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異臭は突然やって来た。日が暮れて馬車が止まり、兵士たちが静かになるのを待っていたら…汗やら何やらの体臭が匂ってきた。
「くさっ 何これテロ?嫌がらせ?」
美鈴が顔をしかめながら毒を吐く、そういえば久々に毒吐いたな…なんて思っていたら、馬車の幌がめくられた。しかし暗いため、誰が来たのかはわからないが、頭の位置が低いので恐らく隣の馬車の連中だろう。
「誰だ?」
一応声をかけてみる
「あ、あのーちょっと話がしたいんだけど、入っていい?」
「ダメに決まってるでしょ!くっさい」
俺が返事をする前に美鈴がなんかキレてる
「こっちが外に出るからちょっと離れて」
めくられていた幌が戻されたので面倒だが外に出ようとすると。
「おじさんは下がっていてくれる? きつそうな言い方してるけど、なんだかんだ絆されそうだから私が話するわ。 さっき言ってた内容でいいわよね?」
霞がなにやら主導したいようなので任せるとするか。委員長っぽいし、まとめるのも上手なんだろう。
「ああ、情けをかけるとしてもさっき言った通り おにぎりくらいしか考えてないよ。まぁ…この臭さはきついからシャワー室を1回だけ貸すのも有りかもな」
「わかったわ、それだけでも十分に温情だと思うわ」
「私も気になる事があったら口出すね」
美鈴も参戦するようだ。まぁ暗くて見えなかったが、間違いなく普通ちゃんか陸上ちゃんだろう。ヤンキーカップルは完全に敵対してるだろうからな。
軽い打ち合わせっぽい事をしてから、改めて外に出る
「それで?話がしたいと言う事だけど、 どんな話?」
前に出た霞が先制攻撃。暗くて表情が見えないため、馬車内で使っていたテント用のLEDランタンのスイッチを入れる。まぁこれも道具製造で作った物だけど、常時薄暗い幌馬車の上部にぶら下げて中を明るくするのに使っていたやつだ。
「あのね、 私達もこっちのグループに入れて欲しいの。あのヤンキー2人にはついていけないのよ」
「自己紹介されてないから あなたたちの名前は知らないけど、こちら側からするとあなたたちもヤンキー達と同類なんだけど?」
「ああ、ごめん。 私はカオリっていうの、こっちの子はレイコ。後、あいつらと同類扱いは勘弁してほしいんだけど」
普通ちゃんの名前が分かった、まぁ知らなくても困らないんだけどね。普通ちゃんがカオリで陸上ちゃんがレイコか、すぐ忘れそうだな。
「どう見たって同類でしょ、あのチンピラヤンキーのハーレム要員なんでしょ?キモいし」
すかさず美鈴が口を挟む。この子、大人しそうに見えるんだけどな…かなり辛辣な言い方してるな。まぁこっち側に来ることを諦めさせるって意味合いもあるんだろう。
「いやちょっと待って、私達だって被害者だよ? 誰があんな奴の…」
「被害者?でも あのヤンキー君は最初からハーレムだって言ってたでしょう?それを聞いたうえで行ったんだから、被害者って言われても困るわ」
「だってしょうがないじゃない!食べ物がアイツの手に渡ったんだから」
「食べ物と引き換えだったんでしょう?それを了承したからそっちに行ったんだろうし、そもそもの話、全員分あるはずの食糧を奪っていった側の人間だよ?あなたたちも」
「私達は関係ないよ!全部やったのあのヤンキーじゃん 私達は被害者なの!」
興奮してきたのか、前に出て喋っている普通ちゃん、カオリの言葉がだんだん支離滅裂になって来たな。自分は被害者なんだから可哀相でしょ?的な態度はマジで気に食わないな。それ以上の被害を被ってる俺達の事は何も考えてないって事だしな。
「まぁどっちにしても、私達は3人で乗り切ろうと移動中も馬車の中で努力してるのよ。この8日間である程度の信頼関係は築けてると思うわ。その中にあなたたちを入れるという選択肢はないの、大人しくあっちの馬車に戻ってくれる?」
霞の言葉に唖然としているカオリとレイコ、カオリの陰に隠れていたレイコも口を出してきた。
「私達は同じ日本人なのに、助け合おうと思わないの? 日本人というか人間としてどうかと思うんだけど?」
「なにそれ自己紹介でもしてるの? 一番最初に食料を奪い、私達を見捨てたあんたらがそんなこと言える資格あるとでも?」
美鈴が反論する、俺もその意見には同意だな。食べなければ生き物は死ぬんだ、それなのに食料を持っていき 今まで一度も分けようとはしなかったからな。
「だからそれはあのヤンキーがやったって言ってるでしょ!」
「話にならないわね、私達の総意としてあのヤンキー君も、それに従ったあなたたちも同類なのよ。気が向いたら助ける事もあるかもしれないけど、今の態度を見てたらそれも無いかもしれないわね」
霞が冷静に、かつ冷酷に言い放つ。 まぁ今頃被害者面したってね
腕を組んで動向を見守っていたら、カオリが俺に向かって言い放った。
「おじさん! 私がおじさんの女になってあげる。おじさんだって若い子は好きなんでしょう? 真面目ぶった女やチンチクリンの女より私の方がいいわよ?」
何言ってんだこの子は… 美鈴も霞も十分可愛いし、お前はあまりにも普通過ぎるだろ。何より親子ほど年が離れてる子に対してそんな気は起きないっての!
「いや、俺は子供趣味じゃないし。お断わりします」
「はあ? おじさんはみんな 女子高生を抱きたいんでしょ? 私を抱けば満足するんだろうから、それと引き換えに私を助けなさいよ!」
「なにこれ 話し合いとか無理じゃない?」
美鈴と霞の方を向いて話しかける。
「いやホント、霞さんも言ってたけど 話にならないね。 悪いけどもうあっちの馬車に戻ってくれる?いい加減臭くて困るんだよね」
「せっかく昨日 良い感じで雨が降ってたんだから、少しは汗を流すとかすればよかったのよ」
なんだか霞まで辛辣になって来たな、まぁどっちにしてもこれ以上は時間の無駄だろうし進展もしないだろう。
「はいっ じゃあ悪いけど、俺達も明日に備えて休む予定だから話し合いはまた今度ね。少しは頭を冷やしてちゃんと『対話』ができるようにしとくといいよ。それじゃ馬車に戻ろうか」
「そうね、時間は無駄に出来ないからね」
「うんうん、戻ろう戻ろう」
唖然としているカオリ、レイコの両名を置いて馬車の中に入った。
「いやー 思ってたより精神的にキテるね、あの2人」
暗いから表情はわからないが、ちょっと軽めな態度で美鈴が感想を言う。
「そうね、 でも さすがに付き合ってられないわ。 地雷としか思えないわね」
地雷か…うまい事いうな霞は…
「とはいえ、腹も減ったし さっさと夕食にして、明日以降に備えるかね」
外にいた2人の足音が遠ざかっていくのを確認し、マイホームベースの扉を出す。さすがに余計な時間を使ってしまったので、手軽なラーメンで夕食を済ませた。
「ところでおじさん? 言いたい事があるんだけど」
なにやら美鈴が腰に手をやり、不機嫌をアピールしている。
「おじさんには マイホームの中をうろちょろするなって言われてたんだけど、少しだけ探検しちゃったんだよね。 そして見てしまったの」
「ええ?一体何をだ?」
「おじさん! 私達がシャワーしてる間に お風呂に入っていたでしょう! なんで隠すの?」
「いやぁ、俺くらいおっさんになると湯船に浸からないとスッキリしなくなるんだよ」
「そんなの年齢関係ないんです! 私も湯船に浸かりたいんです! 使わせてください!」
うおお、語気強めに言い寄ってくる…どうするか。女の風呂は長いから待ち時間を考えるとなー。
「うん、ちょっと落ち着こうか」
とか言ってる間にどうするか考えないと、俺の安息が…
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