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「よくぞまいられた 勇者たちよ」
なんかよくわからんが地球ではない世界に召喚されたらしい。俺を含めて10人いる、だが… 俺以外の9人は皆若い。見たところ高校生くらいの男女だ、俺を含めて男5人女5人。そして偉そうな態度を取っているのはいかにも『王様』という王冠を乗せたふくよかな…ああもう! はっきり言おう、デブいおっさんがふんぞり返って立派な椅子に座っていた。その背後にはどうみても王女という豪華なドレスを纏った若い女性が3人、そして周囲には海外の映画に出てくるような甲冑を身に着けた騎士が槍を持って20人くらい立っていた。
視線を戻して召喚された9人を見る。勉強のできそうなメガネ君、髪を染めてちょっとやんちゃっぽいヤンキー君、髪の毛がボサボサで油っぽいオタク君、こいつはモテそうだと感じるイケメン君、黒髪ロングで超マジメそうで、クラスを仕切っていそうな委員長ちゃん、金髪に染めて化粧が濃く、ヤンキー君に寄り添うヤンキーちゃん、ショートカットでボーイッシュ、いかにも体育会系陸上部っぽいユニフォームの陸上ちゃん、茶髪のセミロング、特筆する項目の少ない普通ちゃん、 ショートカットでメガネ付き、運動が苦手そうな理系女子の理系ちゃん、あ、これは俺が感じたイメージね あくまでも。そして俺、皆若いのに俺は40歳の会社員だ、特に目立った特技はない。
「この国は魔族に侵攻され、滅びに瀕している。そこでお主らにこの国を救ってもらいたいのだ、 まずはお主らがどのような加護を得たのか鑑定をさせてもらおう」
デブい王が偉そうに話を進める、しかし勝手に呼び込んで縁も所縁もない国を救えとは傲慢だな… なにやら白いローブを羽織った男が水晶を持ってきた。
「この水晶に手をあてて、ステータスと言うのだ」
一番近くにいたオタク君が水晶を触る。
「おおお!大魔導士の職を得ていますぞ! これは素晴らしい!」
ローブを羽織った男…もうローブでいいや… ローブが大きな声で鑑定の結果を叫ぶ。続いてイケメン君。
「おおおおおお! 陛下、勇者ですぞ!」
「うむっ! 素晴らしいの!」
そして普通ちゃん、陸上ちゃん、ヤンキー君とヤンキーちゃん、委員長ちゃんメガネ君理系ちゃんときて最後に俺が鑑定された。
結果は… 普通ちゃん→斥侯、陸上ちゃん→魔法使い、ヤンキー君→侍、ヤンキーちゃん→治癒師、委員長ちゃん→武闘家、メガネ君→賢者、理系ちゃん→聖女、そして俺…マイホームベース、 え?なんだこれ? ん? 良く見たら詳細が見えるのか、どれどれ…
【マイホームベース】魔力を使い亜空間にあるホームベース(拠点)との扉を繋ぐ。 部屋の数、設備、装備の種類等は魔力量により変動する。魔力変換により、水、食料、武器、道具を出すことが出来る。
ほほぅ…つまり移動できる拠点なのね、なるほど… これは便利だな。生活レベルがどんなもんか知らないけど、水と食料が自分で用意できるのは良い事だ、問題は魔力を使うってとこだが… まぁそれは修行するしかないか、魔力なんて知らないしな。
1人で考え事にふけっていると、なぜだか理系ちゃん… もとい聖女ちゃんがこっちをガン見してくる、なんだなんだ。
「よし、それでは… 勇者と賢者、大魔導士はこっちへ来てくれ。後は任せる」
最後の言葉はローブに向けて発せられた。そして呼ばれた3人の男性に王女3人が付いて召喚された部屋を出ていった。
「では残った者、お前たちは使えない加護なので国外へ追放とする。衛兵! 隣国への国境までお連れしてくれ」
「はっ 了解しました!」
何を言ってるんだコイツラ… というか聖女とかってメジャーで有能そうな職業を使えないってどんな神経なんだ?
「ああ? いきなり何言ってんだオメーラ! ふざけんじゃねーぞ?コラァ!」
おおう、ヤンキー君…は、なんだっけ、ああ侍か。侍君…ってイメージじゃないな、ヤンキー君のままでいいや。そうそう、ヤンキー君がローブに食って掛かった…がっ、兵士に槍を突き付けられ一瞬で大人しくなった。
「本来なら役に立たない者などこの場で処刑… と言いたいのだが、召喚された者が非業の死を遂げると、今後その地に召喚できなくなるという決まりごとがあってな、隣国への国境を越えたら処刑することにしてるんだ。せいぜい残り少ない時間を楽しんでくれたまえ」
なるほどなるほど、隣国で非業の死を遂げさせ、隣国で召喚できなくなるよう仕向けるって事か。コイツラ悪よのぅ。
と、いう事は… とりあえず国境を越えるまでの間は殺されることは無いって事だな? その時間を使ってマイホームベースを使いこなせるようにならなきゃいけないな。それに… 俺が一番の年長者だから、この子達を引っ張っていかなきゃいけない…のか? どうするかね。
「よし お前ら俺についてこい。俺のハーレム要員になれば国境を越えた時に守ってやるぜ! 俺はサムライだからよ! ああ、マイホームだかの使えそうにないおっさんは来るなよ。わかったな!」
アホなのか?コイツ… よし!年長者の決意は消えてなくなりましたよ。これなら子供の面倒見なくて良さそうだし放っておこう… ん? 聖女ちゃんなんでこっちくんの?
「私はこの人と行く。ハーレム?馬鹿じゃないの?」
おおう、見た目は理系女子なのに攻撃的なセリフを吐くのね… というかヤンキー君血管切れそうなくらい顔真っ赤なんだけど、それに俺まで睨まれてるんですけど!
「私もハーレム要員とかごめんだわ」
委員長…は、武闘家か ぶっちゃけ似合ってないけど強そうな職業だよね。どうでもいいけど俺の意見は関係ないとばかりに話が進んで行くので、拒否の声を上げてみる。
「俺は1人がいいんだけど? それが一番生存率が高そうだしね」
そう言うと聖女ちゃんが一瞬驚いた顔をしたが、すぐに俺に向き直って見上げてくる。
「ヤダ、一緒に行く。お願い」
おーう、この聖女ちゃん、おっさんの転がし方を熟知してるね… まぁいいか、聖女ってんなら回復補助の専門家って感じだろうし、間違いなく役に立つよね。
その時、大きな袋を抱えた兵士が入ってきて、その袋を投げてよこした
「その袋には国境を越えるまでの15日分の非常食が人数分入っている、くれてやるから大事に食え。それじゃこっちに来い、馬車に乗ってすぐに出発だ」
15日分の非常食…と言われてすぐにヤンキー君が袋をかすめ取る
「ハハハ これは俺が頂くぜ? 俺についてくれば飯が配られるがどうすんだ? ああ?」
聖女ちゃんと委員長ちゃんを見ながら偉そうにするヤンキー君。コイツはホント頭悪いんだろうな、どうでもいいか、マイホームで食料は確保できるみたいだし。
「全然構わない、好きにすれば? 同じ事をされる覚悟があるんだろうから」
聖女ちゃんは毒のこもったセリフを吐いた後、我関せずといった態度で俺の傍に来る。俺のマイホームって名前だけである程度の予想は立ててるって事か? だとしたら随分考え方が柔軟なんだな。 まぁ槍で突っつかれるのは嫌なので、兵士について行こう。
委員長ちゃんは食事の面でどうしようか悩んでる感じだが、口を出さないところを見るとどっちつかずでうまいことやろうと思ってるのかな? なんか信用度が落ちていく感じだな。