表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/231

突きつけられた冷たい刃

 ここまで寸前で踏ん張っていたのが、クローゼットの人形達を見てから事切れてしまったのか小さな体をさらに小さく丸めるアメリにしがみつかれながら階段を上るのは実にし難い。一段上がるごとに軋んだ音を発するのに一々、怯えて服を握る手に力が込もるのはもっとだ。


「……いい加減、自分で歩いてくれないか?」


 元々、単独行動が主だったナルキスにとってそれはストレスでしかなく、見るからに不機嫌そうに顔をしかめる。


「イヤッ!」


 ふるふると首を横にきっぱりと言い切るアメリに呆れて次に繋ぐ言葉もなく、ナルキスは言葉通りお荷物を抱えて階段を上りきることになった。


「さて……部屋は2つ。セオリー的に考えると敵の襲撃に備えられる奥の部屋が怪しいが……」


 階段の先には短い廊下と左右に扉が1つずつ。間違った方を選べば自分たちを追っての人形と勘違いし、隙を突いて逃げられる可能性もある。

 戦力とは到底、呼べないアメリと別行動をするわけにもいかない。

 ナルキスは黙って、足元に視線を落とした。

 やはり、子供の足跡に並ぶように人形らしき足跡が埃のたまった廊下にくっきりと残されている。人形を磔にした護衛らしき者の足跡はなし。ロイドとはまったく関わりがないのだろうか。たまたま、逃げ果せたその先がすでに犠牲となった自警団の痕跡に過ぎなかったというのか。

 足跡が続いているのは奥の部屋。逃げ惑う子供が足跡の偽装なんて出来るはずもないのが当然。

 ナルキスはアメリの口を手で押さえ、残った手は腰の剣に、いつでも応戦できるような態勢を取りつつ息を潜めて扉に近付く。

 そして、アメリに騒がぬよう目で牽制をかけつつドアノブをゆっくりと回し、扉を開いた。





「……ロイド……くん……」






 2人が扉の先で見たものは紛れもなく、ナルキスがブサイクくんと呼ぶ少年とその傍に座る浅黒い肌の修道服を着た少女が部屋の隅でこちらを睨みつける姿だった。


「アメリちゃん……アメリちゃんっ!」


「ロイドくんロイドくんロイドくんっ!」


「おい、騒ぐな。物音で人形に駆けつけられたらどうする」


 抱き合い、手を取り合い、さながら遠く離れた恋人が再会を喜ぶように涙を流す2人をナルキスは実に思いやりのない言葉で黙らす。


「助けに……助けに来てくれたんだね……ぐすっ」


「ブサイクが泣きベソをかくと一層にブサイクが増すぞ」


「もうっ! おにいちゃんっ!」


 声を潜めながらも変わらぬ日常のように悪態を吐くナルキスとそれを咎めるアメリ。失いかけたそれをその目、その耳で感じロイドは大粒の涙をボロボロと零した。


「今なら、今ならおにいちゃんのひどい言葉も……なんだか……うれしいや」


「醜いと呼ばれて涙を流し喜ぶとはキミ、変わってるな。頭がおかしいんじゃないかい?」


「……おにいちゃん、ぶつよ」


 幼子とは思えない眼力にたじろいだのを誤魔化すようにナルキスは肩を竦めて首を振った。


「ロイドくん、大丈夫だよ。もう大丈夫、おにいちゃんね、こんなのでもすっごいつよいんだよ」


「こんなのとは失礼だな。見た目通り、だろ」


「アメリちゃんがおにいちゃんを連れて……ぼくを助けに……?」


「あぁ、額もわからない不明瞭な報酬を餌に騙されてな」


「おにいちゃんってね、イジワルだけど本当はすっごい優しいんだよ。あのねーー」


「ーーふふっ」


 それまで聖母のように優しい微笑みで3人のやり取りを眺めていた修道服の少女が口を押さえて声を漏らした。

 褐色の肌に真っ黒な修道服、ルビーのように赤く輝く瞳が特徴的なブロンドの少女。


「おねえちゃん、何がおかしいの? わたし、変だった?」


「ううん、なんだか微笑ましいなぁってね。まるで家族みたいに暖かくて、眩しくて」


「それならおねえちゃんもぼくたちの家族に入れてあげる。だってずっとぼくを守ってくれてたんだもん」


「おい、僕を勝手にキミみたいなやつと家族にするな」


「ロイドくんを守って?」


「うん、怖い人形さんたちに追いかけられてたぼくを助けてくれてね。不安だったけどずっと側にいてくれてね」


「ほう、キミみたいなブサイクを命を賭して守るとは相当な物好きもいたものだな」


 怪訝そうにナルキスは修道服の少女を見遣る。

 何故、ロイドを救ったのか。それじゃない。何故、こんなとこにこの修道女が迷い込んだのか、だ。

 無差別に拉致監禁を行うエミージュのこと、何ら不自然でもないことのように思えるが、違う。修道女に見えてそうじゃない。そう感じさせる何かがこの少女にはあるのだ。


「いえ、自警団に所属している身、国民を守るのは当たり前のこと。申し遅れました、ギルド『ヴェルジニタ修道院』所属、レイラと申します」


 目を伏せて手を組み、祈るような形で頭を下げたレイラ。ヴェルジニタ修道院と言えば誰しもがその名を知る上級ギルドの一角。聞き及んだその名に子供2人も感嘆の声を漏らしたその瞬間、レイラの喉元に冷たく鋭い金属が突きつけられた。


「……おにい……ちゃん……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ