い世界なんだから、平気で使い捨てにしてくるんじゃないかしら」
「うーん… もしかしてこの国、もう後が無かったり?」




