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オバケ退治の報酬はトカゲさん


「ちょっと待て。キミは今、『攫われた』ではなく『消えた』と言ったか?」


「え? う、うん。ロイドくんが消えちゃったの。それがどうかしたの?」


「どうもこうも大違いだよ」


 他国から多種族が集うこのギルティアの治安はお世辞にも良いとは言えない。世界的な犯罪者たちが身を隠しにも来るし、違法商人の住処となっているとも聞く。そんな邪悪な無法者たちが溢れかえっているこの街では人攫いなどナルキス自身、見かけたことはないがよくあることで、その証拠にギルドへの依頼書には連れ去られたなにがしをなんて物もよく見かける。

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔できょとん、と首を傾げた少女を捨て置き、ナルキスは無言でハンカチを取り出すと自身の衣服を丁寧に拭いた。


「なんだその目は。……そうかキミもこのハンカチが使いたいのか」


「……ありがと」


 差し出されたそれを睨み、少女は思い切りナルキスの袖で鼻をかんだ。


「なっ! キサマ! これだから子供は嫌いなんだ!」


 少女の顔を振り払い、ナルキスは再度丁寧に汚れた袖を拭う。


「それで?」


「そ、それでってなに?」


「何故、親でもなく知り合いでもなく僕なんだ? 助けを求めるならまずそこだろう」


「だって……おにいちゃんギルドの人なんでしょ?」


 そう言って少女はナルキスの腰に差された剣に視線を落とした。


「ギルドの人はつよいからなんとかしてくれるってママが言ってたもん」


「いかにも僕はギルドあげた……こほん。ギルド所属者だし、強いがそれならば他にも頼る相手はこのギルティアにはごまんといるだろう」


「だっておにいちゃんしかギルドの人なんて知らないし! ……それに……」

 

「それに、なんだ? ハッキリ喋りたまえと何度も言っているじゃないか」


 目を伏せ、口ごもる少女にナルキスが冷たく言い放つ。すると、意を決したように顔を上げ、




「相手はオバケだから!」




小さな拳を振ってそう叫んだ。


「……なるほど、悪霊種の類いか。確かに相手が実体を持たない魔物ではお前の親たちやそこらのギルド所属者じゃ返り討ちに遭うのが関の山だろうな。……ん、なんだその顔は?」


「おにいちゃんは笑わないの?」


「笑う? 何故、面白くもない魔物の話をされて笑わなくてはならない。むしろ、キミのその滑稽な質問にこそ笑ってしまいそうだが?」


「だって! だって、大人にオバケのお話をするとみんな大笑いしてバカにされるんだもん!」


「はっ、無知とはおめでたいな。キミの親は知らないだけだ。この世にはドラゴンなんて反則じみた生物もいるし、とても生物とは呼べるような風体をしていない魔物だっている。悪霊ぐらいいても何ら不思議ではないだろう」


「おにいちゃんは……オバケを見たこと……あるの?」


「キミの言うオバケと言うのに合致しているかはわからないが悪霊種ならあるな。何度か退治したこともある。ふわふわと気味の悪く崩れた顔は醜悪以外の何物でもなかったな」


 馬鹿げた子供の作り話のように思える話をナルキスは淡々と返す。

 それを眺める少女の瞳が希望に光り輝いた。


「あのねあのね! おにいちゃんならね! そのオバケもたおせるの!?


「ふざけるな」


 ナルキスは優雅に髪をかきあげてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「余裕だ。僕を誰だと思っている」


 もしかしたら、いや絶対にナルキスなら友達のロイドを救うことができるかもしれない。

 ナルキスの頼もしい言葉を聞いて少女の顔にパッと花が咲いた。


「おにいちゃん! ロイドくんをたすけてください!」


 涙ぐんだ声。小さな頭を下げて少女は必死に頭を下げて懇願する。

 ナルキスはじっとその姿を見下ろし、口元を微かに上げて手のひらを胸の前に突き出した。






「断る」






「…………へ?」


「なんだ、その間抜けな面は。だから断ると言ったんだ」


「なんで……どうして……」


 少女の目にまた、大量の涙がたまり始める。


「理由がないだろう。そのロイドとか言うやつを僕は知らなーー」


「ーーおにいちゃんがブサイクって悪口言った子だもんっ!」


 視線を上げてナルキスはその顔を思い出し、あぁ、と頷く。


「攫われたのがあのブサイク君ならば尚更だ。きっとキミの言うオバケも彼のブサイクさにビックリして手も出さないだろう」


「なんで!? なんでそんなひどいことばっか言うの!?」


「僕は忙しいんだ。ギルドを通した正式な依頼でもなければ、報酬金もない仕事なんか……」


「お金ならあるもん。……おこづかいをずっと大事にためてたもん」


「子供の小遣いなんてたかが知れてる」


「あるもん! トカゲさんの貯金箱にたくさんたくさん入ってるもん!」


 目に涙いっぱいを溜めてむぅ、と小さな唸り声を上げる少女。どうやら何がなんでも食い下がるつもりらしい。


「……まぁ、ないよりはマシか」


 根負けしたようにナルキスは大きなため息をつき、頭を振った。


「キミの名は?」


「……アメリ」


「わかったよ、アメリ。キミの依頼を引き受けよう」









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