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熟練のパンツ使いによる制裁

 握りこぶしに腹からいっぱいの声を出して糾弾するシュシュにクララも負けじとこめかみに青筋を立てて立ち上がる。自分より確実に頭の悪いシュシュにまさか馬鹿と言われる日が来るとはと。その言葉を機に積もり積もったストレスの爆弾が一気に爆発した。


「そんな適当な手術してユウちゃんの身に何かあったらどうするつもりなんですか、ばかぁ!」


「言った! 今、あんたこのあたしに向かってバカって言ったからね! 学舎じゃあたしに一度たりとも成績で勝ったことないくせに!」


「学業と地頭の良さは違いますよ? 何言ってるんです? もしかして本当に……ばか、なんですか? 大体、そんな派手な見た目して本当は真面目な優等生とか何がしたいんです?」


「カッチ〜ン。はい、頭きました。絶対許さないし。表出なさいよ、ほら早く」


「望むところですよ! 言っときますけど昔のわたしだと思って舐めないでくださいね! 毎日毎日、働きに出る貧乏人の体力を。ユウちゃんと数々の修羅場を潜り抜けてきたわたしの実力を!」


 互いの額をつけて表に出るのを待たずして今すぐにでも取っ組み合いを始めてしまいそうな2人。その2人の袖がか弱い力で引っ張られる。




「……ケンカはダメ」




 この部屋にいるのはシュシュとクララを除けば1人しかいない。

 相変わらず人形のように無感情に見える顔つきだが、マリーのオッドアイに少しだけ咎めるような色が見える。


「マ、マリーちゃん……むぐぐぐ」


 自称だが、マリーの姉的存在と名乗るシュシュもまさかその妹が見てる場所で醜態を晒すことが、誰よりも幼い彼女に大人対応をされた悔しさが泣く泣くシュシュの怒りを抑え込み頭に登った血を下された。


「あ、あぁ……マリーが言うなら仕方ない、よね」


 マリーは世間を震撼させた殺人鬼である。その話をこそっとシュシュに伝えられた。マリーの正体を知る数少ない存在であるクララは色眼鏡もあるが、どうにもマリーの眼が恐ろしく感じた。幼くもどこか迫力のあるオッドアイ、何を考えているのかわからない無感情な顔。小さな体躯ながらどこか危険を感じさせるマリーの存在感にクララは圧倒され、おずおずとソファに腰を落ち着かせた。


「ぷぷっ、こんな可愛い女の子が怖いなんてくぅちゃんってば、ぷぷ〜」


「は? ビビってないし。ただ、あたしはあんたみたいな胸だけ発達した子供じゃないし? ここは大人な対応をしてあげただけだし」


「大人なわりにはくぅちゃんは……ふっ」


 小馬鹿にしたようなから笑い。

 再び、クララの怒りが最高潮に達した時、鋭く早い、かと言って然程痛くもない衝撃が2人の頭を叩いた。


「ケンカはダメ。わかった?」


「いやいや、あたしのパンツだから、それ。人のパンツで殴んなし」


「そうですよ! そんな汚い物で頭を叩かないでください!」


「汚くねーしっ!! ーーあでっ!」


 まるで熟練の鞭使いのようにクララのパンツを振り回し、的確に2人の頭を撃ち抜くマリー。

 そのパンツ使いからエモノを取り上げるまでにしばらくの時間を要し、やっとのことで冒頭の真意を確かめる運びとなった。


「……それでいったい何で急に毒なんかを?」


 新たなエモノを調達されぬよう床に散らばっていた下着類を洗濯カゴに入れながら、クララが問う。


「別に誰かに毒を盛ろうとか、()()()()()()()()()()()()()()とかそんなことは一切考えてませんから安心してください」


 そう聞いてもいない悪意を垂れ流す前置きをし、シュシュは出されたココアを大人しく啜るマリーを横目で見た。


「マリーちゃんの護身のためなんです」


「あぁ、確かマリーは協会に『人を殺すことを禁ずる』制約の魔法がかけられてるとかなんだか言ってたっけ」


「はい……厳密に言うと殺人に繋がり得る行為でも鎖に締め付けられるような激痛を伴うみたいでですね。ギルドに所属している以上、こんな小さい子でも命を狙われる可能性はありますし、ナイフに毒でも染み込ませれば人を殺めずとも護身策の1つになるかもなぁって」


「あ〜、それで毒ね。いや、たしかに麻酔薬の類はウチにもあるけどさ。あたしは医者……を目指してるわけ。今、あんたたちに毒を売って後々、問題になればーー」


「え? ただで譲ってくれないんですか?」


「アホっ! 麻酔薬ってのは貴重なの。それに即効性の麻痺毒なんてウチにないし。だいたい、なんであたしに? そーいうのは魔具師の仕事なわけでさ」


「だって言ってましたもん」


「は?」


 大きな目を一段と丸くしてシュシュは首を傾げた。


「毒ならあたしに任せてってクララちゃんが、昔」




「それ、あたしの黒歴史のやつ〜!!」




 その昔、まだクララとシュシュが同じ村にいた頃に村の男子たちとどちらが大きな獲物を捕まえてくることができるか、そんな狩ごっこの小競り合いの折に発した言葉である。

 その続きに適当に毒草を調合した物を誤って祭事用の食事に入れてしまい、村中が大騒ぎになった。という話もあるのだが、それは自意識過剰、童心ゆえの恥ずべき行い、クララにとって忘れたい過去の過ちであった。

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