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尋問と拷問


「随分と熱心な先生様だな。陽が落ちても蝋燭一本でお仕事とは僕にはとてもできない。いや、する気もないんだけどね」


「な、なんなんですかいったい! この学舎は関係者もしくは保護者以外立ち入りを禁止しているんです。もし、すぐに出て行かないようなら人を呼びますよ」


「ふむ、人を呼びたければ呼べばいいさ」


 そう告げてナルキスは極自然な所作で腰の剣を抜いた。


「キミが叫ぶのが早いか、僕の剣がキミの喉を切り裂くのが早いか、賢いキミなら察することができるだろう」


「……アルケスト家の紋章」


「ほう、知っているのかい? さすが先生だ」


「知っているも何も……隣国ブルトンの汚れた血族。王族殺しの悪名高い一族だ」


「あぁ、愚かな兄が犯した大罪のせいで父は断首、兄は逃亡、残された僕ら家族は爵位を取り上げられ辺境の地へと追い出されたそのアルケスト家だ」


「兄……やはり血の繋がりか。あなたの兄上の残虐さは弟であるあなたにもしっかりと受け継がれているようだ」


「ははっ、それはキミとて同じことだろう」


「……ッッ!?」


 目にも止まらぬ早業がルターの親指を音もなく切り落とした。

 声にもならない悲鳴、座したまま悶絶するようにルターは暴れるとドクドクと血を溢れさせる傷口に手を被せてナルキスを怯えた表情で見上げる。


「関係者以外立ち入り禁止と言ったか? ならば僕を咎める必要がない。少しばかり()()のことを尋ねに来ただけさ」


 穏やかな口調と表情にルターは思わず、息を飲んだ。額に浮かぶ脂汗、血液の流れを直に感じるような激痛、今にも叫びたい衝動がそうさせない。


「……友……人……?」


「あぁ、つい最近ほんの今さっきの出来事なのだがなんとも不幸なことに命の危機に瀕するような冒険を経て友人と呼ぶに相応しい関係になったんだ。アメリ、ここに通っているらしい少女のことなのだがね」


 考えるよりもさきにルターの首が横に動いた。

 知らないわけがない。アメリといえばここに通う生徒なのは間違いないのだから。嘘をつけばすぐにバレるなんてことは重々承知している。だが、ナルキスの冷たな瞳が、彼の機嫌を損ねれば命が危うい、そんな威圧感に負けた故の反射的な行動だった。


「知らないわけがないだろう。彼女の口からこの学舎に通っているって聞いたんだ」


 瞬く銀光。少しの間を置いて机の上に固く、小さい物が転がった。


「あがッッ!」


 襲う激痛、傷口を庇っていたもう一方の親指が切り落とされたと気付き、ルターは再び椅子を暴れさせる。


「おかしいと思わないかい? 確かにここに通っているはずのアメリを知らないと言うこと。もし、それが僕に怯えた故の行動にしては実に平穏そうな顔で学舎に帰ってこなかった彼女を心配する様子もなく、机で仕事なんてのはさ」


「ち、違う。私じゃない、私は関係ないんだ」


「関係ない? ふむ……僕にはどうもそうは思えないんだ」


 激痛に苦しむルターの前にパラパラといくつかの封筒が舞い落ちた。

 どれもこれも見覚えがある。

 途端、ルターの顔が強張りを見せた。


「アメリに手を出したばかりか事もあろうに僕をも巻き込んだ愚かな狂人の部屋にこんなものがあったんだ。これを送ったのはキミだろう?」


「なっ……あ……」


「一通り目を通したが、お世辞にも気持ちの良い文章なんかじゃないね。実の妹に向けた狂人的な内容、まるで恋人に向けたかのように甘い夜を思い出すような文章、見ていて少し気分が悪くなったよ。いや、僕にも姉がいるんだが、どうも重ねてしまったんだ」


「エ、エミー……」


「その中にどうしても見過ごせない文面があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。状況と僕の目にした結果から考えるにこれはアメリとブサイクあーなんだ……そう、ロイドのことなんじゃないのかな?」


「エミーに……エミーに手を出したのか!?」


「……質問しているのはこっちなんだけどね」


 突如、豹変したように鬼気迫る形相で声を張り上げたルターにナルキスは嘆息。呆れたように首を振って答えた。


「殺しちゃいないさ。ただ、この美しい僕を事もあろうにあんな醜い人形に、ただのひと時でも変えた彼女には相応の罰は与えたけどね」


「罰……いったい……何を……」


「キミの愛しの彼女の手はもう握れないかもしれないな。いや、彼女が愛した人形が何とかしてくれるかもしれないし、一概にそうとは言えないか」


「キサマァァッ!!」


「大声を出すことを許可したつもりはないよ」


 ルターをその場に縫い付けるかの如く、血溜まりに置かれた手の甲をナルキスの剣が貫いた。


「うぎぃぃッッ!」


「喉を切り裂かなかっただけ感謝してほしいな。僕にはまだ聞きたいことがある。キミが死ぬのはそれからでも遅くはないだろう?」


 痛ぶるようにナルキスは剣を捻る。

 一介のギルド所属者と言えどもあまりに冷酷。顔色ひとつ変えずに行われる尋問と拷問、ナルキスがルターの目にどう映ったかは言うまでもない。

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