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不気味なウワサ

◇◆◇




 どのギルドに属することもなく、守られるわけでもなくギルティアには世界有数の美術館が存在している。各国の名の知れた芸術家たちの作品が多く展示されており、人々を魅了する。そんな美術館だ。

 しかし、展示物には曰く付きのものもしばしばあり、中でも恐ろしくも不気味な噂が流されているのが小さな展示室に飾られた1枚の絵画。

 誰が描いたものなのか、何故作者不明の絵画が世界でも名の知れたこの『エミージュ美術館』に飾られているのか。長くここに勤めている学芸員でさえそれは知らない。館長の知人の作品だとか骨董市で見かけたお気に入りの品だとかそんな作品だろう、と大して気にもかけずそれはそこに在り続けている。

 何よりも不思議なのが、名の通った美術家たちの作品と並べても決して見劣りしないということ。

 人間に似た珍妙な人形たちが送る日常風景を描いたその絵画は日に形を変えているような目新しさと何か吸い込まれてしまうような不思議な魅力があるのだ。

 そしていつしか魅力的でありながらも不気味なその絵画に1つの噂が立ち始めた。


『あの絵画が人を飲み込む様を見た』


『絵の中に魔女が住んでいる』


 など、誰が発端かもわからない眉唾な噂。子供の出来の悪い作り話かもしれない。

 ただ言えるのはそれ程までに作者もわからないこの絵画には人々の目を集める何かがあるのだろう。




◇◆◇



「何故だ……何故、こんなにも完璧な僕が仕事を追われなくてはならないんだ」


 ギルド『あげたてメンチカツ』が発足してからしばらく。ギルドとして何度か依頼をこなす事はあれどもやはりそんなに甘いものではなかった。下級ギルドでは協会からの活動支援金も得られず、大人4人と子供1人の5人で報酬金のみでの生活をするには極めて難しいものがあった。

 主だった収入源はフランクの店の売り上げで、だが全員を賄えるほど繁盛しているわけでもない。最近ではユウとシュシュが移動販売と名して荷車を押し、惣菜類を売る屋台を出しているが、そこさえもナルキスの口の悪さが災いしてシュシュに追い出される始末。

口数の少ないマリーでさえも問題なく手伝える仕事なのに、とぐちぐちと文句を言われ逃げ出すようにその場を離れたナルキスは1人寂しく街道を歩きため息を吐いた。


「クソっ、あのオヤジめ。何故、僕が怒られなくちゃならないんだ。ブサイクにあの髪飾りは絶対似合わないとはっきり言ってやっただけじゃないか」


 それだけじゃない。

 ユウたちの屋台を離れ、ナルキスなりに活動資金と生活費を稼ごうと日払いの仕事に行ったりもしてみたが、やはり上手くいくことはなく。店主だけでなく、客をカンカンに怒らせてしまい行く働き先々で数分も経たずして追い出されてしまうのだ。


「大体、僕はユウ様を護る騎士だ。商人になりたいわけじゃない。何故、惨めにも客に媚びへつらい小銭を稼がないといけないんだ」


 没落したとはいえ、名家出身のナルキスに汗水を流して働くというのはどうも理解できなかった。

 不貞腐れていつもの水路横に座り、小石を水路に投げ入れる。ぽちゃん、と小さく寂しげな音が鳴り波紋が広がっていくのをぼんやりとナルキスは眺めた。


「はぁ……しかし、シュシュくんに馬鹿にされるのも癪だし、何よりこのままではユウ様に愛想をつかされてしまうかもしれない。僕のことを理解してくれるそんな仕事はないものか……」


 精神的に疲れていたこともあり、珍しく弱気な発言を呟いてナルキスはまた1つ小石を手に握った。そして力なくそれを投げ入れようとした時に


「お兄ちゃんっ!」


涙ぐんだ小さな少女の声が後方からぶつけられた。


「ん? ……キミは確か、ブサイクくんと一緒にいた……」


 息を切らし、目にはたくさんの涙をためて顔を真っ赤にした赤髪の少女は振り向くなりナルキスの胸の中に飛び込んできた。


「おい、離れろ。涙と鼻水で服が汚れるだろうが!」


「…………て……」


「なんだ、聞こえないぞ。ハッキリ喋りたまえ。僕はキミみたいな子供と悠長に話をしてるほど暇じゃないんだ」


 小さな身体を小刻みに震わせて、少女はナルキスの胸に顔を埋めたままギュッと服を握る手に力を込めた。


「たすけてっ! お兄ちゃんたすけてっ!」


「助けて? だから、僕は忙しいと言っているだろう。子供のイジメやケンカの仲裁をするほど暇じゃーー」


「ーーと……がっ! ともだち……が……。ともだち……が……消えちゃったの!」


 ナルキスに抱かれ、安心をしたのか堰を切ったように大粒の涙をぼろぼろとこぼして少女は悲痛な声を上げた。

 小さな手に痛いほど握り締められ、目は真っ赤に染まりウソをついているようにもからかっているようにも思えないその表情にナルキスはむっと眉をしかめた。

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