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魔女へ捧げる懇願の意


「はぁ〜〜くぅちゃんってば本当に心が狭い。少しはわたしのように心が広く、大きい人間になれませんかね〜」


「おい、変態露出狂バカ女。下着姿でこれ見よがしに胸はってんじゃーねーよ」


 射殺すような冷たい目でクララはシュシュを睨みつけた。


「い、一度に悪口は1回までですよっ!?」


「だいいち、もうあたしのことバカにしないんじゃなかった? したよね? 今、あたしの胸が貧相でかわいそう、まるで子供の胸みたいって暗にバカにしたんだよね?」


「は、はは、ははは。まさかわたしが大親友のくぅちゃんにそんな酷いことするわけないじゃないですか」


 言いながらも意図せずとはいえ、豊満な胸を揺らすシュシュにクララはいっそう顔を怒らせる。

 さて、どんな暴言を吐いてやろうか、とそう考えて口を開いた矢先、クララの開けた口に小さな手によって数枚のクッキーがねじ込まれた。


「ケンカはダメ。シュシュも約束を破るのは良くない」


 シュシュとクララの間に挟まるよう収まっていたマリーが淡々とした抑揚のない声で仲裁に入ったのだ。

 次なる言葉を発しようにも口内のクッキーを何とかせねばそれもままならず、口中の水分を奪われるそれはなかなか簡単にもいかない。もごもごと口を動かしながらもシュシュを身がすくむような目で睨みつけるクララにマリーは静かにゆっくりと視線を向けた。


「安心して、クララ」


 オッドアイの両目が真っ直ぐにクララを見据え、花の蕾のような小さな口が小さく開かれる。






「クララはマリーと同じぐらいお胸がある」






 不意打ちに加えて致命傷をさらにナイフで抉られるようなトドメの一言だった。

 忙しなく動かしていた顎を止め、クララは数秒の制止。のちに前兆や前口上もなく、的確にマリーの頭にゲンコツを落とした。


「ひぐっ!?」


「マ、マリーちゃん! 小さい子になんてことするんですか!?」


 果たして何故、自分がゲンコツを喰らうハメになったのか。訳もわからず涙目で頭をさするマリーをシュシュは焦りながらもさっと抱きしめた。


「いやいや、マジ……ヤバイ、まさかこんな子供にまでバカにされるとは思わなかったわ」


 口に残っていたクッキーを冷めた紅茶で一気に流し込み、クララは予想だにしなかった事態に目を丸く、ぽかりと口を開けて虚空を眺める。


「……マリーは子供じゃない。1人でトイレだって行けるし、ママのお店のお手伝いもできる」


「いやいや、殺人鬼とか関係ねーわコレ。ボコる、2人まとめてボコるわ」


「く、くぅちゃん? な、なんで立ち上がるんですか? なんですか、その死んだ魚みたいな目、怖い。な、なんか言ってくださいよ? ねぇ、くぅちゃん? くぅちゃんってばーーひゔぅっ!?」


 まさしく生気の感じられない目、修羅の如し血に飢えた瞳で見下ろされて身を寄せ合い、震える2人。その間を割って入るようにシュシュの顔面に布切れが1枚、横から投げつけられた。手に取り、よくよく見ればシュシュの服に間違いない。破れた箇所もどこだったかわからないぐらい完璧に繕われている。


「あんたらはさ、私にくだらないケンカを見せに来たのかい? それが私のとこに来た理由ならさっさっと帰んな。急用ってのがこんなにくだらないものだとは思いもしなかったよ」


 ただ1人、取り残され黙々とシュシュの服を縫っていたアウレアは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

 老いてはいるが、その眼光は鋭く、怒りに我を忘れていたクララとそれに怯えていた2人を黙らせるには十分だった。

 先程までの優しげな老婆とはまるで別人のように見え、3人は姿勢を正す。そして木々に止まり、唄い囀る小鳥たちの声が外から聞こえてくるほどひんやりと静まり返った時にクララに目配せされてシュシュが恐る恐る口を開いた。


「あ、あの実はアウレアさんにどうしても頼みたいことがありまして……マリーちゃん」


 シュシュに言われ、マリーが机の上に小さなナイフを置く。するとそれを遠巻きに眺め、アウレアはさらに威圧的な空気を身に纏わせた。


「このナイフに毒の付与をお願いしたいんです。致死性のものではなく、引っ掻くだけで一瞬にして身体がしびれるような麻痺毒を」


「ほ、ほら。親父が生きてた頃に話してくれてさ。昔は魔具師としてばあちゃんの右に出るものはいなかったって。魔女、アウレアと言えば知らないものはいないってさ……頼めないかな?」


 依然、表情の和らがないアウレアを前に咄嗟にクララが助け舟を出すが、こくりと潔く頷くことはなく。


「……ったく。ホーキンスのやつ、死ぬ前に余計なことを喋りやがったね」


 逆にさらに怒りを逆撫でしてしまったのか、アウレアは小さな舌打ちを漏らした。


「お金なら少しだけ、本当に少しだけですがあるんです。どうかお願いできませんか……?」


 懇願するようシュシュは言い、マリーもそれに習って小さな頭を下げる。

 返答もなく、何もない虚無の時間がしばらく続き、数分してようやくアウレアが重い口を開き、問うた。







「帰っとくれ。私は魔具はもう作らないのさ」







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